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第11話

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 そんなことを考えながら、俺はノートパソコンを開いて電源をつけた。

「それで、これからの予定についてでしたよね? まずは実家のご挨拶からですか」
「冒険者の予定だバカ。Sランク冒険者を目指すっていう最終目標はあるが、それに向けての道順をちゃんと考えないといけないだろ」
「そうですね……闇雲に目指していて到達できる領域ではないですもんね」

 そういうことだ。
 口で言うのは簡単だが、道順はしっかりと練らないといけない。
 Sランク冒険者になりたいという人はたくさんいるが、それが難しいことは冒険者活動をしていたのだから俺だってよく知っている。
 才能だけではなく、時の運も必要だというほどに難易度が高いんだ。

「といっても、今は大まかにいつまでにどこの迷宮を攻略していくかとかの打ち合わせだ。まあ、別に明確にスケジュール通りに行くとは思ってないが、あくまで最短でうまく行った場合の予定を考えておこうと思ってな」

 まだ俺はアイフィのことをそこまで知らない。
 ギルドに新人冒険者としてやってきて、しばらく専属契約を結ぶために職員を探して活動していたのは知っていたが、あくまでそれだけ。
 だからまあ、今回は簡単な打ち合わせだ。

「……Sランクの試練の迷宮まで、どのくらいの時間がかかるものですか?」
「能力のある冒険者で一年から二年程度だ。あとは人によって様々だ。全盛期が思ったよりも長く、五年かけて確実に上がる人もいれば、思ったよりも短くて……たぶん、順調に成長していればいけていただろう人というのもいる」

 そこはもう、個人差が大きい。
 元々の才能はもちろんだが、女神様の加護で大きく能力が伸びる人もいる。
 才能なのか、努力が実ったのかはわからないが、とにかく諦めずに頑張り続けるしかない。

 専属契約は一年で終わるため、そこまでにSランク冒険者になれなければ、そこから先は一人で目指していくことになる。
 といっても、専属契約がなくなっても全ての関係がなくなるわけじゃない。
 個人的にやり取りや支援をすることはあるので、アイフィ次第だ。

「……つまり、早ければ早い方が挑戦するチャンスも増えるってことですよね?」
「もちろん、そうだ。ただ、体への負荷もそれだけお大きくなる。焦っていいことはないぞ」

 アイフィがいいたいのは、最短でAランク冒険者まで駆け上がり、Sランク冒険者になるための準備をしたいということだろう。
 だが、迷宮に一度入れば、それだけ体への負荷は大きくなる。
 基本的に、迷宮は一日入ったら数日は入らずに体を休める、と考えておいた方がいい。

「……Sランク冒険者になるためなら、覚悟はできていますよ。リアンナ家の一人として、他の誰にも負けたくはありませんし」

 負けず嫌い、なのはいいことだがアイフィのそれは少し過剰だ。
 本人も少し話していたが、家からあまり期待されていない立場らしいからな。
 見返したい、という気持ちが強いのだろう。
 そう思うことは悪くないが、気持ちばかりが空回りしては意味がない。

「焦る気持ちもあるのは分かるが、焦ってもいいことはないからな。落ち着け」
「……はい」

 返事はしてくれたが、どこまで分かってくれているかは疑問だ。
 だって、ちょっと頬を膨らませてるし。

 とりあえず、無茶だけはしないように俺がいるわけだし、そこは俺が気を配る必要があるだろう。
 ただ、アイフィの負けず嫌いな部分は良い部分もあるので、そこはうまく操縦していかないといけない。

 ……指導者の役目は、性格を見極め、その人に合ったやり方で教えていく必要がある。

 叱っても大丈夫な子には、叱ることもあるし、メンタル面に不安がある子は優しくするなど、相手に合わせて多少自分の接し方を変えていく必要がある。
 俺が何度か、専属契約している職員の手伝いをしているときに教えてもらったことだ。

「Sランクになっても……そこで終わりじゃない。Sランク冒険者としてしっかり活躍していくのと、Sランク冒険者になって終了した冒険者の評価はまた変わってくる。その意味は分かるな?」
「はい、もちろんです」
「それに、冒険者としての活動期間っていうのはそもそも短いんだ。その後の人生はまだまだ続いていくんだ。体は、大事にしないとな」
「……そうですね。ショウさんとの結婚生活もありますしね」
「ないが?」
「結婚生活についての打ち合わせはまた今度にしましょうか。Sランク冒険者になるためにも、まずはまずはGランク迷宮を突破しないとですよね」

 おいこら。勝手に結婚生活の話を後回しにするんじゃない。
 とはいえ、アイフィが話していることも間違いではない。
 俺は部分的に頷きながら、起動していたノートパソコンを操作し、ギルド関連のページを開く。

 そこから、今後の迷宮に関してのスケジュールを開いた。
 ギルドのホームページには、日本と異世界すべての試練迷宮のオープン時期が書かれていた。
 ……試練迷宮というのは、常に出現しているわけではない。
 ソシャゲのイベントのように、一定の期間でのみ開いているのだ。

 だから、時期によっては挑戦できない試練迷宮もあるため、冒険者活動をする上ではこの情報を調べておく必要がある。

「試練迷宮に関しては、一度挑戦したら同じ場所には二度と入れない、のは知っているな?」
「もちろんですよ。だから、失敗したら別の場所に挑戦するしかないんですよね?」
「そうだ。おまけに一人で迷宮に入って攻略する必要があるわけだから、準備はしっかりとしないといけないんだ。例え、Gランク迷宮であってもな」

 試練迷宮は複数人で挑戦することは不可能だ。仮に、一緒に入ったとしても別の空間に飛ばされてしまうらしく、どうやっても合流することはできない。
 そして、一度入ったあと、仮に何か忘れ物をして外に戻りたいとなって外に出てしまうと、二度とその迷宮に入ることはできなくなる。

 だからこその試練だ。この迷宮を一人で攻略し、最奥のボスを討伐した先にある部屋にて、女神像に祈りを捧げることで加護を得て、より強い力を手に入れられる。

 Gランク迷宮を突破すれば、Fランク迷宮に挑戦できる程度の加護が与えられる。
 ……つまりまあ、できるのならFランク迷宮にいきなり挑戦しても問題ないが、それで突破できる人はおそらく1%にも満たないほどだろう。

「お言葉ですが、私はこれでも訓練は受けてきました。Gランク迷宮くらいであれば、他のリアンナ家の人も突破していますし、問題ないと思います」

 リアンナ家で、誕生日の関係でアイフィより先にデビューしていた子たちがわりとすぐにGランク迷宮を突破しまくっていたので、アイフィも意識しているようだ。
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