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第10話
しおりを挟む「そもそもだ。今俺に感じている気持ちっていうのは、昨日みたいな危機的状況で助けてもらったっていう感謝や憧れを恋心を勘違いしている可能性がある。あまり、それに引っ張られるのはよくないと思うぞ?」
吊り橋効果、的なやつではないだろうか、と俺は思っている。
俺がもしも、逆の立場で助けられたとしたら、恐らくは同じようにドキドキはしていただろう。それはきっと、恋ではなく感謝や憧れではないだろうか。
「私、昨日ショウさんの部屋に呼ばれたときに、スマホで録音していたんです」
「……何かあったときに証拠が残るようにしていたんだな?」
何も考えずに、ついてきたわけではなかったのか。
まあ、普通警戒するよな。
「いえ? ショウさんの声を録音して、私用のボイスとして編集するためです」
「何やってんの?」
「好きな人の声に名前を呼んで、おやすみって言ってもらえるの、凄い落ち着いて眠れるんですね」
そんなこといった覚えは……あっ。
昨日送った時に、おやすみ、とか言っていたような気がする。
知らぬ間に、録音され、彼女の安眠用ボイスとして改造されているなんて……お、恐ろしい子だ。
「そういうわけで、少なくとも現時点で私はショウさんの声を聞いて落ち着けるってわけでして……私が落ち着ける声の人ということは好き、ということに繋がると思うんですよ。だから、勘違いではないと思います!」
「それは……推し、ってやつなんじゃないのか? 好きというか、ファン的な好意というか……」
「でも、ファンの人たちってワンチャン結婚できるなら結婚したいって思うものじゃないでしょうか?」
「いや……まあ、どうなんだろうな?」
俺も憧れていた人とかはいたけど、雲の上すぎてそんなことを考えることはなかった。
というか、俺の憧れの人って同性の冒険者とかそういう人が多かったし。
「もう、いいじゃないですか。勘違いだったら私だけの問題なんですから。そんなに私に好かれるのが嫌なんですか?」
「……リアンナ家の令嬢は何かと目立つし、変なことをマスコミに書かれたらどうするんだ?」
今後、迷宮攻略を進めていけば、恐らく彼女だって記事に書かれるときも出てくるだろう。
「カップル系専属契約で売り出すっていうのも一つの作戦じゃないですか?」
「作戦じゃないです。……とにかく、今後の予定を考えるために、一度どこかで話をしようか」
「それなら、ショウさんの家でどうですか? 部屋も片付けたいですし……」
「……いや、部屋の片付けは俺の問題だ。気にするな」
「これから、ショウさんの家で打ち合わせする機会もあると思うんですよ。その時に部屋が汚かったら嫌じゃないですか?」
「……んー、まあそうか」
確かに、打ち合わせのたびにどこかの店を利用したり、ギルドの会議室とかを借りるというのも面倒だ。
事前申請も必要だしな。
「……分かった。それじゃあ、家に行くか」
俺は彼女の提案を受け入れ、家へと向かった。
俺の部屋へと着き、すぐに掃除を開始する。
……よく考えると、専属契約をして最初の仕事が掃除って酷くないだろうか?
考えるのはやめておこう。俺は首を横に振って、なるべく積極的に片付けを行なっていく。
少しでも、アイフィの仕事を減らすために。
アイフィは令嬢のわりに……というのも偏見なのかもしれないが、かなりテキパキと掃除を行っていく。
本人に聞いたところ、掃除が好きだそうだ。
というか、皆冒険者として活動するようになったら一人暮らしになることが多いので、最低限のことはできるように教えられているそうだ。
家から、資金の援助などはしてもらえるそうだが、それでも基本は一人での活動になるんだな。
一時間もすれば、部屋のゴミはすべてまとめられ、入居した時のように綺麗な部屋になった。
「明日ゴミの日なんですから、忘れずに捨ててくださいね」
「……分かってる」
掃除で出たゴミの入った袋は、玄関にまとめられている。
彼女が俺にわざわざそう言ったのは、おそらく俺がゴミ捨てを面倒がったり、忘れたりすると思ったからだろう。
見事な観察眼だ。
二人がけようのソファにアイフィを座らせる。
昨日同様俺が目の前に座るために座布団と、あとはこれからのことを打ち合わせするためにノートパソコンを持ってくると、アイフィはとんとんと隣を叩いていた。
「隣座ってください」
「いや、隣同士で座るのは距離が近すぎるだろ」
ソファといってもそこまで大きいわけじゃない。二人で並ぶと、わりと窮屈に感じるだろう。
「別にいいじゃないですか。私、気にしませんよ? それとも何ですか? 何か手を出すつもりなんですか?」
「いや、そんなことはないが」
「ですよね。私はチャンスさえあれば手を出すつもりですけど、ショウさんはそういうことはしないですよね。だったら隣座ればいいじゃないですか」
「今の発言で隣に座る気がなくなったんだけど」
「冗談です。私だけソファだと何だか私が意地悪しているみたいじゃないですか。あっ、もしかしてそういうのが趣味でしたか? 分かりました。勉強してきますね」
「趣味じゃない。分かった分かった」
俺は警戒しながらアイフィの隣へと座る。
……なぜ、俺が警戒しているのか。普通立場逆ではないだろうか?
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