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第8話
しおりを挟む……ボルドルはなんだかんだ言って優秀だ。
まず、数の少ない男の冒険者で、おまけにBランク。
ただし、育成の経歴はあまりよくない。
これまで、専属契約を何名かとっているのだが、その弟子たちはそこまでの活躍をしていない。
これまでに同時期で対応した子も含め、五名と関わっているが、最高はDランク冒険者だ。
二人に至っては、Gランク冒険者にもなれなかったため、評価は低い。
……ボルドルが、才能頼りの冒険者生活をしていたというのも原因の一つだ。
一緒に行動していたから分かるが、ボルドルは表現が感覚的なんだよな。
「ばーとやって、ぶわーっとやるんだよ!」とか、そんなことを言ってはいつも誰かと喧嘩していたものだ。
技術はあるのだが、それを言語化できないのと、あと基本的に適当なんだよな。
アイフィは俺の経歴をじっと見て、何か考えているようだ。
もしかしたら、考え直しているのかもしれない。それは全然別に構わない。
アイフィたち冒険者にとって、専属契約は文字通り人生を左右することになるからな。
昨日みたいなテンションに身を任せての行動はあまりよろしくない。
「……この五年間、何をしていたんですか?」
「昨日、話した通りだ」
「……そういうことですか」
俺が友人とともに依頼を受けた村に行ったところ、犯罪組織の連中におそわれ、そのまま誘拐されてしまう。
それから五年間、実験体として使われ、運よく逃げ出すことに成功し、今に至る。
「……おまえ、五年間何をしていたか話したって。冒険者嫌になって、逃げ出したんだろ?」
ボルドルがじとっとこちらを見てくる。
……ボルドルと、このギルドで再会したときに俺は、「依頼失敗して、冒険者が嫌になって逃げた」と話している。
それからか。ボルドルが俺に対して当たりが強くなったのは。
真実を話せば、かつての友人であるボルドルも巻き込む危険があったため、俺は話せなかった。こいつ口軽いし。
本当は、冒険者やりたかったんだけどな……。
研究所から脱出したときの年齢は二十歳を超えていた。
……それから活動するわけにはいかなかったんだよな。
それからは友人の遺言の通り、このレールゴルの街にてギルド職員の採用試験を受け、合格。
それから、ここで一般職員として仕事をさせてもらっていた。
俺が詳しい説明をしなくとも、昨日大まかに話していたのでアイフィも理解したようだ。
「やっぱり私、ショウさんと契約を結びたいと思います」
「い、いやなんで!?」
ボルドルは、断ってくれると思っていたのだろうが、今更アイフィはこのくらいで止まってはくれない。
「半年でDランクまで上がるというのはそう簡単なものではありません。それに、なんとなく私はショウさんがいいと思いましたので。そういった、シックスセンスというのも大事、ですよね?」
「……」
ボルドルは悔しそうにこちらを睨みつけてから、舌打ちを残して去っていった。
いや、去っていくな。おまえ今仕事中だろうが……。
俺はため息を吐きながら、アイフィに専属契約の書類を渡す。
彼女はすぐに書き始めていき、必要事項を記入し終えた。
俺は彼女から書類を受け取り、それから俺の書く必要があった場所を記入していく。
すべてを埋め終えたところで、俺は席から立ち上がる。
「あとはこれをギルドリーダーに提出したら、専属契約になる。……まだ引き返すなら今だぞ?」
「大丈夫です。行きましょう」
「……」
アイフィの決意は固そうだ。
ここまできたら、腹を括るしかないだろう。
俺は他のギルド職員に声をかけ、勤務を一時的に交代してもらう。
「良かったな、ショウ。ちゃんと育てるんだぞ?」
「専属契約、頑張ってねー」
年配の女性職員たちに背中を押されるようにして、俺たちはギルドリーダーがいる部屋へと向かっていった。
通路を歩いていくと、隣にならんだアイフィが嬉しそうにこちらを覗き込んできた。
「さっきのボルドルさんと数名の職員以外は、なんだか、私たちのこと歓迎してくれてましたね」
「……まあ、年配の女性職員とかはな。もう専属契約とかをするっていう歳でもないしな」
専属契約を結び、自分の箔をつけたい人や給料をあげたいのはどちらかというと二十代、三十代の職員だ。
年齢が上がってくると、そういった野心を持つ人は少なくなっていく。野心がある人は、若いうちに専属契約で成功し、別の仕事を始めていることが多いからな。
そして、冒険者に女性が多いということもあり、必然的に女性が多くなりがちな職場なので、謙虚にしておけば結構可愛がってもらえるのだ。
特に俺はさらに数少ない地球出身の職員なので、物珍しさに色々な人に声をかけられる。
それが、今の俺の職場での立ち位置だ。
ギルドリーダーがいる部屋の扉についたところで、俺がノックをする。
「ん? 誰だ?」
「ショウです。専属契約関係のお話があってきました」
「あー、ショウか。入れー」
そう言って、ギルドリーダーが声をかけてきたので中へと入る。
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