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第36話
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何か短く呪文を呟くと、王子の首に奴隷の首輪が巻き付くようについた。
「うい!? お、おい何をしている! さっさと取り外せ!」
「特注の奴隷の首輪だな。良い効果だ。おすわり」
騎士の鎧と兜に身を包んだ男がそういうと、王子はその場でお座りをした。
あら、お上手。そうではなくて……。
「貴様、何をしている!」
騎士の二人が慌てた様子で鎧の男――エリックへと迫り、剣を振りぬく。
だが、エリックはその騎士たちの攻撃をさっとかわし、鎧の隙間へと剣を振りぬいて二人を仕留めた。
「ば、馬鹿な!? 近衛騎士だぞ!?」
「そ、それをあっさりと倒すなんて……」
エリックの登場に、場の人々が慌てた様子で声をあげる。
「こ、殺せ! その反逆者をさっさと殺さないか!」
激高した王子を見て、エリックは声をあげた。
「言っておくが、俺が死ねばおまえも死ぬようになってるぞ?」
「なああ!?」
「俺と相打ちする覚悟はあるか、王子様?」
「……」
顔を真っ青にしたケイナンは、それから奴隷の首輪へと手を伸ばす。
しかし、首輪に触れることもできないようで、彼は苦しみだした。
「お、おのれ……っ! おい、騎士共! そいつを生け捕りにしろ!」
エリックへと騎士がじりじりとにじりよっていく。
総勢五名の騎士に囲まれたエリック。
五名の騎士たちがエリックへと飛び掛かる。
……だが、次の瞬間にはその五人の騎士は倒れていた。
「弱いな」
エリックは呟くようにそういってから、私のほうへとやってきた。
「アーニャ、魔法をぶちかましてくれないか? 壁を破壊するくらいのものだ」
「……分かりました」
すぐに私は魔法を用意する。というか、せめて抵抗しようと思い、いくつか魔法を用意していた。
「お、おい! その馬鹿たちを止めろ! 何をやっている無能騎士ども!」
お座りのまま声を荒らげるケイナンに、騎士たちも慌てた様子で動く。
だが、元々それほど多く用意していたわけではない騎士たちは、エリックに一瞥されて怯んだ様子で固まる。
そこに、私は魔法を放った。
水魔法だ。
現れた水は川のように大量の水で、周囲を押し流していく。それに巻き込まれた彼らは皆離れたところまで流されていく。
同時、壁を破壊すると……銀狼のポチが姿を見せた。
その全長は五メートルほどはあった。
「ぽ、ポチ!」
「ワン!」
久しぶりにみたポチの元気な姿に、私は嬉しくなった。
「アーニャを助けに行こうとしたとき、そのポチが吠えてきてな。なんとなく、ついてきたいのが分かったから助けたんだが……正解だったみたいだな」
「ワン!」
「ありがとう、と言っているようですね」
「分かるのか?」
「勘です」
だけどポチは私の声に反応して嬉しそうに尻尾を振っていた。
「甘えているところ悪いが、今は急いで脱出する必要がある。すぐに馬に乗って――」
「ワン!」
エリックがそういったとき、ポチが身を屈める。
「どうやら、乗れといっているようです」
「……大丈夫なのか?」
「ワン!」
エリックは少し不安そうに眉間を寄せてから、その背中に乗る。
私も乗ろうとしたけど、意外とポチの体が大きくて乗るのに苦労していると、エリックが手を貸してくれた。
抱きかかえられるように引き上げられ、ポチの背中に座った。
「どうして助けに来たのですか?」
「助けに欲しそうな顔をしていたからな。それに、まだ達成報酬ももらっていないからな」
「……そうでしたね。それでは、また旅に行きましょうか」
私の声を合図に、ポチは大きく跳躍する。
王都の家の屋根を器用に踏みつけ、そのまま軽やかに王都を飛び出した。
「……振り落とされかねない速度だな」
エリックは兜を脱ぎ捨てながら、風で揺れる髪を押さえていた。
私はそんな彼の横顔を眺めながら、これからの旅へと思いをはせていた。
あとがき
新作書きました! 良かったら見ていただけると嬉しいです!
悪役令嬢の使用人 ~没落予定の家の使用人に転生してしまった私は、国外追放される悪役令嬢なお嬢様を正しく導きます!~
・乙女ゲーの悪役令嬢の使用人になってしまった主人公のお話です!
薬屋の聖女 ~家族に虐げられていた薬屋の女の子、実は世界一のポーションを作れるそうですよ~
・姉たちに虐げられている主人公が、最高のポーションを作りあげ公爵様に目をつけられてざまぁする話です。
無限再生の超速レベルアップ ハズレ才能「再生」のおかげで不死身になりました ~パーティー追放され、無残にも死にかけた俺は這い上がる~
・妹思いの主人公がパーティーに置き去りにされ絶望する追放成り上がり物です!
いじめられていた俺は自宅ダンジョンで世界最強になっていた 陰キャ高校生いじめっ子をボコボコにできるようになりました
・自宅にダンジョンが出来た主人公がのんびり攻略する感じです。
「うい!? お、おい何をしている! さっさと取り外せ!」
「特注の奴隷の首輪だな。良い効果だ。おすわり」
騎士の鎧と兜に身を包んだ男がそういうと、王子はその場でお座りをした。
あら、お上手。そうではなくて……。
「貴様、何をしている!」
騎士の二人が慌てた様子で鎧の男――エリックへと迫り、剣を振りぬく。
だが、エリックはその騎士たちの攻撃をさっとかわし、鎧の隙間へと剣を振りぬいて二人を仕留めた。
「ば、馬鹿な!? 近衛騎士だぞ!?」
「そ、それをあっさりと倒すなんて……」
エリックの登場に、場の人々が慌てた様子で声をあげる。
「こ、殺せ! その反逆者をさっさと殺さないか!」
激高した王子を見て、エリックは声をあげた。
「言っておくが、俺が死ねばおまえも死ぬようになってるぞ?」
「なああ!?」
「俺と相打ちする覚悟はあるか、王子様?」
「……」
顔を真っ青にしたケイナンは、それから奴隷の首輪へと手を伸ばす。
しかし、首輪に触れることもできないようで、彼は苦しみだした。
「お、おのれ……っ! おい、騎士共! そいつを生け捕りにしろ!」
エリックへと騎士がじりじりとにじりよっていく。
総勢五名の騎士に囲まれたエリック。
五名の騎士たちがエリックへと飛び掛かる。
……だが、次の瞬間にはその五人の騎士は倒れていた。
「弱いな」
エリックは呟くようにそういってから、私のほうへとやってきた。
「アーニャ、魔法をぶちかましてくれないか? 壁を破壊するくらいのものだ」
「……分かりました」
すぐに私は魔法を用意する。というか、せめて抵抗しようと思い、いくつか魔法を用意していた。
「お、おい! その馬鹿たちを止めろ! 何をやっている無能騎士ども!」
お座りのまま声を荒らげるケイナンに、騎士たちも慌てた様子で動く。
だが、元々それほど多く用意していたわけではない騎士たちは、エリックに一瞥されて怯んだ様子で固まる。
そこに、私は魔法を放った。
水魔法だ。
現れた水は川のように大量の水で、周囲を押し流していく。それに巻き込まれた彼らは皆離れたところまで流されていく。
同時、壁を破壊すると……銀狼のポチが姿を見せた。
その全長は五メートルほどはあった。
「ぽ、ポチ!」
「ワン!」
久しぶりにみたポチの元気な姿に、私は嬉しくなった。
「アーニャを助けに行こうとしたとき、そのポチが吠えてきてな。なんとなく、ついてきたいのが分かったから助けたんだが……正解だったみたいだな」
「ワン!」
「ありがとう、と言っているようですね」
「分かるのか?」
「勘です」
だけどポチは私の声に反応して嬉しそうに尻尾を振っていた。
「甘えているところ悪いが、今は急いで脱出する必要がある。すぐに馬に乗って――」
「ワン!」
エリックがそういったとき、ポチが身を屈める。
「どうやら、乗れといっているようです」
「……大丈夫なのか?」
「ワン!」
エリックは少し不安そうに眉間を寄せてから、その背中に乗る。
私も乗ろうとしたけど、意外とポチの体が大きくて乗るのに苦労していると、エリックが手を貸してくれた。
抱きかかえられるように引き上げられ、ポチの背中に座った。
「どうして助けに来たのですか?」
「助けに欲しそうな顔をしていたからな。それに、まだ達成報酬ももらっていないからな」
「……そうでしたね。それでは、また旅に行きましょうか」
私の声を合図に、ポチは大きく跳躍する。
王都の家の屋根を器用に踏みつけ、そのまま軽やかに王都を飛び出した。
「……振り落とされかねない速度だな」
エリックは兜を脱ぎ捨てながら、風で揺れる髪を押さえていた。
私はそんな彼の横顔を眺めながら、これからの旅へと思いをはせていた。
あとがき
新作書きました! 良かったら見ていただけると嬉しいです!
悪役令嬢の使用人 ~没落予定の家の使用人に転生してしまった私は、国外追放される悪役令嬢なお嬢様を正しく導きます!~
・乙女ゲーの悪役令嬢の使用人になってしまった主人公のお話です!
薬屋の聖女 ~家族に虐げられていた薬屋の女の子、実は世界一のポーションを作れるそうですよ~
・姉たちに虐げられている主人公が、最高のポーションを作りあげ公爵様に目をつけられてざまぁする話です。
無限再生の超速レベルアップ ハズレ才能「再生」のおかげで不死身になりました ~パーティー追放され、無残にも死にかけた俺は這い上がる~
・妹思いの主人公がパーティーに置き去りにされ絶望する追放成り上がり物です!
いじめられていた俺は自宅ダンジョンで世界最強になっていた 陰キャ高校生いじめっ子をボコボコにできるようになりました
・自宅にダンジョンが出来た主人公がのんびり攻略する感じです。
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