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第29話

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 基地を後にした私たちは、宿へと向かっていた。
 魔物たちの進行速度を考えると、恐らくだが戦闘は夜になるということだった。

 そのため、私たちは夜までは宿で体を休めるという話になった。
 その宿に向かっていると途中だった。 
 エリックがこちらを見てきた。

「戦いに参加して、良かったのか?」
「はい。もちろんです。どうしてでしょうか?」
「……国外追放を言い渡した国を助ける戦いだからな。国に恨みはないのか?」
「国は……好きではないですし、大聖女の仕事だって好きではありません。ですが、民を守ることは嫌いではないです。だから、これまで私は仕事をしてきたんですから」
「……そうか」

 大聖女の仕事は好きじゃなかった。別に責任感が強いわけでもない。
 ……でも、それでも私が祈っていたのは国を守るためではなく、こうして人を助けるためだ。

 私たちは宿へと戻ってから夜まで、体を休めた。



 夜、北門へと向かうとすでに準備はできていた。
 私たちも展開されたその外へと向かって歩いていく。

 ……たくさんいるんだなぁ。そんな子どもみたいな考えが浮かぶほどに、あちこちに灯りが見えて人の姿もあった。

 冒険者や騎士がすでに多く待機していた。

「ブレンド、来たぞ」

 エリックがブレンドに声をかける。その隣にはケンリがいて、灯りを持っている。
 ブレンドはエリックのほうへと視線を向け、嬉しそうに微笑んだ。
 
「よく来てくれた、エリック!」
「約束したからな」
「戦いの前に、オレの集めた騎士たちに一言言ってもらってもいいか?」
「……なんで俺が、その仕事はブレンドのものだろう?」
「いいだろう? 別に、ほら来てくれ」
 
 私もその後を追う。

 用意された檀上の前で、騎士たちはびしっと並んでいる。
 ブレンドも言っていたけど、若い騎士が多いね。

 みんなの表情はやっぱりどこか不安そうだ。
 壇上をあがっていったブレンドとエリックが立ち並ぶ。
 それに、感動的な声が上がった。

「あっ、あれって……エリックじゃないか!?」
「え、エリック様!? ど、どうしてここに!?」
「え、エリック様も戦いに参加されるって本当だったんだ……!」

 ……本当に凄い尊敬されているんだなぁ。

『久しぶりだ、エリックだ』

 エリックは受け取った魔道具であるマイクを用いて声を発する。これは設置した魔石を通して、音を響かせる道具だ。一定の距離までという制限はあるけど、こうした集団がいる中では便利だ。

『みんな、これからの戦いは大変で、苦しいものになるだろう。だが、忘れるな。この戦いは、己のための戦いだ』

 エリックは声を荒らげる。その言葉に、騎士の表情が引き締まっていく。

『国や街を守るためだと思って戦うな。あくまで、己のために戦え。たくさん魔物を倒して、活躍して……そして金と名誉を得る! そう思っておいたほうが、気楽に戦えるだろ? 以上だ』

 そう締めくくってエリックはマイクをブレンドに渡した。
 ブレンドが話す中、壇上を降りてきたエリックに声をかける。

「慣れていますね」
「師匠に色々指導されてな。おまえはいつか人の上に立つ男になるのだから、とかなんとかな。こうして役にたって良かったよ」
「師匠……前騎士団長ですね」
「ああ、そうだ」

 ブレンドの話が終わった時だった。

「魔物たちが見えました!」

 騎士の声が響き、すぐにブレンドが動き出した。

 
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