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第21話
しおりを挟む宿を出た私はそれからすぐに上空を見上げる。
すでにこの辺りの人たちは避難しているのか、想像していたよりもずっと悲鳴などは少なかった。
周囲を眺めてみても、ロクに人はいない。
でも、まったくいないわけじゃない。
「きゃああ!」
悲鳴が聞こえる。私がそちらに視線を向けたとき、すでにエリックは動いていた。
悲鳴をあげた人、そしてその人に襲い掛かっていたゴブリンへと接近していた。
エリックは一瞬とも思えるほどの速度で距離を詰めると、ゴブリンの体を両断した。
そして、子どもを抱えるようにしてその場から退避する。
エリックに抱えられるようにして一人の少女がこちらへとやってきた。
「二人とも、大丈夫ですか?」
私は回復魔法が使える。
だから、怪我をしていれば治すつもりで声をかけたけど、
「俺は大丈夫だ。キミは?」
「だ、大丈夫……だよ」
まだ魔物に襲われた恐怖が残っているようで、怯えていた少女の頭を、エリックはそっと撫でる。
それから膝をついて、微笑んだ。
普段のクールな表情とは違い、慈愛に満ちたその笑みを見てか少女の表情からも不安が抜けていく。
「お兄ちゃんたちは魔物を倒していくんだ。だから、キミは一人で避難できるかな?」
「う、うん……だ、大丈夫……っ」
「そうか。強い子だ。ほら、行くといい。背中は守るから」
エリックがとんと少女の背中を叩くと、少女は元気に頷いて走っていった。
「子どもの相手得意なんですか?」
「別にそういうわけじゃない。ただ、スラムにも子どもはたくさんいたからな。ある程度は面倒を見てやったこともある、それだけだ」
「そうなんですね」
……子どもに才能がなければ捨てることがあるというのは聞いたことがある。
そんな捨てられた子どもたちが行きつく場所といえば、スラムくらいしかないだろう。
「とにかく、魔物を倒すのだろう。空中にいる相手は俺一人では倒すのが難しい。そっちはアーニャ、任せてもいいか?」
「はい、大丈夫です」
そういって話していたときだった。
何か、風を切る音が聞こえ、そちらに視線を向ける。
「ガァァ!」
鳥種の魔物が私の方へととびかかってきた。
鋭いくちばしをもったその鳥が私へと迫り――それより先に、エリックが切り裂いた。
「意外と速いな。通常のドリルホークよりも強そうだ」
エリックはあっけらかんと捌いてみせたけど、私は目で追うのだけで精一杯だった。
「……よ、よく見切れましたね」
「護衛なんだ、このくらいは任せてくれ。それより、あまりにも高所にいる魔物は魔法が必要だ。アーニャ、出来る限り魔法攻撃を頼む」
「分かっています」
私は魔力をためる。
……そういえば、全力で魔法を放つのって初めてかも。
私、十歳の時には大聖女としての契約を結んでいたから、魔力は常に祈りにとられてしまっていた。
だから、魔法を放つのって久しぶりかも。
体内の魔力を練り上げる。そして、大気中にある魔法の元素を見つけ、体内に取り込んでいく。
人間は魔法を変換する力を持っていない。あくまで体内にある魔力は魔力……人はこれを無属性魔法といっている。
では、その無属性魔法を変換するにはどうすればいいのか。
それは大気中にある属性魔法の元素を呼吸によって体内に取り込み、自分の魔力と練り合わせるんだ。
そうすれば、対応した元素の属性へと変化する。
私は周囲にあった火属性の元素を取り込み、火魔法を準備する。
そして片手を振り下ろすと同時、魔法を放った。
「ファイアーショット!」
放たれたのは、空を覆うほどに巨大な火が現れた。
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