10 / 37
第10話
しおりを挟む……青年の鍵開けは見事なものだった。
それにしても……意外だ。
どうして彼は私を助けてくれたのだろうか?
彼だってスラムの人間なんだから、私はてっきり敵だと思っていた。
青年が一体何を考えているのか分からず、自由になった私は、青年の前から一歩も動くことができずにいた。
「まだここにいたいのか?」
彼の意地悪な言い方に首を横に振る。
座らされていた椅子から立ち上がり、私は青年の前に立った。
……まずはお礼をしないといけないわよね。
私が立ったのを確認した青年は、すぐに部屋から出ようとしたけど私はその手を握った。
「……なんだ?」
「いえ、お礼をまだ言えていなかったので。助けてくれて、ありがとうございます」
「なんだ、そんなことか。別に気にするな」
「でも、どうしてでしょうか……? あなたもスラムの方ですよね」
「ま、そうだな。だけど、スラムの全員が悪さをするってわけじゃない」
「……それも、そうですね」
「俺が相手するのは、悪い貴族だけだ。大聖女様のあなたからはそんな話を聞いたことないからな」
「そうなんですね」
いわゆる、平民の間では義賊と呼ばれる人なのだろうか?
貴族からしたら大問題のただの盗賊だけどね。
「スラム街の外まで案内する。できれば、今回のことは内密にしてくれると嬉しいんだが……」
「それでしたら、気にしないでください。私はもう大聖女ではありませんから」
私は嘆息がちにそういった。
すると青年はぴくりと眉尻を吊り上げる。眉間に皺がより、彼の冷徹さがさらに増す。
「どういうことだ?」
「私は国外追放が決まりました。妹に婚約者と大聖女の座を奪われたため、どこで野垂れ死のうがスラム街が問題にされることはありませんよ」
「……そうか。なら別に助けなくても良かった、ということか」
「それは酷いですね。一般人とはいえ、女性が暴行を受けようとしていたんですよ?」
「ま、そうだな。スラムの外までは案内しよう」
「待ってください」
私は青年の手をとり、彼をじっと見る。
私よりも頭一つ分は大きな彼が、見下ろしてきた。
「なんだ?」
「私に雇われてはくれませんか?」
「……どういうことだ?」
「私は国外に……というかある場所に用事があります。大精霊様がいるとされる森です。私が大精霊様に会う前での間で良いので護衛をしてくれませんか?」
「俺のようなスラムの人間でいいのか?」
「はい。先ほどのあなたを見てかなりの腕だと分かりました。ですからあなたに頼んでいるんです。引き受けてくれませんか?」
「……」
青年は考えるように顎に手をやった。
そんな青年に、私はアイテムボックスから金貨を五枚取り出した。
「こちら、報酬になります。護衛の前金として五枚。大精霊様との面会が達成できた場合、さらに追加で五枚の金貨をお渡ししましょう」
「……破格の依頼だな。大精霊様がいる森ってのはそんなに危険なところなのか?」
「それなりには。ですが、楽しい場所でもありますよ?」
青年はじっとこちらを見てから、私の手から金貨をとった。
「引き受けよう。俺の名前はエリックだ」
「私はアーニャと申します。よろしくお願いします」
私はエリックに改めて頭を下げる。
――こうして、元大聖女のアーニャは元騎士のエリックと出会った。
2
お気に入りに追加
4,040
あなたにおすすめの小説
今まで国に尽くしてきた聖女である私が、追放ですか? だったらいい機会です、さようなら!!
久遠りも
恋愛
今まで国に尽くしてきた聖女である私が、追放ですか?
...だったら、いい機会です、さようなら!!
二話完結です。
※ゆるゆる設定です。
※誤字脱字等あればお気軽にご指摘ください。
【溺愛のはずが誘拐?】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!
五月ふう
恋愛
ザルトル国に来てから一ヶ月後のある日。最愛の婚約者サイラス様のお母様が突然家にやってきた。
「シエリさん。あなたとサイラスの婚約は認められないわ・・・!すぐに荷物をまとめてここから出ていって頂戴!」
「え・・・と・・・。」
私の名前はシエリ・ウォルターン。17歳。デンバー国伯爵家の一人娘だ。一ヶ月前からサイラス様と共に暮らし始め幸せに暮していたのだが・・・。
「わかったかしら?!ほら、早く荷物をまとめて出ていって頂戴!」
義母様に詰め寄られて、思わずうなずきそうになってしまう。
「な・・・なぜですか・・・?」
両手をぎゅっと握り締めて、義母様に尋ねた。
「リングイット家は側近として代々ザルトル王家を支えてきたのよ。貴方のようなスキャンダラスな子をお嫁さんにするわけにはいかないの!!婚約破棄は決定事項です!」
彼女はそう言って、私を家から追い出してしまった。ちょうどサイラス様は行方不明の王子を探して、家を留守にしている。
どうしよう・・・
家を失った私は、サイラス様を追いかけて隣町に向かったのだがーーー。
この作品は【王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!】のスピンオフ作品です。
この作品だけでもお楽しみいただけますが、気になる方は是非上記の作品を手にとってみてください。
婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。
私との婚約を破棄した王子が捕まりました。良かった。良かった。
狼狼3
恋愛
冤罪のような物を掛けられて何故か婚約を破棄された私ですが、婚約破棄をしてきた相手は、気付けば逮捕されていた。
そんな元婚約者の相手の今なんか知らずに、私は優雅に爺とお茶を飲む。
デネブが死んだ
毛蟹葵葉
恋愛
弟との思い出の土地で、ゆっくりと死を迎えるつもりのアデラインの隣の屋敷に、美しい夫婦がやってきた。
夫のアルビレオに強く惹かれるアデライン。
嫉妬心を抑えながら、妻のデネブと親友として接する。
アデラインは病弱のデネブを元気付けた。
原因となる病も完治した。それなのに。
ある日、デネブが死んだ。
ふわっとしてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる