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第10話

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 ……青年の鍵開けは見事なものだった。

 それにしても……意外だ。
 どうして彼は私を助けてくれたのだろうか?

 彼だってスラムの人間なんだから、私はてっきり敵だと思っていた。
 青年が一体何を考えているのか分からず、自由になった私は、青年の前から一歩も動くことができずにいた。

「まだここにいたいのか?」

 彼の意地悪な言い方に首を横に振る。
 座らされていた椅子から立ち上がり、私は青年の前に立った。

 ……まずはお礼をしないといけないわよね。
 私が立ったのを確認した青年は、すぐに部屋から出ようとしたけど私はその手を握った。

「……なんだ?」
「いえ、お礼をまだ言えていなかったので。助けてくれて、ありがとうございます」
「なんだ、そんなことか。別に気にするな」
「でも、どうしてでしょうか……? あなたもスラムの方ですよね」
「ま、そうだな。だけど、スラムの全員が悪さをするってわけじゃない」
「……それも、そうですね」
「俺が相手するのは、悪い貴族だけだ。大聖女様のあなたからはそんな話を聞いたことないからな」
「そうなんですね」

 いわゆる、平民の間では義賊と呼ばれる人なのだろうか?
 貴族からしたら大問題のただの盗賊だけどね。

「スラム街の外まで案内する。できれば、今回のことは内密にしてくれると嬉しいんだが……」
「それでしたら、気にしないでください。私はもう大聖女ではありませんから」

 私は嘆息がちにそういった。
 すると青年はぴくりと眉尻を吊り上げる。眉間に皺がより、彼の冷徹さがさらに増す。

「どういうことだ?」
「私は国外追放が決まりました。妹に婚約者と大聖女の座を奪われたため、どこで野垂れ死のうがスラム街が問題にされることはありませんよ」
「……そうか。なら別に助けなくても良かった、ということか」
「それは酷いですね。一般人とはいえ、女性が暴行を受けようとしていたんですよ?」
「ま、そうだな。スラムの外までは案内しよう」
「待ってください」

 私は青年の手をとり、彼をじっと見る。
 私よりも頭一つ分は大きな彼が、見下ろしてきた。

「なんだ?」
「私に雇われてはくれませんか?」
「……どういうことだ?」
「私は国外に……というかある場所に用事があります。大精霊様がいるとされる森です。私が大精霊様に会う前での間で良いので護衛をしてくれませんか?」
「俺のようなスラムの人間でいいのか?」
「はい。先ほどのあなたを見てかなりの腕だと分かりました。ですからあなたに頼んでいるんです。引き受けてくれませんか?」
「……」

 青年は考えるように顎に手をやった。
 そんな青年に、私はアイテムボックスから金貨を五枚取り出した。

「こちら、報酬になります。護衛の前金として五枚。大精霊様との面会が達成できた場合、さらに追加で五枚の金貨をお渡ししましょう」
「……破格の依頼だな。大精霊様がいる森ってのはそんなに危険なところなのか?」
「それなりには。ですが、楽しい場所でもありますよ?」

 青年はじっとこちらを見てから、私の手から金貨をとった。

「引き受けよう。俺の名前はエリックだ」
「私はアーニャと申します。よろしくお願いします」

 私はエリックに改めて頭を下げる。




 ――こうして、元大聖女のアーニャは元騎士のエリックと出会った。
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