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第56話
しおりを挟むなぜここに……そう思ったけど、彼も一応貴族だ。
何かしらのコネを利用してここに参加したのだろう。
父の隣には、ヨルバもいた。彼女も同じように目を見開いていた。
「な、なんであんたここにいるのよ……?」
……二人の驚いたような表情。
どういうことだろうか?
ティーナ姉さんを見て驚く? だって、彼らは一緒に暮らしているはずだ。
それならば、驚く必要はない。
……でも、驚いているということは。
まさか、と私は思う。
ティーナ姉さんは、彼らと一緒にいない?
「宮廷精霊術師、だから」
「……お、おまえが宮廷精霊術師だと!?」
「う、嘘……な、なんであたしもなれなかったのにあんたが……!」
苛立った様子のヨルバと驚きながらもどこか嬉しそうな父。
対照的な二人の反応の後。
気づけば、周囲の人々は一体何事かといった様子で私たちに注目していた。
しかし、父は気にした様子もなく私の腕を掴んで破顔した。
「そ、そうなのだな! それは良かった! いやあ、こうして再会できて嬉しい限りだ!」
再会? ……父は私とティーナ姉さんと勘違いしているのは確かだ。
「宮廷精霊術師か。立派になったものだな! よし、ティーナ。おまえには家に戻ってきてもらおうか」
「……はい?」
「いやぁ、私もあの時は苦しい決断をしたんだ。ティーナ、おまえは私の家にいない方が成長すると思ってな。決して、嫌って追放したわけではないんだ。ほら、早く我が家に戻ってくると宣言しろティーナ」
……追放した? ティーナ姉さんも、私と同じように家から追い出したってことでいいみたい。
私は彼に冷たい笑みを返し、それから首を振った。
「私のこと、ティーネと勘違いしている人を父親だとは思わない」
「……え?」
「私は、ルクス」
「……!?」
驚いた様子で、父がいや、ゴーシュが目を見開いた。
「る、ルクス……ま、まさか……そんな、生きている、なんて……」
「死んでいた方が良かった? あなたに捨てられた、双子の妹、ルクス。言っておくけど、今さら、あんたのところになんて戻るつもりはないから」
私が殺気をむき出しに、彼らを睨みつけるとそこでヨルバが驚いたように口を開いた。
「ほ、本当にルクス……なの?」
「うん、気付くの遅い。……いや、むしろ早いほう?」
まったく興味なかった二人が私とティーナ姉さんの違いに気づいただけ、凄いのかもしれない。
驚いた表情を浮かべていたゴーシュは、それからやがて眉間を寄せた。
「なぜ、貴様のような女がここにいる! ゴミのような存在のくせに! 我が家に呪いを残したゴミが!」
怒鳴りつけるような罵声は、昔ならばきっと怯えて震えることしかできなかっただろう。
しかし、私が強く睨みつけるとゴーシュもヨルバも身を竦ませた。
「さっきも説明した。私は宮廷精霊術師。……それで? ティーナ姉さんはどこにいるの?」
「……そ、それは――!」
「話せば、何もしない。話さないなら、殴る」
私が拳を構えると、ゴーシュはぶるりと震える。
「てぃ、ティーナと……お前の母は……南の国――母の故郷に戻ったはず、だ。お、オレも家を追い出した後……詳しいことは……知らない」
「……南の」
それなら、行けば会えるかもしれない。
良かった、と安堵した次の瞬間だった。
ゴーシュがわめきだした。
「こ、こいつは双子の妹だ! あの呪われた双子の妹だぞ! おい衛兵! こいつを殺せ!」
ゴーシュの叫びに、近くにいた貴族の反応は……半々だった。
私を汚いものでも見るかのような目を向ける人。
私ではなく、ゴーシュの思考を否定するような目を向ける人。
しかし……この場にはどちらかといえば、私を嫌う人間の方が多いようだった。
私は周囲を眺めながら、これからどうしようかと考えていると、その集団から一人の男性が歩いてきた。
「何か、オレの彼女が迷惑をかけたか?」
はぁ? 私が思わず睨みつけた先には、第六王子のガルス様がいた。
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