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第36話
しおりを挟む窓から夕陽が差し込んでくる。ペンを走らせていたベールド様がうーんと伸びをする。
「そろそろ、今日の仕事は終わりにしようかね」
夕方。
特に大きな問題はなく、一日目の仕事は終わった。
私もなんだかんだ報告書は作成した。といっても、ほとんどファイランに言われたままに書いただけで、もう一度再現しろと言われてもできないかもしれない。
そのあたりは、ティルガにも見せたので大丈夫だと思う。
「これで終わり?」
隣にいたファイランに声をかける。
「ええそうよ。何もなくて拍子抜けかしら?」
「……思っていたよりも、平和だった」
「そう毎日事件が起きるなんてことはないわ。まあ、逆に事件が起きれば夜中だろうが出動する可能性はあるんだけどね」
「それじゃあ、ずっと何もなければラク」
「そうね。魔物も魔人も……何もいなければ、私たちの仕事もぐっと減るのよねぇ」
ファイランがそう冗談をこぼすと、ベールド様がくすくすと笑う。
「そうなったら、たぶん人員削減されちゃうだろうけどねー」
……だろうね。
魔物がいなくなれば、今よりも精霊術師の価値も落ちるはず。
「それじゃあ、仕事は終わりよ。今日紹介した通り、部屋で休むもよし。別の宿をとるもよしよ」
「うん。今日一日、ありがとうファイラン」
「こちらこそ。素直で助かったわ。明日はまた同じ時間にこの事務室に来てね」
「うん」
こくりと頷き、私は部屋を出た。
建物を出て軽く伸びをする。心地よい風が肌を撫でる。
「これで、一日が終わりか」
「そうみたい。戦えなくて寂しかった」
「まったく。平和が一番と言っていただろう」
「そうだけど、軽く命のやり取りしたい……」
「軽くないだろうそれは」
ティルガが小さくため息をつく。私はティルガとともに宮廷内を歩き、寮を目指していく。
歩いているとたくさんの下女たちとすれ違う。
その中に一人見ていて心配になる子がいた。
大量の荷物を運んでいた下女の子だ。
……洗濯物だろう。シーツをまとめて運んでいるため、前が見えない様子だ。
ふらふらと歩いていて、見ているこちらが不安になる。
「こんばんは。大丈夫?」
「え? あっ、はい、こんばんは! だ、大丈夫ですよ!」
「そう? ……うーん、ちょっと不安だし、身体強化の魔法かける」
私がそういうと微精霊はすぐに魔法を準備してくれる。
「そ、そんな! って、体が軽い!? ま、魔力とか大丈夫なんですか!? こんなことに使ってしまって、もったいないですよ!」
「別に、魔力で困ったことないし。一度にたくさん持っていくと危険だから、気をつけてね」
「は、はい……ありがとうございました! 次から、気を付けます!」
私は去っていく下女の子を見送っていると、次の下女が見えた。
……その人は建物の屋根付近の掃き掃除をしようとしていたけど、持っていた箒ではとても届きそうになかった。
「大丈夫?」
「え? は、はい!? わ、私一応風魔法を使えるんですけど……今日は調子が悪くて……」
「あっ、そうなんだ。分かった。ちょっと待ってて」
調子が悪いってどういうことだろうか?
私はちらとその子の近くにいた微精霊へと視線を向ける。
寝てるよこの子。
『こらー! ご主人様が困っているときに手を貸さないのは駄目でしょ!』
『うへえ!? あっ、エレメント団の方々!』
なにそのださい名前は。
私の微精霊たちは誇らしげにポーズを決めている。
『べ、別に寝ていたわけじゃないですよ! ちょっと意識飛んでただけです!』
『ちゃんと仕事はするの! 魔力が欲しいときだけもらうっていうのは協力関係って言わないの!』
『は、はい!』
下女の微精霊を見ると、ぴしっと背筋を伸ばしている。
これならもう大丈夫そうだ。
私は下女の肩をとんと叩いた。
「はえ!? か、肩を外しにきてますか!?」
「違う。これで、たぶんもう大丈夫。魔法使ってみて?」
「……ほ、本当ですか? って、えええ!? 使えるようになってます!? あ、ありがとうございます!」
「ううん、気にしないで。それじゃあ。魔法で困ったらエレメント団、って言ってみてね」
「え、エレメント団? よくわかりませんが、言ってみます!」
下女は元気よく手を振った後、掃除を開始した。
風魔法で埃を落として、それから箒でかき集めている。
私は一人になったところで、微精霊たちに問いかける。
「みんな、エレメント団ってなに?」
『えへへー、僕たちが名乗っているんだ! かっこいいでしょ?』
「ちょっと……ださくない?」
『え? ええ……? な、名乗っちゃダメ?』
「別に私が決めることじゃないから、いいけど」
私には特に悪影響ないだろうし。
『良かったぁ! ちなみにリーダーはルクスだからね! 今日から名乗ってもいいからね!』
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