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第18話
しおりを挟む王都は貴族街に近いほど治安が良くなる。それに比例して、貴族街に近いお店ほど利用料金が高くなる。
私のために用意されていた宿は、そんな貴族街にもっとも近い宿だった。
明らかに冒険者が利用するような宿ではない。
これが、宮廷で仕事をしている人間の余裕だろうか。
あるいは、私に対しての期待か。どちらでも構わないか。
ファイランが店主に話をし、私は自室へと通された。
部屋を確認したところで、ファイランがこちらを見てきた。
「この部屋で問題ない? 必要があれば、別の宿を借りるわよ」
とんでもない。この宿でも、すでに一流冒険者の一日の稼ぎくらいはかかっているだろう。
「うん、大丈夫」
「それは良かったわ。それなら、試験日の朝にまた迎えにくるわ。それ以外は自由にしてもらっても構わないけど、当日の朝はきちんとここにいてちょうだいね?」
「分かった。色々とありがとう」
ファイランには色々と面倒を見てもらっていた。
私がそういうと、彼女は嬉しそうに口元を緩めた。
「ううん、いいのよ? あなたが合格すれば、私があなたの面倒を見ることになる予定だから。これからもよろしくね?」
「……頑張る」
悪戯っぽくウインクを残したファイランが、部屋を立ち去った。
私は一人残った宿の自室の窓から、貴族街の方へと視線を向ける。
ティーナ姉さんとお母さん。
元気にしているかな?
とはいえ、貴族街を自由に出入りする権限は持っていないので、それを確かめる手立てはなかった。
……それに、今は試験に集中しないといけない。
第三師団の推薦で試験を受ける以上、私が試験に落ちれば第三師団の評価も下がってしまうだろう。
「このベッドふかふか」
「ふむ、確かにそうだな。我の毛並みほどではないが」
「いや、ティルガよりもこのベッドの方がいいかも」
「なぬ!?」
「ね、みんな」
『うん、そうかもー』
「な、なんだと!? お、おい! いつもの冗談だろう……!?」
「うん、まあ半分くらいは」
「……むぅ、半分は本気か。な、ならばその布団にくるまっていればいいだろう……」
ちょっと冗談のつもりだったんだけど、ティルガはいじけてしまった。
「嘘、嘘。ティルガの方がモフモフだから。こっちきて、触らせて」
「……そ、そうか? ふ、ふんそうだろう」
ティルガに謝ってから、その体を撫でる。
……久しぶりの王都。色々と思うところはあるけど、昔とは違う。
私はティルガをもふりながらそんなことを感じていた。
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