上 下
7 / 57

第7話

しおりを挟む


 すぐに微精霊たちの方角へと走っていった私は、子どもたちを発見した。

「る、ルクスさん!」

 子どもたちもこちらに気付いたようだ。涙でくしゃくしゃになった顔を、私の方に向けていた。
 子どもたちは合計三人。
 皆、すでに戦意は失っているようで、ゴブリンに背中を向けこちらに助けを求めるように声をあげていた。

 背中を向けた子どもたちへ、ゴブリンが好機とばかりに飛びかかった。

「ティルガ、子どもたちをお願い」
「任された」

 言いながら私はティルガの背中から跳躍する。
 自分自身で風魔法を準備し、着地の衝撃を和らげるように発動する。
 ティルガは子どもへと襲い掛かっていたゴブリンを爪で切り裂き、子どもたちを守るように立ちふさがる。

 これで、魔物に集中できる。
 私は持っていた刀で近くのゴブリンの手首を斬りつけ、怯んだところで風魔法を放った。
 その全身を切り刻み、吹き飛ばす。

 次の魔法の準備は、微精霊がしてくれる。
 私は自分の魔法、微精霊の魔法、ティルガの魔法……と、他の人の数倍魔法を準備できる。
 通常、魔法を使う場合、一度使用した後にインターバルがある。
 
 ゴブリンもそれを理解していたようで、すかさずこちらへと飛び掛かってきた。
 しかし、私にその常識は通用しない。

 私は片手を向け、風魔法を放った。

「ギィ!?」

 風の塊がまっすぐにゴブリンへと向かうと、その一体の体を吹き飛ばした。
 ゴブリンはしかし、他の奴よりも体力があったようだ。
 私の一撃を喰らってもなお、まだ呼吸がある。
 
 ゴブリンは雄たけびを上げながら、こちらへと迫ってきた。
 やる気は感じられる。
 けど、私の相手になるような魔物じゃない。
 腰の鞘から振りぬいた一撃が、ゴブリンの首深くへと突き刺さり、鮮血が大地を汚した。

「ギャ……っ!?」

 短い悲鳴をあげ、ゴブリンの目から生気が消えた。
 うん。これでもう周囲に魔物の気配は感じない。
 
「微精霊、もう大丈夫?」
『うん、大丈夫だよー』

 微精霊たちにも確認をしてもらい、安全を再確認したところで刀を鞘へとしまった。
 ちらと見ると、ティルガのもふもふの毛に包まるようにして隠れていた子どもたちが姿を見せた。

「……る、ルクス先生凄い!」

 さっきまでの絶望的な表情はどこへやら。
 子どもたちは目を輝かせ、そんなことを言っていた。

 注意しないといけないけど、まずは安否確認からだ。
 見たところ外傷とかはなさそうだけど……。

「大丈夫? みんな怪我とかはしてない?」
「う、うん……!」
「そ、それにしてもルクス先生凄い!」
「わ、私もあんな風になれるかな!?」

 喜んでいる子どもたち。褒められるのは悪い気はしないけど……。
 私はきっと目を鋭くして、子どもたちを睨んだ。

「まだ外に出ちゃ駄目って言った。約束破ったらダメでしょ」
「……ご、ごめんなさい」

 三人は申し訳なさそうに頭を下げて来た。
 ……彼女らが村のために何とかしたいと思っているのは分かっている。
 そのやる気はもちろん理解している。
 これ以上強く言っても仕方ない。
 私はため息まじりに言葉を吐いた。

「強くなったっていっても、まだまだ魔物と戦えるだけの力はないんだから」
「……ごめんなさい」

 もう一度強く言うと、少女たちはさらにしゅんと落ち込んだ。
 可哀そうだけど、仕方ない。命がかかっているんだからきちんと叱らないと。
 とはいえ、怒ってばかりもね。

 このあと、たぶん孤児院の先生たちに怒られるだろうしね……。

「村の人たちも心配していた。ほら、一緒に戻ろう」

 私がそういうと、皆は不安そうにこちらを見てきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

私を追い出すのはいいですけど、この家の薬作ったの全部私ですよ?

火野村志紀
恋愛
【現在書籍板1~3巻発売中】 貧乏男爵家の娘に生まれたレイフェルは、自作の薬を売ることでどうにか家計を支えていた。 妹を溺愛してばかりの両親と、我慢や勉強が嫌いな妹のために苦労を重ねていた彼女にも春かやって来る。 薬師としての腕を認められ、レオル伯アーロンの婚約者になったのだ。 アーロンのため、幸せな将来のため彼が経営する薬屋の仕事を毎日頑張っていたレイフェルだったが、「仕事ばかりの冷たい女」と屋敷の使用人からは冷遇されていた。 さらにアーロンからも一方的に婚約破棄を言い渡され、なんと妹が新しい婚約者になった。 実家からも逃げ出し、孤独の身となったレイフェルだったが……

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...