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第50話
しおりを挟む「大丈夫だから。オークに攻撃を続けてくれれば、あっちもビビって動けないからな。足止めさえしとけば、あとは俺たちと冒険者たちでゴブリンを減らせばいいんだ。だから、アンナは足止めを優先な」
事実、オークはアンナの狙撃を警戒していて、まともに動けない状態だ。
それを見て、アンナも理解したようで、ゆっくりと頷きスコープを覗いた。
「ん」
ナーフィが構え、すぐにゴブリンたちの足を射抜いていく。
……うまい。
前方にいたゴブリンを転がすと、それに引っかかって後ろの個体も倒れる。
リアは確実に仕留めていき、俺は適当に手榴弾を投げ、アサルトライフルを放っていく。
……迫ってきていたゴブリンたちは、その数がどんどんと減っていく。
ハンドガンに比べ、アサルトライフルはやはり強いな。
そして、俺たちが戻ってきたことが分かったからか、村側の冒険者たちの反撃も増していく。
ゴブリンの数が確実にへり、どんどんと状況は追い込まれていく。
無謀に突っ込んできていたゴブリンたちも、この状況に段々と怯み始める。
……知能がついてしまったことで、恐怖という感情も覚えてしまった。
だからこそ、魔物のような無謀な突撃ができず、前に進むゴブリンの数が減っていく。
足を緩めたところで、俺たちの射撃が止まるわけではない。
どんどんと近いゴブリンから仕留めていくと、ゴブリンたちは逃げるように散らばっていく。
統率が、取れなくなっていく。
この状況で、焦りを感じ始めたのは……オークだ。
「があああ!」
オークが俺たちをまずは退けようと体を起こし、走り出す。
ゴブリンたちの群れに守られていたオークが姿を見せたことで、アンナがそちらにスナイパーライフルを向ける。
オークとしては、完璧な作戦だったはずだ。それが崩されたのだから、相当に怒りも溜まっているのだろう。
先ほどまではこちらを警戒するように動いていたオークだったが、それをやめ突撃してくる。
ターゲットを村から、俺たちに変えた。
ただ、そんな真っ直ぐ突進してきてくれるのなら――スナイパーライフルの餌食だ。
「ご主人様、いきます」
「ああ」
アンナは、先ほどよりも集中している。
狙いはオークの……腹部。
頭ではかわされると思ったからか、その一撃がオークの腹へと吸い込まれる。
膝をついたオークに、さらにもう一撃。容赦ない狙撃が襲いかかる。
顔を上げたオークの頭を撃ち抜いた。
「……がっ」
短いオークの悲鳴があがり、どさりと背中から崩れ落ちる。
オークが倒れたことで、残っていたゴブリンたちは悲鳴をあげる。
それは恐怖。魔物だというのに、彼らは人間のように分かりやすいほどに顔を青ざめさせていた。
これだけのゴブリンたちが、人間に復讐心を持って生き延びたとなれば、いずれまたここから脅威となる魔物が生み出されるだろう。
「……狩り尽くしたほうが、いいよな」
アサルトライフルを構えなおした俺たちは、静寂に包まれていた戦場へ音を生み出す。
弾丸と悲鳴の音。
それに混ざるように、村の方から歓声にもにた雄叫びがあがる。
戦闘が始まる。俺たちに優勢な状況でだ。
この戦いに、それ以上のイレギュラーが起こることはなかった。
夜。
村では、ゴブリンとオークの討伐を行ったということでささやかな宴が開かれていた。
酒を持ってきたジェニスに首を振る。この世界では俺の年齢はもう成人のようだが、俺の体はあくまで日本人だからな。
お酒は二十歳になってからだ。
ジェニスが俺の隣に座り、少し赤くなった顔で笑う。
「村近くにいたゴブリンの大半は仕留められたらしいぜ。これも全部、お前たちのおかげだな」
「ジェニスたちも戦ったんだから、誰のおかげってことはないんじゃないか?」
少なくとも、村でジェニスたちが時間を稼いでいたからこそ、いい感じに挟み撃ちができたんだしな。
「騎士団の方からも連絡があってな。ゴブリンの巣がやっと破壊できたらしいぜ。おまけに、ゴブリンクイーンがいたらしい」
「ゴブリンクイーン?」
「ああ。そいつが優秀な個体を生み出していたらしくてな。親衛隊みたいなゴブリンたち含め、かなりの戦いになっていたらしいぜ」
「……そうだったんだな」
だから、優秀なゴブリンが多くいたんだろうな。
「そこで生み出されたゴブリンたちがあちこちに流れ着いて、群れを作り、進化していって……こんなことになったらしい。それらは全部、見張りの騎士がサボっていたのが原因なんだから、たまったもんじゃないな」
ジェニスが愚痴をこぼしている。
……騎士の見張り、か。
毎回何もなければ、サボって報告するようなこともあるのかもしれない。
それで、こんなに危険なことになっているのだから、確かにジェニスのいう通りたまったものじゃないな。
「まあでも。今回オークの討伐とか全部ちゃんと報告しておいたからな。下手したらCランクへの昇格試験も受けられるかもしれないぞ?」
「……そうか?」
受けて、何か効果があるのかどうかは気になるところだ。
もしかしたら、尊敬が集められるかもしれないが、無駄に注目されても困る。
「おお! 兄貴たち! ここにいたんですか!」
なんか、ストガイが俺まで兄貴の一人と認めてきてるし……。
笑顔で近づいてきた彼とともに、ジェニスが酒を飲み始める。
「んじゃあ、オレたちは向こうで飲みまくるわ」
「兄貴もあとでこっちもきてくださいよー!」
楽しそうに二人は歩いていった。
……これが、冒険者なんだろうな。
「ちょっといい?」
ちら、と視線を向けるとリアがこちらを見てきた。
奴隷とか関係なく、宴の間は自由に行動していいと話していたのだが、彼女は俺の隣に座った。
「どうしたんだ?」
「いや……そのまあ、ほら。シドー様の奴隷になってから結構経ったじゃない?」
まあ、確かにな。
彼女らと最初に出会えていなければ、色々と大変だっただろう……。
そんなことを考えていると、リアはもじもじとした様子で口を開いた。
「そ、それでね? ……契約の延長をしたいのよ」
「え? ほ、本当か?」
思いがけないリアの言葉に、俺は思わず聞き返してしまう。
……リアたちと最初に会った時、とりあえずお試しで奴隷契約を伝えた。
俺は経験値が欲しいから、リアたちは食事含めて生活環境が欲しいから。
……ただ、もしもリアたちが満足しなかったらこの関係はあっさりと終わっていただろう。
リアたちは、ひとまず受け入れてくれたってわけで、それが嬉しかった。
「三人とも、いいのか?」
「うん。あたしたちで話し合ってね……食事とか、生活とか……そういうの、色々感謝してるのよ」
……良かった。
こちらとしては色々と気を遣っていたがとりあえず問題はなかったようだ。
ほっと胸を撫で下ろしていると、リアがさらにぽつりと続ける。
「……それに、あたしたち三人とも……シドー様は大事に一人の人間として接してくれて……それが嬉しいっていうか……まあ、その……と、とにかく……! そういうわけで、これからもよろしくお願いします!」
彼女はぺこりと頭を下げてきた。
耳が、少し緊張したように動いていた。
……そんなの、むしろこちらからお願いしたいくらいだった。
「俺も、色々と助けてもらってるからな。……これからもよろしくな?」
「うん、よろしくね」
俺がそういうと、リアは嬉しそうに笑ってくれた。
……本当に、彼女たちと出会えてよかったと思っている。
ラフォーン王国を追放されてから、うまく生活できるのかと不安はあったのだが……リアたちがいたおかげでここまでなんとかなったからな。
嬉しそうに安堵した様子で笑う彼女だが、むしろ、こっちも契約破棄されないかと不安で仕方なかったからな。
これからも、彼女たちとともにのんびりと旅をし、召喚魔法を強化する。
そして、どうにかして地球へ戻る手段を見つけたら、あとはラフォーン王国に戻ってクラスメートとともに一緒に地球へと帰還してしまえば、いいだろう。
さて……その日がいつになるのやら。
まあでも、リアたちと一緒ならば、つまらない日々ということはないだろう。
――――――――――――――――――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ここで一章終了になります。
楽しかった! 続きが気になる! という方で、☆☆☆やフォローをしていない方はしていただけると嬉しいです!
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