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第30話

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 俺も一応ハンドガンを撃っているが、うん、あんまり援護できているかは分からない。
 ナーフィが一気に迫り、ショットガンをぶっ放す。
 俺たちも銃撃をやめ、その様子を見守る。

 一撃で、ウッドマンにいくつもの傷を作り出す。
 よろめいたウッドマンの隙を逃すナーフィではない。
 彼女はすぐにショットガンをもう一発放つと、ウッドマンを倒した。

 二発、か。
 ボスモンスター相手にこれだけ圧倒的になるか。

「……余裕、だったわね」
「……そうだな」

 俺とリアは最後方からその様子を眺めていた。ナーフィの戦闘力と機動力はかなりのものだ。
 ドロップした素材をナーフィがかき集めてきたので、それを受け取り、頭を撫でてやる。
 表情は変わらないのだが、雰囲気的には喜んでくれているように感じる。

 威力は問題ないと分かったが、ショットガンは色々目立つ。
 他の人たちに銃声を聞かれると面倒なことになるかもしれないので、外で使うのはなるべく控えた方がよさそうだ。

「そういえば、この迷宮まったく冒険者いなかったよな」
「あんまり人気ないのかもね。普通に戦ったら、ウッドマンって結構面倒そうな相手だし
「そうなのか?」

 普通の戦いというのは、おそらくハンドガン以外の武器を使ってということだろう。

「あの枝硬いし、樹皮の鎧もけっこう頑丈よ。ハンドガンとかショットガンじゃなかったら、たぶんここまで簡単には戦えてないわよ」
「……なるほどな」

 リアの言葉に、アンナも頷いている。

「わりと素早かったですし……ご主人様の武器がなかったら、大変だったと思います」
「ってことは、この近隣のEランク迷宮は剣士タイプには微妙かもな」

 もう片方がスライムの迷宮のようだし、火魔法とか使えるならどっちの迷宮も攻略しやすいかもしれない。
 今思えば、ギルド職員の表情がちょっと険しかったのはそんな理由なのかもしれない。
 トイレを我慢していたわけではないんだろうな。

「それじゃあ、あらためて確認なんだが……約十分に一回、ボスモンスターと戦闘をするのと、三階層で魔物たちを倒し続けるの、どっちの方が効率がいいと思う?」

 三人の意見を聞いてみたい。
 リアは考えるように顎に手をやっていて、アンナが控えめに手を上げた。

「私は、ボスモンスターを倒し続けるのがいいかな、って思いました」

 アンナの意見に、俺も同意ではある。
 ナーフィは首を傾げている。そういうのは、よく分からない、ということだろう。
 考えていたリアが、ゆっくりと口を開いた。

「あたしも、ボスモンスターを狩っている方が効率いいと思うわね。確実に言えzる情報だと、魔石の稼ぎに関してはこちらの方が圧倒的よ。ただ、レベル上げに関しては、もしかしたら三階層でうまく魔物と遭遇できれば、そっちの方がいいかも、とは思うけど……どうするの?」
「いや……歩きっぱなしは疲れるし、ここで待機しよう。ありがとな」

 リアが、俺たちのなんとなくで考えていたことを言語化してくれたおかげで、こちらの選択肢を選びやすくなった。

 リアの言うとおり、明確にメリットがあるというのなら、わざわざギャンブルしに三階層へ向かう必要もないだろう。
 三階層の場合は、ぐるぐる歩き回りあてもなく魔物を探して彷徨う必要があるわけだし。

 ひとまず、ブルーシートを召喚し、ボス階層の隅の方に敷いて、俺たちはそこで休憩を取る。
 ごろん、とナーフィが寝転がったので、ブルーシートはいくつか使う。おもりも召喚し、四隅に置けば完成だ。

 ……さて、この暇な時間。
 どうしようか。

「ん」

 ナーフィが食事を求めてきた。
 一応、収納魔法に入れてあるのだが、ナーフィは俺に要求することが多い。

「召喚魔法から勝手に食べてもいいんだぞ?」
「ん」

 首を僅かに横に振った。
 ……まあ、本当にお腹が空いた時とかは勝手に食べるだろう。

「おにぎりでも食べてみるか?」
「ん」

 ハンバーガーばかりもよくないだろう。俺はおにぎりを召喚し、ナーフィに渡していく。
 梅、鮭、おかか、ツナマヨ、ネギトロなどなど……様々なコンビニおにぎりを召喚していくと、リアとアンナもこちらにやってきた。

「ほら、戦闘で動けなくならない程度に栄養補給していけ」
「……い、いただきます」

 アンナが両手を合わせ、おにぎりをひょいと取る。
 彼女らも、随分と素直になってきたな。

 クックックッ。確実に、俺の召喚魔法がなくてはいけない体になってきているな。
 これなら、今後も一緒に冒険者活動を送っていくこともできるだろう。

 ……今後、か。
 どれほど彼女達と一緒にいるのかは分からない。

 ただ、まだ少なくとも数ヶ月は一緒に行動する、と思う。
 ……魔王というのがいつ頃討伐できるのか。あるいは、俺の召喚魔法が強化され、日本に戻る手段が見つかるようになるのか。

 日本に戻るとき、か。
 まだ、考えるには早いが、その日が来たときにはお別れをしないといけない。

 ……日本に戻っても、俺の召喚魔法が使えて、収納魔法が連結しているなら別に食事を提供する分には構わない。
 ただ、すべてなくなった時、彼女たちは自分たちで生活できるようにしていかないといけない。

 ……そのためにも、彼女らが自分たちだけで冒険者生活ができるよう、銃火器以外の武器も使えるようにした方がいいのだろうか?

 うーん……どうだろうか。

「シドー様! さっき言ってたツナマヨがめちゃくちゃ美味しいわね!」

 嬉しそうな表情で無邪気に食事をしているのは、リアだ。
 初日は結構警戒していた彼女だが、今は純粋に笑ってくれている。
 ……ひとまず、この笑顔を守っていくのが、今の俺の仕事だよな。

「そうだな。あとでまたたくさん召喚してやるから、そろそろ準備してくれ」
「あっ、そうね。ほら、二人とも。ちょっと倒してくるわよ」

 リアが二人に声をかける。
 ……まあ、私生活に関しては、リアがいれば問題ないだろうな。
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