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第17話
しおりを挟む宿へと戻ってきたところで、俺はぽつりと思い出す。
……そういえば、部屋ってどうするんだろうか? 二部屋借りればいいのか、それとも同室ではないとダメなのか?
詳しいことが分からないまま宿に戻った俺を待ち構えていたのは、宿屋の店員だった。
「なんだ、兄ちゃんも奴隷持っていたのか?」
責めるような雰囲気はなく、純粋な疑問を口にしたようだ。
ちょっと緊張しながらも小さく頷いた。
「……なんで分かったんだ?」
「奴隷の子たちは、一目見て分かるんだよ」
……分かるのか? 俺は見ても全く分からない。
「……もしかしたら、勇者は分からないのかもしれないけど、本能で分かるものなのよ」
リアがぼそりと教えてくれた。
……そうなんだな。
「ああ、そうだ。それで部屋についてなんだが……」
「一回り大きい部屋に移動した方がいいか?」
「……いや、部屋を分けようかと思っていたんだが」
「え? ……いやぁ、奴隷の子たちだけの部屋はちょっと用意できないなぁ」
マジかよ。
それだと、色々とまずくないだろうか? いや、奴隷相手にそんなこと気にするような人がいないのか。
「別に一緒の部屋で大丈夫でしょ。奴隷紋での契約もあるんだから、あたしたち別に警戒しないし」
……確かに、そうだな。
彼女たちからしたら、襲われる心配はないだろう。
なら、まあいいのか。
アンナはかなり緊張しているようだが、リアとナーフィは嫌がる様子もないし、別に問題なさそうだ。
緊張しているのはどうやら俺だけのようで、受付はスムーズに進んでいった。
部屋へと移動した俺たちは、そこで一息を吐いた。
リアたちも部屋へと入ってくる。
俺は先ほど……帰ってきた、落ち着ける、と思っていたのだが、こうして三人の女性と一緒だと全然落ち着けん……。
部屋には二段ベッドが部屋の左右に二つずつあり、中央には椅子とテーブルが置かれている。
とりあえず、色々と聞きたいことがあったので、リアを手招きして目の前の椅子に座らせた。
「どうしたのよ?」
「奴隷と主人というのは一緒の部屋になるものなのか?」
「貴族とかであれば別室を用意すると思いますが、冒険者の場合は基本的にそうね。無駄にお金がかかるわけだし、宿としても奴隷たちを見張っておいて欲しいってわけだしね」
まあ、確かにそうだよな。主人と一緒の部屋でいいのか? という疑問はあるが、それよりも奴隷のために部屋を用意する方が、大変か。
「リアたちは大丈夫か? 休まらないようであれば、どうにかして部屋をわけることも考えるけど」
「いいわよ別に。ていうか、作戦会議のときにこういう状況についてもちゃんと打ち合わせしてるし」
「……そうなのか」
なら、まあいいのか。他にも俺が知らないようなことで事前に打ち合わせしている可能性もあるよな。
それらに納得して、こうして俺の奴隷になると決めているのだから、気にしなくても良さそうだ。
「とりあえず……俺は公衆浴場に行って体を洗ってくる。リアたちも一日動いて疲れてるだろうし、行ってくるといい」
「……いいの?」
「あ。俺が結構気にするからな。体は清潔にしておいてくれ」
この世界で体を洗うには、公衆浴場くらいしかない。
そこも、シャワーのような魔道具のある個室が並んでいる程度だ。
高級な宿なら、宿自体に浴場もあるようなのだがそういうのは貴族が泊まるランクの宿だ。俺たちには縁遠い。
王城にいたときは、毎日気にせず入れていたが、馬車での旅の途中は川などで軽く汗を流す程度だった。
「……じゃあ、お言葉に甘えるわね。あたしたち、別にお風呂とか気にしないから、お金に困ったらそこは削ってもらっていいわよ」
「了解だ」
まあ、今のところはそんなに問題ないだろう。
公衆浴場だって、別にそんな大金がかかるわけじゃないし。
早速俺たちは体を洗いに、公衆浴場へと向かう。
男女分かれているので、俺は収納魔法にタオル、シャンプー、リンス、ボディーソープなどを収納していく。
「これ、異世界から召喚できるやつだから自由に使ってくれ」
リアに確認すると、彼女は早速収納魔法から取り出してみせた。
それらを一つずつ、どこでどう使うのかを説明していくと、リアはすぐに納得した。
「……貴族の家でも、ここまでのものはないわよ? 本当に大丈夫なの?」
「ああ。向こうだとそんなに高くなく買えるからな。自由に使ってくれ」
女性だし、色々あった方がいいと思っていたのだが、かなり驚かれてしまった。
「あと、着替えも収納魔法に入れておいた。それぞれの髪色に合わせてるから、それも確認してみてくれ」
「わ、分かったわ。ていうか、この服もそうだけどサイズぴったりなのはなんでなのよ?」
「分からん。三人それぞれに合わせて召喚魔法を使うとピッタリになるんだよ。便利でいいな」
「いいけど……なんか色々知られているようで気になるわね」
……そうなのだろうか。
一応、ブラジャーとかも召喚していれておいてしまったので、確かにこれはセクハラになるのかもしれない。
とりあえず、それで必要な情報は伝えられたので、俺たちは男女別れて移動する。
「ナーフィはこっちよ!」
俺の後をついてこようとしたナーフィの腕を引っ張り、リアが引き連れていく。
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