9 / 50
第9話
しおりを挟む「そうだ。ただ、契約内容に関しては別に無茶なものを要求するつもりはない。衣食住は用意するし、きちんと休養日も設定する。休みなく長時間戦えとも言わないし、その他契約上嫌なことがあればなんでも言ってくれ。俺があくまで欲しいのは、経験値を稼いでくれる人だ」
「……経験値を稼げれば、あとはなんだっていいってこと?」
「そうだな。給料もちゃんと払うぞ? とにかく、経験値が欲しいんだ」
「なんで、そこまでして欲しいのよ?」
「それは……」
さすがにそこまでを話すかどうかは迷っていた。
だが……リアたちにとっては悪い話でもないだろう。
「俺のこの食事を作り出す魔法……実は食事を作り出す魔法じゃないんだ」
「……他の効果があるってこと?」
「そうだ。元々は、召喚魔法って言ってな。俺は俺のいた世界から、ものを召喚する力を持ってるんだ」
「……俺のいた世界から、召喚って……まさか、シドーって……勇者とか?」
リアははっとした様子でこちらをみてきて、俺は頷いた。
「……別の国で召喚されてな。何人も勇者は召喚されたけど、俺には戦闘能力がないからって追放されたんだ。……俺の目的は元の世界に戻ることなんだが、帰るには魔王を倒すしかない。ただ、魔王を倒すのにどれだけ時間がかかるんだって話だろ?」
「そう、ね」
「なら、俺を召喚したこの召喚魔法を鍛えていけば、どうにかなるかもしれないと思ってな。だから、経験値が欲しいんだ。そのために、戦える人間を増やしたいと思って、立場的に弱いキミたちに声をかけたんだ」
……おまけに、今後二度と体験できないような食事も振る舞ってな。
この世界では調味料は極めて貴重だ。ジャンクフードに含まれているそれらは、かなり過剰なまでに使われているからな。
恐らくは、今のところ彼女らには中毒のようにその味が染み付いていることだろう。
今後しばらくは、普通の食事では満足できない体になってしまっているはずだ。
そもそも、腹一杯食事がとれる環境自体、今日を逃したら二度と手に入らないかもしれない。
……クックックッ。我ながら、えぐいやり方だとは思っている。
ゲス野郎と言われても構わないさ。
俺だって、生きるために必要なことなんだからな。
「俺が提供するのは、食事と武器だ。そして、キミたちは俺に経験値を提供してほしい。これが、俺とキミたちとの奴隷契約になる。嫌なら、部屋から出ていってくれて構わない」
俺は彼女らにそういって、入り口の扉を示した。 その間には何もなく、リアたちが出て行こうとすればすぐだ。
ここで、出て行かれたらまた別の人に声をかけるだけだ。
もしダメそうなら、方針を変える。それだけだ。
その間も魔力を使っているので、ちょっとずつではあるが成長もしているわけだし、決して悪くはないだろう。
「……さ、作戦会議したいわ! ちょっと外で待っててもらってもいい!?」
「クックックッ、いいだろう」
俺はそう言って、廊下へとでた。
なかなかに、ゲスなことをやってしまっているのは理解している。
自分好みの服を着させ、この世では味わえない食事をさせまくったんだ。
これはもう、シャブ漬けと一緒だろう。
……だが、異世界で生き抜くには、このくらいのことはしないといけないんだ。
少し廊下で待っていると、リアが姿を見せた。
「……作戦会議終わったわ。中に来てくれる?」
「ああ、分かった」
言われた通りに部屋へと戻り、もう一度席についた。
ナーフィが「ん」と机を指差した。
紙に広げていたポテトが全て終わっているので、追加で三つほど召喚して並べておいた。
リアがじとっとナーフィを見た。これから大事な話をするのに緊張感がないからだろうが、ナーフィは「食べる?」とばかりにポテトを一つ掴んで差し出した。
リアは迷いながらもぱくりと食べた。食べるんかい。
アンナはびくびくとしながらも、ナーフィの脇から手を伸ばし、食べている。ある意味、一番図太いかもしれない。
ごくんとポテトを飲み込んだリアが腕を組んだ。
「……一応、あんたの提案を受ける予定よ。ただ、奴隷契約に関しては奴隷商できちんと契約内容を詰めて、その上で判断するってことでいいわね?」
「ああ、大丈夫だ。それじゃあ、早速奴隷商に行くか?」
「ええ、そうね。それと……これはあくまで仮の契約ってことで。嫌になったら、契約破棄……っていうのは大丈夫?」
「もちろんだ」
クックックッ。これから毎日うまいものを大量に食べさせ、契約破棄したくならないようにしてやればいいということだろう。
そんなことを考えながら、俺たちは奴隷商へと向かった。
576
お気に入りに追加
1,289
あなたにおすすめの小説
トワイライト・クライシス
幸田 績
SF
ある日、人類はサイバーテロによって仮想現実と本物の現実世界を混同。住み慣れた街が、とあるSF小説の世界観に塗り替えられてしまった! 犯人に著作をパクられた女子高校生・澪は、自作のプロットに沿って仲間を集め、自ら主人公を演じて物語を進めようとするが……。桜咲く街を舞台に、すこしふしぎな青春群像×サイバネティック概念マウントバトル(という名の誇大妄想博覧会)が今、満を持して花開く――。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
私はあなたの婚約者ではないんです!
凪ルナ
恋愛
3歳のとき、前世を思い出した私。私ことアメリア・レンドールは乙女ゲーム『サクラ咲く出会い〜君と恋する』(通称『サク君』)の悪役令嬢だった。『サク君』では、私は第三皇子の婚約者だったけど、ぶっちゃけ好みじゃないし、第三皇子の腹違いの兄のサブキャラな皇太子様の方が好きだった。前世を思い出した後、皇太子様の同級生な3つ上の兄に引っ付いて回った結果、皇太子様にも可愛がられるようになり、見事、皇太子エディック殿下の婚約者の座に収まる事が出来た。
これはそんな私が第三皇子に婚約破棄?されそうになり、私が第三皇子と頭お花畑ヒロインにざまぁすることから始まる物語である。
いや、1つ言わせて?
だから、そもそも私あなたの婚約者ではないんです!
ーーーーーーーーーーーー
なんかしばらく色々忙しかったし、色々細かい設定考えてたら更新遅くなりそう…。
元々ゆるゆるふわふわ設定だったもの。
ただいま、更新準備中。しばしお待ちください( ^ω^ )
お気に入り登録100件突破!(2019年1月31日)
お気に入り登録200件突破!(同日)
お気に入り登録300件突破!(同日)
投稿した次の日開いてみたら100件超えてて吃驚しています。
(えっ、これあってるよね?壊れてない?大丈夫?
あっ、壊れてないのね。おーけーおーけー)
ありがとうございます!
お気に入り登録1000件突破!(2019年2月1日)
お気に入り登録2000件突破!(同日)
お気に入り登録5000件突破!(2019年2月13日)
ありがとうございます!
【注】
作者は豆腐メンタルなので、誹謗中傷はおやめ下さい。
誤字脱字等の間違いは多いと思います。指摘してくださるとありがたいです。
感想への返信は遅くなると思います。
突発的に思いついた話なので、設定はゆるゆるです。
誤字脱字等をご指摘いただいたみなさん、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる