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第9話

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「そうだ。ただ、契約内容に関しては別に無茶なものを要求するつもりはない。衣食住は用意するし、きちんと休養日も設定する。休みなく長時間戦えとも言わないし、その他契約上嫌なことがあればなんでも言ってくれ。俺があくまで欲しいのは、経験値を稼いでくれる人だ」
「……経験値を稼げれば、あとはなんだっていいってこと?」
「そうだな。給料もちゃんと払うぞ? とにかく、経験値が欲しいんだ」
「なんで、そこまでして欲しいのよ?」
「それは……」

 さすがにそこまでを話すかどうかは迷っていた。
 だが……リアたちにとっては悪い話でもないだろう。

「俺のこの食事を作り出す魔法……実は食事を作り出す魔法じゃないんだ」
「……他の効果があるってこと?」
「そうだ。元々は、召喚魔法って言ってな。俺は俺のいた世界から、ものを召喚する力を持ってるんだ」
「……俺のいた世界から、召喚って……まさか、シドーって……勇者とか?」

 リアははっとした様子でこちらをみてきて、俺は頷いた。

「……別の国で召喚されてな。何人も勇者は召喚されたけど、俺には戦闘能力がないからって追放されたんだ。……俺の目的は元の世界に戻ることなんだが、帰るには魔王を倒すしかない。ただ、魔王を倒すのにどれだけ時間がかかるんだって話だろ?」
「そう、ね」
「なら、俺を召喚したこの召喚魔法を鍛えていけば、どうにかなるかもしれないと思ってな。だから、経験値が欲しいんだ。そのために、戦える人間を増やしたいと思って、立場的に弱いキミたちに声をかけたんだ」

 ……おまけに、今後二度と体験できないような食事も振る舞ってな。
 この世界では調味料は極めて貴重だ。ジャンクフードに含まれているそれらは、かなり過剰なまでに使われているからな。
 恐らくは、今のところ彼女らには中毒のようにその味が染み付いていることだろう。
 今後しばらくは、普通の食事では満足できない体になってしまっているはずだ。

 そもそも、腹一杯食事がとれる環境自体、今日を逃したら二度と手に入らないかもしれない。

 ……クックックッ。我ながら、えぐいやり方だとは思っている。
 ゲス野郎と言われても構わないさ。
 俺だって、生きるために必要なことなんだからな。

「俺が提供するのは、食事と武器だ。そして、キミたちは俺に経験値を提供してほしい。これが、俺とキミたちとの奴隷契約になる。嫌なら、部屋から出ていってくれて構わない」

 俺は彼女らにそういって、入り口の扉を示した。 その間には何もなく、リアたちが出て行こうとすればすぐだ。

 ここで、出て行かれたらまた別の人に声をかけるだけだ。
 もしダメそうなら、方針を変える。それだけだ。
 その間も魔力を使っているので、ちょっとずつではあるが成長もしているわけだし、決して悪くはないだろう。

「……さ、作戦会議したいわ! ちょっと外で待っててもらってもいい!?」
「クックックッ、いいだろう」

 俺はそう言って、廊下へとでた。
 なかなかに、ゲスなことをやってしまっているのは理解している。


 自分好みの服を着させ、この世では味わえない食事をさせまくったんだ。

 これはもう、シャブ漬けと一緒だろう。
 ……だが、異世界で生き抜くには、このくらいのことはしないといけないんだ。

 少し廊下で待っていると、リアが姿を見せた。

「……作戦会議終わったわ。中に来てくれる?」
「ああ、分かった」

 言われた通りに部屋へと戻り、もう一度席についた。
 ナーフィが「ん」と机を指差した。
 紙に広げていたポテトが全て終わっているので、追加で三つほど召喚して並べておいた。
 リアがじとっとナーフィを見た。これから大事な話をするのに緊張感がないからだろうが、ナーフィは「食べる?」とばかりにポテトを一つ掴んで差し出した。

 リアは迷いながらもぱくりと食べた。食べるんかい。
 アンナはびくびくとしながらも、ナーフィの脇から手を伸ばし、食べている。ある意味、一番図太いかもしれない。
 ごくんとポテトを飲み込んだリアが腕を組んだ。

「……一応、あんたの提案を受ける予定よ。ただ、奴隷契約に関しては奴隷商できちんと契約内容を詰めて、その上で判断するってことでいいわね?」
「ああ、大丈夫だ。それじゃあ、早速奴隷商に行くか?」
「ええ、そうね。それと……これはあくまで仮の契約ってことで。嫌になったら、契約破棄……っていうのは大丈夫?」
「もちろんだ」

 クックックッ。これから毎日うまいものを大量に食べさせ、契約破棄したくならないようにしてやればいいということだろう。

 そんなことを考えながら、俺たちは奴隷商へと向かった。
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