終わりに見えた白い明日

kio

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【路地裏と少年】

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 生きてみないか、と私は言った。

 少年はやはり無言だったが、私は長い時間を待ち続ける。
 待ち続け、遂に少年の口がゆっくりと開かれた。
 私は聞き逃さないように、彼の声に神経を集中させる。

 こんな世界に意味はない、と彼は言った。
 四十年で滅んでしまうこんな世界に意味はない、と彼は言った。

 私はもう一度、彼に生きてみないか、と投げかける。

 彼は絶望に満ちた瞳を私に向けて、何かを怒鳴った。
 偽善者と聞こえた。
 俺とお前は違うと言われた。

 私は全てを認める。
 認めた上で、私はもう一度繰り返す。
 生きてみないか、と。

 だけど、彼は耳を傾けることはなく、全てを拒絶した。
 それでも諦めることはできず、私はもう一度同じ言葉を繰り返した。
 そして、全ての責任は私がとると告げた。

 彼は笑い声を漏らした。
 卑屈な笑い声だった。
 彼は自分が二十歳まで生きられないと言った。
 その責任を私にとることができるのかと訊ねた。

 私は少し考え、無理だ、と言った。

 彼は一瞬、呆然とした表情を見せ、すぐに顔を伏せた。
 彼の元から声が少しだけ洩れる。
 それは笑い声だった。
 先ほどのものとは少し違っているように聞こえる。

 馬鹿、と彼は言った。

 私は認めた。
 せきを切ったかのように、彼の口から罵詈雑言が飛び出してくる。
 全てが私に対するものだった。
 間違っていなかったので、私はその全てを認めた。

 笑い声は潜め、彼は顔を上げないまま声を抑えた。
 私は黙って、彼のことを見守った。
 そして、彼は顔を上げて、たった一言。

 お前らしいよ、と言った。






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