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チュートリアル編(過去)

チュートリアル編・プロローグ

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***

 ──これは、あの子がライラになった日。この世界でミナと出会った頃の記憶。






*****

『……さ……ね……ま……』

 うぅ……気持ち悪い……。

『……ね……おね……ら……!』

 うぅん……。
 お母さんあと五分だけ寝かせてよ……。
 ついでに気持ち悪いから今日は学校休ませて~。
 あ、朝食はリンゴカレーが良いなぁ……当然中辛だよー。

 むにゃむにゃ。

「お姉様ったら!」

「わっ! びっくりした!?」

 身体がビクリと跳ねる。
 立っていたからか足が少しだけガクンときた。
 いきなり耳元で大声出されたら誰だってびっくりするよね?

 ……あれ? いつの間にか私、外に居たっぽい?

 アスファルトと住宅が周りに並んでいた。

 ん?
 というか今の声って……誰?
 ウトウトしていたっぽいから聞き間違え? もしくは幽霊とか?

「もう! さっきからわたくしが話しかけているというのに全く気付いてくれないんですものー! 現在進行ですのよー!」

 ドアップに少女のプンプンと怒った顔がある。
 あ、幽霊じゃなかったや。
 怒った顔が少し幼く可愛いさをより引き立てていて、私には絶対にない美少女さに凄く惹かれてしまう……って、違うでしょ!

「え、えぇっー!? み、ミナ! ミナなの!?」

 滅茶苦茶驚いてしまったせいか、ズサーッと漫画のような飛び跳ね方をしてしまった。

「全く、寝ぼけていらっしゃいますのね……。緊急事態ですのにお姉様は呑気ですわ……」

 腰に当てていた両手を下ろし、女の子はため息をついていた。
 動く度に綺麗な金髪ツーテールがサラサラと揺れる。
 比較的低い背丈に上品な白のドレスがあまりにもこの場に異質で、より鮮やかに見えた。

 ちょっと我がままそうだけど愛くるしさに溢れたヒロイン級のその容姿は……間違えようもなく──

 ……。

 はっ!?
 一瞬思考が停止していた。
 我が頬をつねってみる。痛い!

 痛いイコール夢じゃないってことで、いや迷信かもしれないけど大体そんな感じで……つまりはコレが現実ってことで……?

「いやいやいや! この子が本当にミナなわけが──」

 私は今、過去にないほど混乱していた。
 私の様子にしびれを切らしてしまったのか、目の前の少女は声を張り上げ、

「あーもう! 双子の妹であるこのミナの顔をお忘れでして? ──ねぇ、お姉様?」

 最後だけは妙にゾクリとした声。
 細められた瞳がはっきりと私を見ていた。

 ……その顔、忘れるはずがない。

 普段愛玩動物のような可愛らしい容姿をしているのに、目の奥に危うげな気配が明確に潜んでいる。
 今のようにハイライトが薄くなった瞳を"サヤたち"の窮地きゅうちの場面で私は何度も見てきたのだ。



 そう、



 ミナ──ミナ・リルレイラートとは、私がさっきまでプレイしていたはずの乙女ゲーム『ツミビトライク』の悪役令嬢、その人の名前だった。








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