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学校生活編1

第十一話『ラブレター騒動8』

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 心配とは裏腹に、あの休憩時間以降、河野橋こうのばしさんたちと接触するようなことはなかった。

 昼休みはファンタジー組の女子たち+柊さんの四人で摂ったし、グループ行動が必要な授業もなくて、他の休憩時間も前後の席で雑談を交わして終わった程度。
 上記の昼休みの際に、ミナにも河野橋さんの件で巻き込むかもしれないことを伝えていたが、反応はいつも通りで、この辺は本当によく出来た妹なのである。

 そんなわけで、呆気なく放課後はやって来て、雑貨屋ハイドのメンバーは帰宅のため、昇降口まで来ていた。
 ここまで平穏過ぎて逆に不気味なくらいである。
 絶対に波乱が起きるだろうなって、予測していたんだけどなぁ……。
 良いことではあるのだが、明日以降が怖くなる展開でもあるので、心がモヤモヤした。

 で、だ。

 すっかり意識は河野橋さんグループ絡みのことに上書きされていたが、元々抱えていた問題が目下、鎮座している。

「また、手紙が入っているし……」

 私の下駄箱には、昨日と同じ便箋びんせんが入れられていた。
 この展開は流石に予想外である。

「ガルガの予測が正解でしたか……」

 カムイ様も可能性としては低いと言っていたから、少し戸惑っているご様子。
 台詞中にもあったけど、ツミビメンバーではガルガだけがこの展開を予測していた。
 当のガルガは、当然学校に通ってはいないのでこの場に居ないわけだが……まぁ、それはそのうちに分かるだろう。

「また不届き者からですの?」

「念のため、私が開けますね」

 ミナサヤの手紙に関する感想も続き、サヤが代表して便箋を開いてくれた。
 こう見えてサヤは、メンバー中で一番手先が器用だと認識されているので、特に誰からも止めるような声は入らない。意外にもミナもだ。……この辺りがサヤを認めている部分だと思うんだけど、絶対に本人は認めようとしないだろうね。

 考えてみれば、こんな感じで大体の時間において四人以上揃っているのだから、人の目を考慮すると、河野橋さんグループも接触しづらかったのかもしれない。
 ただ、なぁ……。
 同調圧力の魔物さんの名の由来は伊達じゃなく、明日にはその味方も増えていることだろうから、やはり明日以降がネックとなってくるだろう。現在彼女は根回し中だと、私は推測した。

 さておき。
 今に至っては最早、河野橋さん関係は別問題でしかなく、昨日から抱えている謎の差出人からの手紙のほうをどうするかが、最大の課題となる。

「なるほど……こう来ますか」

 手紙を開いて、カムイ様が「ほぅ」と感心したように呟いた。
 私もその横で、手紙の内容を確認してみる。



『最後の機会と思い、もう一度だけ手紙を送らせていただきました。
 今日も校舎裏でお待ちしています。
 これで駄目であれば諦めますので、出来れば一言でもお話しできましたら嬉しいです』



 ……これは、私もなるほどと思う。
 昨日待っていたけど来てくれなかったと言う体裁ていさいで書いているらしい。
 黒ローブ=差出人ではないと印象付けるためか、本当に偶然二つの出来事が重なっただけか。
 普通は前者なんだろうけど……。

「わざわざこんなものを送ってくる意図が分かりませんわ。まったく、不気味な手紙ですわね」

 意外に、と言うのも二回目なのでアレだが、冷静にミナは物事を見ているようで、私も同じ感想だった。

「ライラ様。今であれば退くことは可能です。いかがいたしますか?」

 サヤが私の目を見ながら、質問を投げかけてくる。
 一秒考え、

「危険ではあるけど、これは機会でもあると思うのよ。今回で黒ローブの正体を暴いて、何らかの形で決着を付けることが出来れば、少なくとも今後怯えて暮らさなくても良いわけでしょ?」

「虎穴に入らずんば……と言うことわざもありますからね。本来の予定にはありませんでしたが、僕もライラの意見に賛成です」

 カムイ様の言うように、本来の予定では手紙の差出人を探ることのみが本日の目的だった。
 だけど、朝早々に手掛かりが失われて、どうしようかと思っていたところに、こうして相手から招いてくれたのだ。
 どのような結論に行きついても、校舎裏に行ってみない手はなかった。

「お姉様とカムイ様のお考えを、否定する理由などわたくしにはありませんわ」

「私も皆様のお考えに賛同いたします。……ただ、念のためですが、ハイド様と良司様に連絡を残しておくのが賢明かと」

「その辺はサヤにお願いしても良い? 頼める?」

「かしこまりました。早速連絡を入れてみます」

 話しはまとまり、私たちは早速校舎裏へと向かう。
 少し遅れて、サヤは慣れた手つきでケータイ越しに通話をしていた。
 簡潔に済んだのか、道のりの半分ほどでケータイは仕舞われている。

 一見すると刹那的に動いているように見えるかもしれない私たちであるが、差出人の誘いに乗ることを即断出来たのには当然理由があって──



「──よう、待ちくたびれちまってたぜ。誰も通らねえから隠れるのにはまあ楽だったが、昼寝でもするか迷うくらいには暇くさくてなあ」



 校舎裏には予定通り先客が居た。
 しかも、何故だか学校指定のブレザーを身に着けている。

「ガルガのサイズってあったんだね?」

「ハッ! ハイドの野郎がどこからか持ってきやがったぜ? あいつもやるようになったようだからな、俺も鼻がたけえよなあ?」

 わざとらしくカムイ様を見ているので、多分オヤジさんを褒めつつ、その兄への皮肉も混ぜているのだろう。
 仲が良いのは散々知っているので、後半部分は軽く流して、

「ちゃんと誰にも見つからずにここまで来れた?」

「たりめーだろ? そもそもだ、この学校の警備は手薄過ぎて逆に心配しちまうくらいなんだよ。……で、その様子だとそっちは何か進展があったみてえだな?」

 私は赤髪ワイルド男の言葉に頷く。

 昨日の夜にファンタジー組全員で話し合われた内容は、黒ローブを相手に今後どう動いていくか、と言うものだった。
 結果から述べれば、学校組は明白に狙われていた私を警護しつつ、ラブレターの差出人の調査を同時進行。
 オヤジさんに関しては、良司さんと連携して、手紙から筆跡鑑定が出来ないか朝から動いてもらっている。あとはその他の雑務もオヤジさんが引き受けてくれていた。
 残ったガルガは、腕っぷしが立つため、有事の際の武力役を買って出ている。

 その際、ガルガはしきりに『奴はすぐに仕掛けてくる。だから、俺もこの世界の学校に通わせろ』と主張していたものの、流石に昨日の今日での編入は難しかったため、こっそり放課後の学校に侵入して待ち伏せすることを、辛うじての妥協点としていた。
 この辺は良司さんのコネも関係しているらしく、明らかな不法侵入だけど問題ないらしい。……大人の世界ってちょっと怖いかも。

 ガルガの主張に戻って、正直な話をすると。
 一日程度の短期間で、あからさまに黒ローブが仕掛けてくるとは思っていなかった。
 だが実際に、黒ローブか不明ではあるものの、手紙による呼び出しは再度起こってしまったわけで、ガルガの主張曰く、彼の予想が当たっていたことになる。
 ワイルド貴族だけあって、野生の勘を持っているのかもしれない。

 私は合流したばかりのガルガに現状の説明をして、

「さっきまた、こうして手紙が送られて来たよ。ただ、昨日みたいに時間は指定されていないし、これが本当に黒ローブからのものなのかはやっぱり不明なんだけど」

 校舎裏にはガルガを入れて、私、カムイ様、サヤ、ミナと五名ものツミビキャラが揃っていた。
 しかも、サヤにオヤジさんたちへと連絡を入れてもらっているので、実質的には六人以上が事に当たっていることになる。
 切り札の魔灰の首飾りは私が身に着けているし、ファンタジー組は日本人よりも遙かに高い戦闘能力を有していることもあり、これ以上の万全はないくらいには状況が整っていた。

 割と呑気にしていた私と裏腹に、ガルガはシリアス顔で口元を歪ませている。
 その目は対面の私を超えて、さらに先を見ていたようで。
 彼は鋭い声で吠えるように、



「──来るぞ! クソカムイ! あの黒野郎だ!」

「分かっています! ライラッ! 決して僕たちから離れないでください!」



 空気がピリっとしたと思った瞬間には、男性陣が構えつつ、叫んでいた。

 異空間結界の性質をカムイ様から聞いていたので、私の手は咄嗟とっさにミナサヤと繋がれる。
 サヤの右手が誰よりも速い反応を示していたのは流石である。
 このように肉体接触があった者と一緒に、異空間結界にはいざなわれるらしいとのこと。
 男性陣の声を証明するかのように、昨日と同じ得体の知れない感覚が私の中に蘇ってきて、

 瞬く間で、世界からは音が消えていった。

 そして──



「嘘っ!? ミナ!? ……サヤ!?」



 私の手は、がっしり両手が繋がれていたはずなのに、二人の手の感触がスルリと消えてしまっている。
 だから、空手くうしゅとなり、両手で無意味に拳が作られてしまう。
 二つの温もりが消え、横を見る私の視線の先には……

「黒、ローブ……!」

 音が消えた世界で、やはり音もなく黒ローブは、影から現れでた。

 サヤとミナが消えてしまった現実に、胸の中にくらいものが浮かんでしまうが、幸いとして──



「よう! 昨日ぶりだな、このクソ黒野郎ッ!」

「まさか……!? 異空間結界とも異なる結界だとでも、言うのですか……?」



 ガルガとカムイ様が私の視界に入り込み、その広い背中を見せている。

 ……ミナサヤは多分この結界に入ることさえ出来なかったんだ。
 そして、私の目前には頼りになるツミビヒーロー二人が居た。
 理解した以上、本当に申し訳なくはあったが、ミナサヤのことは一旦頭の隅に置いておき、今は目の前の黒い脅威に集中することにする。
 また足手まといになるのだけは勘弁だったから。

 昨日話合った際の最悪事態想定と同様に、魔灰の首飾りを胸元から取り出す。
 すでに構えていたガルガの両手にはナックルダスターがはめられ、臨戦態勢は完璧だった。

「……思考は後で嫌と言うほど出来ることでしょう。──"水よ。形を成して我につるぎを与えよ!"」

 らしくなく困惑を浮かべていたカムイ様も、気を取り直したのか、魔法詠唱から水流の長剣を作り出す。
 それを右手で構え、黒ローブの動きをその綺麗な青の瞳が追っていた。

 なし崩し的に対峙することになった昨日からの宿敵。
 だけど、手紙が送られてきた段階でこういう状況は想定していた。
 心構えと事前準備は繰り返しとなるが、万全なので、今以上の状況もそうそうないだろう。
 二人欠けてしまってはいるものの、考え方を変えてみれば、結界外で安全を保障されていると言うことに他ならない。

 音のない世界に四人の音だけが響く。

 私は取り出した魔灰の首飾りを前にかざし、頼りになる男性陣は隙なく私の両脇前方に着いた。
 素早く後ろに下がる黒ローブ。
 前回の世界と全く同じ行動であった。

 安心をして、でも、油断はせずに、私は心の中であの黒装束に向かって心の中で宣言する。



 ──今度はその正体を暴いて、心配事の一つを取り除かせてもらうからね!






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