上 下
1 / 1

平凡な男ですけど、魔王として物語をサクサク進めます

しおりを挟む
 
「私は女神ダンデライオン。海藤院かいどういんリクタ、あなたは今代の魔王として、この世界に召喚されました。ドゥユーアンダースタン?」

「イエスアイドゥ。魔王か、それは何とも面白そうだ」

「……あの、私が言うのもアレなんですけど、状況分かっています? 私、中々にトンでもない発言をしましたよ? ホント自分で言うのもアレなんですけど」

「ふむ、俺には理解力が足りていなかったか。てっきり、この世界……異世界に召喚された俺は、魔の軍勢の王として君臨し、いずれは勇者と戦い、そこで敗北し、悪役としてこの世界の歴史書のひとページとして記されて欲しい、そんなことを望まれているのだと勝手に解釈していたが……そうか、勘違いだったか」

「一言一句合っているし!? 合い過ぎて逆に怖いんですけど!? というかですね、あなたいったい何者なんですか? 召喚した私がいうのもまたまたアレなんですけど」

「海藤院リクタだ。女神たんぽぽに召喚された平凡な男だよ」

「ダンデライオン! 私、女神ダンデライオンですから!」

「うん? ダンデライオンとは英語でたんぽぽの意味だろ?」

「あなたの世界ではそうですけど、私の名前はたんぽぽじゃなくてダンデライオンなんですぅー! そこのところ間違わないように!」

「まずは魔なる軍勢の統率から始めることにしようか。福利厚生を整えて、それから──」

「私の話聞いていますか!? 大体、平凡な男の人が異世界に来てまず最初に考えることが、魔軍の統制とか福利厚生とか、あなた絶対に平凡じゃないですよね!?」

「たんぽぽよ。平凡だからこそ、こういった状況は常に予期しているものなのだ。──ああ、そうだった。生活水準の底上げが異世界では必須だったな。まずは食から手を付けるのが定番だろうか?」

「……つーん、知りません。もう勝手にしてくださいよ。女神様すねました、すねちゃいました。適当に知識チートでもなんでもやっていれば良いじゃないですかぁ? ぷくー」

「やれやれ……身勝手なたんぽぽだ。──むっ!? 今の『やれやれ』は中々に『やれやれ』系主人公ぽくはなかっただろうか? まぁ、所詮俺は脇役に過ぎないのだが、たまにはこうして主人公の真似事くらいしたい時もある」

「くッ……! 突っ込みどころがあり過ぎますけど絶対に突っ込みませんからね!」

「では魔界四天王たちよ! 人間たちの主要都市を落とし、魔軍の支配下としてくるのだ!」

『ははっ! 魔王様のお心のままに!』

「早っ!? 展開チョー早っ!? いくら何でも急展開過ぎません……? いつの間に魔界四天王とか作ったんですか? というか、もう魔軍の支配が完了している!?」

「俺は平凡な男だからな、せめて手際くらいは良くないといけないだろう?」

「手際とか最早そんなレベルじゃないですよね!? 召喚されてから三十分も経っていませんからね!?」

「魔王様ご報告いたします! 世界の九割を魔軍の支配下に置きました!」

「ごくろう」

「だから展開が早過ぎますって! 魔界四天王がもう帰ってきて世界のほとんどを支配完了とかわけわかめです!」

「ふっ……わけワカメとは面白いことを言うな、たんぽぽよ! 俺は今爆笑しているぞ」

「女神様のことをバカにしていますよね、あなた!? 全然爆笑していないですし、さっきのはただ噛んだだけですよぉ! あと、私の名前は女神ダ・ン・デ・ラ・イ・オ・ン!!」

「魔王様ご報告いたします! うっかり世界の十割を魔軍の支配下に置いてしまいました! ご意向に沿うことができず申し訳ございません!」

「まぁ、そういうこともある。気を落とすな。落とすなら今日は休んで疲れを洗い落したほうが建設的だ」

「ははっ! 寛大なお心、誠に恐悦至極に存じます!」

「……あの、空耳じゃないとしたら、もしかして、この世界の人間って滅んじゃったっぽい感じですか?」

「たんぽぽよ、俺はそんな野蛮な魔王ではないぞ? 当然、全ての地域において無血開城だ。この世界には存在しない菓子や、肌触りの良い衣服、住み心地の良い住居、これらを用いれば実に容易であったな」

「本当に知識チートしているし!? というか! まだ召喚してから一時間も経っていないんですけどぉー!」

「俺は平凡な男だが時間遅延の力を持っていてな、ここでの一時間はこの世界の六十年に値する」

「なにそのチート!? 女神様も知らないくらいの超チートなんですけどッ!」

「チート、チートと言われるのは好みではないな。これでも平凡なりに努力して習得した力なんだぞ?」

「平凡な人が努力して、そんな超凄い力を手に入れられるかぁあぁぁぁー!!」

「むっ? たんぽぽよ。その耳に着けているイヤリングが光っているぞ?」

「はぁはぁ……。こ、こちら女神ダンデライオンです。どうかしましたか先輩?」

「なるほど、無線か携帯電話のようなものだったか」

「え゛……? あ、いえ! 嫌ってわけじゃないですよ! 断じて違いますよ! ……あ、はい……分かりました……それでは、はい……失礼します。……はぁー」

「どうした、たんぽぽ? まるで先輩女神に、俺と共に違う世界に跳んで、今度は勇者をやらせ、たんぽぽが俺のサポートにつくよう言い渡されたような顔をしているが、一体どうしたんだ?」

「その通り、その通りなんですよぉ! もーッ! その察しの良さに最早突っ込み気もおきません! 一言一句そうですよぉー!!」

「我が配下たちよ達者でいるのだぞ?」

『ははっ! 魔王様のお帰りをいつまでもお待ちしております!』

「だから展開が早いですって!! ──きゃっ!?」

「しっかり俺につかまっていろよ、たんぽぽ。世界間移動は多少揺れるからな」

「お姫様抱っこされてる私!? というか召喚は女神様の役割なのに、普通に異世界へのゲートを開かないでくださいよぉッ!? どこまで非常識なんですか、あなたは!?」

「俺は平凡な男さ。では、次の世界に行くとしようか、たんぽぽよ」

「ダンデライオン! 女神ダンデライオンですから!!」

「こうして、平凡な男と女神たんぽぽの冒険の日々が始まった」

「何そのモノローグ風な台詞!? というか! 女神ダンデライオンだって言っているでしょうが! もぉーッ!!」






しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界転移したら~彼女の"王位争い"を手助けすることになった件~最強スキル《精霊使い》を駆使して無双します~

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ とある大陸にあるローレスト王国 剣術や魔法、そして軍事力にも長けており隙の無い王国として知られていた。 だが王太子の座が決まっておらず、国王の子供たちが次々と勢力を広げていき王位を争っていた。 そんな中、主人公である『タツキ』は異世界に転移してしまう。 「俺は確か家に帰ってたはずなんだけど......ここどこだ?」 タツキは元々理系大学の工学部にいた普通の大学生だが、異世界では《精霊使い》という最強スキルに恵まれる。 異世界に転移してからタツキは冒険者になり、優雅に暮らしていくはずだったが...... ローレスト王国の第三王女である『ソフィア』に異世界転移してから色々助けてもらったので、彼女の"王位争い"を手助けする事にしました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...