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第三幕

① ちょうど良い機会ですわね。こちらからもご相談させていただきましょう。

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 レオンハルトの塔の試しが終わると、中央の貴族達の興味は一気に慰霊祭へと切り替わっていた。

 何しろ、普通の慰霊祭ではない。レオンハルト公子によって発見された名も知らぬ騎士や兵士たちの霊を慰めるための厳粛な儀式なのだ。

 この祭祀は皇帝陛下が直々に執り行い、7公国全ての大公が一同に会する。
 近年、これほど大規模な鎮魂の儀式が執り行われたことはない。

 そして、この慰霊祭に併せて開催されるという夜会の噂が彩りを与えていた。

 慰霊祭の参列者がそのままスライドする格好になるこの夜会の豪華さは、全ての公国の主だった者が集まるという点において新年の祝祭さえも凌駕している。

 まだ少し先の話ではあるが、帝都は早くも熱気に浮かれつつあった。

 そしてローランはと言えば、魔術師団の一員として日常業務を過ごす一方でクララと恋のまじない符の増産に励んでいた。

 夜会は大規模な婚活会場となるのは確実で、これを逃がさない手は無いとクララとも意見は一致している。

 断罪の塔で共に商売に精を出したアルマがローランの元に訪れたのは、そんなある日のことだった。 

「リーズデール・アキテーヌ公爵夫人よりお言付けを預かってまいりました。お久しぶりです、ローラン様」
「アルマ! お久しぶり。なんだか、ずっと会ってなかった気がするのはちょっと不思議ね。けど、どうしてアルマがリーズデール様のお言葉を?」

 てっきり騎士団の世話に戻っていると思っていたので、少し意外だった。

「ローラン様が塔を出られましたので、今はリーズデール様のお手伝いをさせていただいているんですよう。慰霊祭の件でレオンハルト殿下との取次も増えるので、ローラン様ともお会いする機会も増えると思うのです」
「そう。リーズデール様のところに、ね」

 そう呟くローランの心境は少し複雑だ。
 奴隷落ちから救って貰った恩人であると同時に、ローランを商売事で出し抜いた女傑でもある。

 自分の得意分野と信じて疑わないことで、出し抜かれたのが悔しくて仕方が無い。

「それはちょうど良かったわ。近々、販売を再開しようと思っているのよ。また、手伝ってくれると嬉しいんだけど。もちろん、手数料は以前のままで」
「もちろんですよう。というか、そろそろ販売を再開してくれないと同僚が怖いんですよう」

 職場が変わっても、以前の同僚からはことある毎にせっつかれているらしい。
 やはり、恋バナは強い。
 
「ローラン。こちらの方はどなたなのですか? 随分と親しいみたいですが」

 ローランに教わって、恋のまじない符作りを手伝っていたクララが怪訝そうにアルマに目を向けた。
 安い魔術具を作りたいというクララの希望もあって、ローランは練習と実益を兼ねてクララに東方式の呪術具の作り方を教えている。

 特に恋のまじない符は数も必要なので練習にも最適だった。
 代わりにクララからはローランが苦手とする社交や公国の力関係などを学んでいる。

「ごめんなさい。紹介がまだだったわね。クララ、こちらはアルマ。その……私が断罪の塔に入れられていた時に色々と助けてもらったの。ローラン商会第1号スタッフでもあるのよ」

 ほほう、とクララの目が光る。

「アルマ。こちらはクララ。公国の魔術師団の先輩よ。そして、私たちの同志でもあるわ」
「初めまして、アルマさん。そうですか、あのまじない符を広めたのは貴女だったんですね。販路のことなどで、今後も相談させてくれると嬉しいですわ」
「もちろんなのですよう。こちらこそよろしくお願いいたします」

 ふっふっふと互いに黒っぽい笑顔を交わす2人に頼もしさを覚えながら、ローランは改めてアルマに向き直った。

「アルマ。それで、リーズデール様からのお言葉って?」
「あ、はい。失礼いたしました。お忙しい中とは思いますが、ご相談したいことがあるので1度屋敷に足をお運びいただきたいとのことです」
「お屋敷へ? 何かしら」

 心当たりは無いが、リーズデールからの呼び出しとあらば応じないわけにはいかない。

「多分、夜会のことではないかと思うのですよう」
「そう。なら、そうね……いい機会だし、私もリーズデール様にご相談させていただきましょうか」

 リーズデールからは商売に関することはちゃんと報告するように、と釘を刺されている。
 その一方で、相談事があればいつでも訪れるようにとも言われていた。

 夜会をターゲットにした商売再開は、このどちらのケースにも当てはまる。

 クララとアルマは頼りになる味方だが、高位貴族の社交に斬り込むとなるとローランを含めてやはり不安が残る。
 ここはリーズデールの助言がぜひ欲しいところだ。

「分かったわ。アルマ、承知いたしましたとお伝えしてくれるかしら?」
「はい。お言葉、確かにお預かりしたのです」
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