42 / 68
第三幕
① ちょうど良い機会ですわね。こちらからもご相談させていただきましょう。
しおりを挟む
レオンハルトの塔の試しが終わると、中央の貴族達の興味は一気に慰霊祭へと切り替わっていた。
何しろ、普通の慰霊祭ではない。レオンハルト公子によって発見された名も知らぬ騎士や兵士たちの霊を慰めるための厳粛な儀式なのだ。
この祭祀は皇帝陛下が直々に執り行い、7公国全ての大公が一同に会する。
近年、これほど大規模な鎮魂の儀式が執り行われたことはない。
そして、この慰霊祭に併せて開催されるという夜会の噂が彩りを与えていた。
慰霊祭の参列者がそのままスライドする格好になるこの夜会の豪華さは、全ての公国の主だった者が集まるという点において新年の祝祭さえも凌駕している。
まだ少し先の話ではあるが、帝都は早くも熱気に浮かれつつあった。
そしてローランはと言えば、魔術師団の一員として日常業務を過ごす一方でクララと恋のまじない符の増産に励んでいた。
夜会は大規模な婚活会場となるのは確実で、これを逃がさない手は無いとクララとも意見は一致している。
断罪の塔で共に商売に精を出したアルマがローランの元に訪れたのは、そんなある日のことだった。
「リーズデール・アキテーヌ公爵夫人よりお言付けを預かってまいりました。お久しぶりです、ローラン様」
「アルマ! お久しぶり。なんだか、ずっと会ってなかった気がするのはちょっと不思議ね。けど、どうしてアルマがリーズデール様のお言葉を?」
てっきり騎士団の世話に戻っていると思っていたので、少し意外だった。
「ローラン様が塔を出られましたので、今はリーズデール様のお手伝いをさせていただいているんですよう。慰霊祭の件でレオンハルト殿下との取次も増えるので、ローラン様ともお会いする機会も増えると思うのです」
「そう。リーズデール様のところに、ね」
そう呟くローランの心境は少し複雑だ。
奴隷落ちから救って貰った恩人であると同時に、ローランを商売事で出し抜いた女傑でもある。
自分の得意分野と信じて疑わないことで、出し抜かれたのが悔しくて仕方が無い。
「それはちょうど良かったわ。近々、販売を再開しようと思っているのよ。また、手伝ってくれると嬉しいんだけど。もちろん、手数料は以前のままで」
「もちろんですよう。というか、そろそろ販売を再開してくれないと同僚が怖いんですよう」
職場が変わっても、以前の同僚からはことある毎にせっつかれているらしい。
やはり、恋バナは強い。
「ローラン。こちらの方はどなたなのですか? 随分と親しいみたいですが」
ローランに教わって、恋のまじない符作りを手伝っていたクララが怪訝そうにアルマに目を向けた。
安い魔術具を作りたいというクララの希望もあって、ローランは練習と実益を兼ねてクララに東方式の呪術具の作り方を教えている。
特に恋のまじない符は数も必要なので練習にも最適だった。
代わりにクララからはローランが苦手とする社交や公国の力関係などを学んでいる。
「ごめんなさい。紹介がまだだったわね。クララ、こちらはアルマ。その……私が断罪の塔に入れられていた時に色々と助けてもらったの。ローラン商会第1号スタッフでもあるのよ」
ほほう、とクララの目が光る。
「アルマ。こちらはクララ。公国の魔術師団の先輩よ。そして、私たちの同志でもあるわ」
「初めまして、アルマさん。そうですか、あのまじない符を広めたのは貴女だったんですね。販路のことなどで、今後も相談させてくれると嬉しいですわ」
「もちろんなのですよう。こちらこそよろしくお願いいたします」
ふっふっふと互いに黒っぽい笑顔を交わす2人に頼もしさを覚えながら、ローランは改めてアルマに向き直った。
「アルマ。それで、リーズデール様からのお言葉って?」
「あ、はい。失礼いたしました。お忙しい中とは思いますが、ご相談したいことがあるので1度屋敷に足をお運びいただきたいとのことです」
「お屋敷へ? 何かしら」
心当たりは無いが、リーズデールからの呼び出しとあらば応じないわけにはいかない。
「多分、夜会のことではないかと思うのですよう」
「そう。なら、そうね……いい機会だし、私もリーズデール様にご相談させていただきましょうか」
リーズデールからは商売に関することはちゃんと報告するように、と釘を刺されている。
その一方で、相談事があればいつでも訪れるようにとも言われていた。
夜会をターゲットにした商売再開は、このどちらのケースにも当てはまる。
クララとアルマは頼りになる味方だが、高位貴族の社交に斬り込むとなるとローランを含めてやはり不安が残る。
ここはリーズデールの助言がぜひ欲しいところだ。
「分かったわ。アルマ、承知いたしましたとお伝えしてくれるかしら?」
「はい。お言葉、確かにお預かりしたのです」
何しろ、普通の慰霊祭ではない。レオンハルト公子によって発見された名も知らぬ騎士や兵士たちの霊を慰めるための厳粛な儀式なのだ。
この祭祀は皇帝陛下が直々に執り行い、7公国全ての大公が一同に会する。
近年、これほど大規模な鎮魂の儀式が執り行われたことはない。
そして、この慰霊祭に併せて開催されるという夜会の噂が彩りを与えていた。
慰霊祭の参列者がそのままスライドする格好になるこの夜会の豪華さは、全ての公国の主だった者が集まるという点において新年の祝祭さえも凌駕している。
まだ少し先の話ではあるが、帝都は早くも熱気に浮かれつつあった。
そしてローランはと言えば、魔術師団の一員として日常業務を過ごす一方でクララと恋のまじない符の増産に励んでいた。
夜会は大規模な婚活会場となるのは確実で、これを逃がさない手は無いとクララとも意見は一致している。
断罪の塔で共に商売に精を出したアルマがローランの元に訪れたのは、そんなある日のことだった。
「リーズデール・アキテーヌ公爵夫人よりお言付けを預かってまいりました。お久しぶりです、ローラン様」
「アルマ! お久しぶり。なんだか、ずっと会ってなかった気がするのはちょっと不思議ね。けど、どうしてアルマがリーズデール様のお言葉を?」
てっきり騎士団の世話に戻っていると思っていたので、少し意外だった。
「ローラン様が塔を出られましたので、今はリーズデール様のお手伝いをさせていただいているんですよう。慰霊祭の件でレオンハルト殿下との取次も増えるので、ローラン様ともお会いする機会も増えると思うのです」
「そう。リーズデール様のところに、ね」
そう呟くローランの心境は少し複雑だ。
奴隷落ちから救って貰った恩人であると同時に、ローランを商売事で出し抜いた女傑でもある。
自分の得意分野と信じて疑わないことで、出し抜かれたのが悔しくて仕方が無い。
「それはちょうど良かったわ。近々、販売を再開しようと思っているのよ。また、手伝ってくれると嬉しいんだけど。もちろん、手数料は以前のままで」
「もちろんですよう。というか、そろそろ販売を再開してくれないと同僚が怖いんですよう」
職場が変わっても、以前の同僚からはことある毎にせっつかれているらしい。
やはり、恋バナは強い。
「ローラン。こちらの方はどなたなのですか? 随分と親しいみたいですが」
ローランに教わって、恋のまじない符作りを手伝っていたクララが怪訝そうにアルマに目を向けた。
安い魔術具を作りたいというクララの希望もあって、ローランは練習と実益を兼ねてクララに東方式の呪術具の作り方を教えている。
特に恋のまじない符は数も必要なので練習にも最適だった。
代わりにクララからはローランが苦手とする社交や公国の力関係などを学んでいる。
「ごめんなさい。紹介がまだだったわね。クララ、こちらはアルマ。その……私が断罪の塔に入れられていた時に色々と助けてもらったの。ローラン商会第1号スタッフでもあるのよ」
ほほう、とクララの目が光る。
「アルマ。こちらはクララ。公国の魔術師団の先輩よ。そして、私たちの同志でもあるわ」
「初めまして、アルマさん。そうですか、あのまじない符を広めたのは貴女だったんですね。販路のことなどで、今後も相談させてくれると嬉しいですわ」
「もちろんなのですよう。こちらこそよろしくお願いいたします」
ふっふっふと互いに黒っぽい笑顔を交わす2人に頼もしさを覚えながら、ローランは改めてアルマに向き直った。
「アルマ。それで、リーズデール様からのお言葉って?」
「あ、はい。失礼いたしました。お忙しい中とは思いますが、ご相談したいことがあるので1度屋敷に足をお運びいただきたいとのことです」
「お屋敷へ? 何かしら」
心当たりは無いが、リーズデールからの呼び出しとあらば応じないわけにはいかない。
「多分、夜会のことではないかと思うのですよう」
「そう。なら、そうね……いい機会だし、私もリーズデール様にご相談させていただきましょうか」
リーズデールからは商売に関することはちゃんと報告するように、と釘を刺されている。
その一方で、相談事があればいつでも訪れるようにとも言われていた。
夜会をターゲットにした商売再開は、このどちらのケースにも当てはまる。
クララとアルマは頼りになる味方だが、高位貴族の社交に斬り込むとなるとローランを含めてやはり不安が残る。
ここはリーズデールの助言がぜひ欲しいところだ。
「分かったわ。アルマ、承知いたしましたとお伝えしてくれるかしら?」
「はい。お言葉、確かにお預かりしたのです」
1
お気に入りに追加
1,376
あなたにおすすめの小説
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。
ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。
いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。
成宮暁彦は独身、サラリーマンだった
アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ
スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。
なにぶん、素人が書くお話なので
疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。
あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。
【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。
白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。
ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。
ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。
それは大人になった今でも変わらなかった。
そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。
そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。
彼の子を宿してーー
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる