9 / 68
第一幕
⑦ …………最初にちゃんと言ってくださいませ!
しおりを挟む
年の頃は8歳ぐらいだろうか。何かに挑みかかるような強い視線が印象的だ。
あと10年もすれば、さぞかし貴族の令嬢達に騒がれる青年へと成長するだろう。
その未来の姿を想像するなら獅子のようなと表現するのが相応しいに違いない。
ただし、今は子獅子ならぬ子猫というところ。
はっきりいって、とても可愛いらしい。
「あら、可愛い」
思わずぽつりと呟いたとたん、少年はローランを軽く睨みつけるとがっかりしたように大仰に息を吐いてみせた。
「オーランド。本当にコレがハーデン伯爵の婚約者だったのか? とてもではないが、ドレスを着れるような体つきではないではないか。なんというか、そうだな。シンプルすぎる」
さすがに少しカチンときた。いくら騎士様の子弟だろうが礼儀というものがあるだろう。が、ムキになって反論するのもそれはそれで癪な話だ。
「……オーランド様。お孫様をこのような場所にお連れになるのはいかがかと存じます。子供の教育に相応しい場所とはお世辞にも言えません」
「誰が子供だ。糸杉女。無礼だぞ」
「無礼なのは貴方ですよ、坊や。テオ様。お手数とは存じますが、こちらのお子様を塔の外へとお連れ下さいまし。うっかり探検ごっこなどで死霊や妖魔に付け狙われたりしたら大変です」
「坊やだと? 取り消せ、糸杉。俺が好き好んでこんな格好をしてると思ってるのか!?」
よほど坊やと言われたのが腹立たしいらしい。少年は真っ赤な髪を振り乱し、それに負けないほどに真っ赤な顔でローランにつかみかかる。
が、ローランはあっさりと少年を引っぺがすと逆に抱き込むように押さえ込んだ。
「放せ、糸杉!」
「誰が糸杉ですか! ほら、よく触ってごらんなさい!」
「骨が当たって痛いだろうが! 木刀みたいな身体を押しつけるな!」
「ぼ、木刀ですって!? これでもそんなことが言えますか!?」
ギャアギャアと暴れる少年をむりやり胸に挟み込むように押さえ込み、なんとかしろとばかりにルドルフを見上げる。
しかし、そこにはローランが期待したような孫を躾けようとする祖父の顔の代わりに困惑したような騎士の顔があった。
「ローラン殿、そのだな。その方は儂の孫では無い。主だ」
「え、え? この坊やがですか?」
思わずぱっと力を緩めた隙にローランの胸元から逃げ出した少年は、顔を真っ赤にしたままローランを軽く睨みつけた。
「だから、坊やではないと言っているだろう。ルドルフ、この糸……女に教えてやれ。俺が言っても、信じてもらえそうにないからな」
「まあ、そのだな。この方は我が主にして、カルンブンクルス公国より推薦された帝冠継承候補のレオンハルト公子殿下であられる」
「て、帝冠の継承候補者?」
思いがけず飛びできてたとんでもない言葉にさすがに言葉を失った。
帝冠継承候補者と言えば、いかにローランがこの国の貴族事情に明るくないとは言え間違うはずもない。
ローランの祖国と違い、ヘプトアーキー帝国では皇帝は帝国を構成する七公国から選ばれる習わしだ。
これはひとえに帝国建国の際にかけられた呪いにより、皇帝の座にあるものは子孫を残せないためだ。
皇帝になる前に生まれた子であっても、ひとたび帝冠を授けられた瞬間に呪いが発動し生まれた子供は死に至る。
帝冠継承候補者もまた、候補に名を連ねたとたんに呪いの餌食となる。
子を成せるようになるまでに帝冠を得ることが叶わなければ、これもまた呪いに食い殺されるのだ。
「それでは、そのお姿はもしかして……?」
「そうだ。レオンハルト殿下は呪いから命を守るために成長を止めておられる。こう見えても、御年15歳だ。決して、幼子ではない」
言われみれば、確かに見た目はともかく言葉遣いは幼子のそれではない。
「わかったら、俺を子供呼ばわりしたことを訂正しろ。俺も言い過ぎた。い、糸杉木刀は取り消してやるっ!」
顔を真っ赤に染めたまま、明後日の方を向きながら宣言するレオンハルトにローランは彼を抱きすくめた際に衣服が乱れていることに気がつき、負けずに顔を赤らめたのだった。
「そ、そういう大切なことは最初から言っておくべきではありませんか!?」
と悲鳴じみた抗議の声を残して。
あと10年もすれば、さぞかし貴族の令嬢達に騒がれる青年へと成長するだろう。
その未来の姿を想像するなら獅子のようなと表現するのが相応しいに違いない。
ただし、今は子獅子ならぬ子猫というところ。
はっきりいって、とても可愛いらしい。
「あら、可愛い」
思わずぽつりと呟いたとたん、少年はローランを軽く睨みつけるとがっかりしたように大仰に息を吐いてみせた。
「オーランド。本当にコレがハーデン伯爵の婚約者だったのか? とてもではないが、ドレスを着れるような体つきではないではないか。なんというか、そうだな。シンプルすぎる」
さすがに少しカチンときた。いくら騎士様の子弟だろうが礼儀というものがあるだろう。が、ムキになって反論するのもそれはそれで癪な話だ。
「……オーランド様。お孫様をこのような場所にお連れになるのはいかがかと存じます。子供の教育に相応しい場所とはお世辞にも言えません」
「誰が子供だ。糸杉女。無礼だぞ」
「無礼なのは貴方ですよ、坊や。テオ様。お手数とは存じますが、こちらのお子様を塔の外へとお連れ下さいまし。うっかり探検ごっこなどで死霊や妖魔に付け狙われたりしたら大変です」
「坊やだと? 取り消せ、糸杉。俺が好き好んでこんな格好をしてると思ってるのか!?」
よほど坊やと言われたのが腹立たしいらしい。少年は真っ赤な髪を振り乱し、それに負けないほどに真っ赤な顔でローランにつかみかかる。
が、ローランはあっさりと少年を引っぺがすと逆に抱き込むように押さえ込んだ。
「放せ、糸杉!」
「誰が糸杉ですか! ほら、よく触ってごらんなさい!」
「骨が当たって痛いだろうが! 木刀みたいな身体を押しつけるな!」
「ぼ、木刀ですって!? これでもそんなことが言えますか!?」
ギャアギャアと暴れる少年をむりやり胸に挟み込むように押さえ込み、なんとかしろとばかりにルドルフを見上げる。
しかし、そこにはローランが期待したような孫を躾けようとする祖父の顔の代わりに困惑したような騎士の顔があった。
「ローラン殿、そのだな。その方は儂の孫では無い。主だ」
「え、え? この坊やがですか?」
思わずぱっと力を緩めた隙にローランの胸元から逃げ出した少年は、顔を真っ赤にしたままローランを軽く睨みつけた。
「だから、坊やではないと言っているだろう。ルドルフ、この糸……女に教えてやれ。俺が言っても、信じてもらえそうにないからな」
「まあ、そのだな。この方は我が主にして、カルンブンクルス公国より推薦された帝冠継承候補のレオンハルト公子殿下であられる」
「て、帝冠の継承候補者?」
思いがけず飛びできてたとんでもない言葉にさすがに言葉を失った。
帝冠継承候補者と言えば、いかにローランがこの国の貴族事情に明るくないとは言え間違うはずもない。
ローランの祖国と違い、ヘプトアーキー帝国では皇帝は帝国を構成する七公国から選ばれる習わしだ。
これはひとえに帝国建国の際にかけられた呪いにより、皇帝の座にあるものは子孫を残せないためだ。
皇帝になる前に生まれた子であっても、ひとたび帝冠を授けられた瞬間に呪いが発動し生まれた子供は死に至る。
帝冠継承候補者もまた、候補に名を連ねたとたんに呪いの餌食となる。
子を成せるようになるまでに帝冠を得ることが叶わなければ、これもまた呪いに食い殺されるのだ。
「それでは、そのお姿はもしかして……?」
「そうだ。レオンハルト殿下は呪いから命を守るために成長を止めておられる。こう見えても、御年15歳だ。決して、幼子ではない」
言われみれば、確かに見た目はともかく言葉遣いは幼子のそれではない。
「わかったら、俺を子供呼ばわりしたことを訂正しろ。俺も言い過ぎた。い、糸杉木刀は取り消してやるっ!」
顔を真っ赤に染めたまま、明後日の方を向きながら宣言するレオンハルトにローランは彼を抱きすくめた際に衣服が乱れていることに気がつき、負けずに顔を赤らめたのだった。
「そ、そういう大切なことは最初から言っておくべきではありませんか!?」
と悲鳴じみた抗議の声を残して。
1
お気に入りに追加
1,374
あなたにおすすめの小説
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います
かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。
現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。
一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。
【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。
癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。
レイナの目標は自立する事なのだが……。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました
鈴宮ソラ
ファンタジー
オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。
レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。
十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。
「私の娘になってください。」
と。
養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。
前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる