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第五章

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(順平は、デートの後では毎回、エッチしたいと思ってるんだな……そりゃそうか)
 祭の夜の濃厚なキスを思い出してしまい、洋太が赤くなって俯いた。
 洋太自身も、順平とのセックスは、初めてと思えないくらいに気持ちがよかった。よほど体の相性がいいのかも知れない。あの日の夜の自分の乱れっぷりを思い出すと、今でも恥ずかしくなるほどだった。
 それでも――。洋太は正直、体力も精力も有り余っている順平との激しい行為が、気絶してしまうほど快感が強かったからこそ、自分の体力がその負担にどれだけ連続して耐えられるのか? には、まだ自信がなかった。
 部屋を借りて一緒に住めば、必然的に、順平から貪欲に求められるまま行為の回数も増えるのだろう。そうなってから、もし自分が体調が良くなくて、エッチな気分になれない時も、順平の性欲につき合ってやれるのだろうか? 
 そうやって我慢をしてしまうことで、自分の中の順平に対する気持ちが、少しずつ変わってしまったりはしないだろうか……? 少し不安だった。
 やはりどう考えてもこんな心配は、まだつき合い始めて数日のカップルがするものではない。順平の提案は拙速すぎた。
 第一、洋太には、洋太の家の事情というものがあるのだ。いきなり「同性の恋人が出来たから、実家を出て二人で暮らしたい」と言って、すんなり通るとは思えない。何といっても、自分は由緒ある寺の跡取り息子なのだから。
 そこまで考えて、ちらと洋太が眼を上げると。向かい合ったテーブルには、肘をついた大きな手の甲に顎を乗せて、こちらをじいっと見つめている順平の顔があった。
 その熱っぽい眼差しが、洋太の頬や耳たぶ、唇、首筋と、シャツの広めに開いた衿からのぞく素肌の肩口などを舐めるようになぞって、愛撫しているように感じられてしまい、洋太は自分の顔がかあっと火照るのがわかった。
(やばいって順平……こんな人が大勢いる場所で、そんなエロい眼で見るのは……)
 洋太のそんな焦りにはお構いなしに、順平がわずかに開いた自らの日焼けした男らしい唇を、ゆっくりと、見せつけるように舌で舐めた。そのエロティックな仕草に、あの祭の夜を思い出してしまった洋太の下半身が熱く疼いた。
 まだ洋太が二人の関係を友人同士だと信じ切っていた頃。順平がいつも見せていた穏やかな眼差しは、彼のとてつもない我慢と意志の力で性欲を押さえつけていた結果だったのだと、洋太はつき合い始めてようやく悟った。
 ふと気がつくと、どこにいても順平が熱い眼差しで自分の姿を追っていた。
 まるでそれは、視線だけで洋太の体を強く抱きしめ、執拗に撫で回し、指や耳たぶを咥えてしゃぶり、椅子に座った腰を激しく何度も突き上げるような――公衆の面前に出すのがはばかられるほどの、剥き出しの男の情欲そのものの眼差しで、そのたびに洋太を赤面させるのだった。
 確かに、こんな順平とずっと街中にいるのは、どことなく居心地がよくなかった。早く誰も見ていない場所に移動して、壁でも床でも、縫い付けられたり押し倒されたりして、熱い口づけをされながら、激しく腰を揺さぶられたいような……。
 まだ指一本触れられていないのに、洋太の頭の中までもが、そんな熱に浮かされた妄想に支配されてしまう。あの激しい愛撫を求めてしまう。
――目の前にいるのは、自由にさせておくのは危険すぎる、猛った雄の獣だ。
 早く、どこかに閉じ込めてしまわないと……洋太がぼうっとする頭でそんなことを考えた時。順平が洋太を切なそうに見つめながら、低く甘い声で呼びかけた。
「……洋太。オレは一日でも早く、一緒に住みたい……お前はどうだ……?」
(オレも……今すぐ、お前と……あの夜みたいに……いっぱい、されたいよ……)
 思わずそう答えかけて、洋太がギリギリ踏み止まった。自分の中の熱い疼きを鎮めるように、かすかに震える手でグラスの水を一口飲んでから、ふーっと息を吐き出して、なるべく普通に見えるよう努力しつつ言った。
「そうだな……ちょっと、考えさせてもらってもいいか? 家のこともちゃんと相談したいし……」
「わかった。考えておいてくれ」
 順平がふっと視線をテーブルに置かれたままのコーヒーカップに落として、やっと洋太は呪縛が解けたような気がした。気づかれないよう深呼吸して、あがった息と、速くなっていた鼓動を整える。
「さ、じゃあ今日は、これから何処行こうか?」
 洋太が少し無理をしながら笑顔を浮かべて、順平に今日のデートの予定を尋ねた。……もちろん、決めるのは洋太なのだが。
 そう言いながら、目の前でこちらを見ている順平も、洋太自身も、デートの最後に立ち寄るどこかの密室で、二人きりで過ごすはずの濃密な時間を想像し、今から待ちきれないような思いでいるのが、内心ではよくわかっていた。口に出せないだけで。
 大きな窓から降り注ぐ日差しに、溶けたかき氷のシャーベット状の氷の中でレモンの黄色が鮮やかに映えていた。
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