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第一章
05-3
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「ど、どうした?!」
「あー……! ずりーぞ、洋太……っ」
「……?」
大きな片手で目を覆ったまま、順平が恨めしそうな声でぼそぼそと何か言っている。耳を近づけて内容を聞こうとすると……。
「……これじゃ、まるで逆じゃねーか。最初に会った時は、お前がオレを追っかけてきたくせに、今は……」
(ああ、そうだっけ……。オレとこいつが出会ったのは、あの海沿いの国道のレースで――)
付き合い始める前のことを懐かしく思い出して、洋太がちょっと笑顔になる。それを指の間から見た順平が、すかさず手を伸ばして洋太の首を抱くと、そのまま後ろの床に倒れ込んだ。突然のことに焦る洋太。
「……ちょっ、こらあ! まさか、まだやる気じゃないだろうな、お前っ?! いいかげんにしろよ!」
「うるせえな……何もしねえよ……」
不意に抱きしめられてじたばたしながらも、声に元気が戻った洋太に、ほっと安心した表情の順平。洋太のうなじに心地よさげに鼻を埋めながら、肺いっぱいに恋人の湯上がりの匂いを吸い込もうとする。
まるで、会えない期間も肺の中のこの空気だけを吸って生きていける……とでもいうように。
しばしそのまま二人で抱き合って横たわっていると、ずっと遠くで電車の通過する音や、国道を走る車のクラクションが風に乗って聞こえてきた。そして、相手の胸でリズミカルに刻む心臓の鼓動も。
「順平……顔、見せて……」
「……ああ……」
鼻先が触れ合うくらいの距離で黙って見つめ合っていると、じんわり温かいものが胸を満たしていく。順平が意外に長い睫毛を震わせながら、低い声で洋太に問いかける。
「……キスしたい……いいか? 洋太……」
「いいよ……オレもしたいと思ってたから……」
さんざん繋がって満たされたせいか、ようやく恋人同士らしいムードの甘い口づけを交わす二人。
舌で口中を犯すような激しいキスではなく。まだ日の浅いカップルが何回目かのデートで恥ずかしさを残しながら、それでも息が交わる距離感に慣れてきた、そんな感じの……だった。
呼吸をするために唇が離れると、互いに見つめ合い、また吸い寄せられるように唇を重ねては、優しく深く腕や足を絡ませていく。
体が触れ合うことで消えかけていた熾火に明るさが戻るように、少しずつ少しずつ混じり合う呼吸が速くなって、綿のように柔らかなものだった抱擁が次第に熱を帯びてきていた。
「……好きだ……洋太……」
「オレも、好きだよ……順平……」
”愛している”という言葉は、まだ自分達には早すぎるような気がして。洋太は胸を満たす温かい気持ちを表現するために、何度も繰り返して順平の耳に”好き”を届け続けた。
「順平が好き……大好きだ……ほんとに、好き……だよ……」
「……洋太……洋太……」
言葉では到底伝えきれない気持ちの深さを、順平は洋太を抱きしめる腕に込めて、その体内の熱を証として、重ねた唇に永遠に刻み込もうとしているかのようだった。
順平のキスは、洋太を求める彼の”魂”そのものだった。
そうやって二人で心地よい眠りに落ちるまで、体を結んでお互いの気持ちを確かめ合い、短いけれど幸せな夜を過ごした。
結局、朝が来るまでに順平は洋太を、あと二回は抱き、洗濯機に入れたまま干し忘れていた洗濯物は後で洗い直しになった。
(第二章に続く)
「あー……! ずりーぞ、洋太……っ」
「……?」
大きな片手で目を覆ったまま、順平が恨めしそうな声でぼそぼそと何か言っている。耳を近づけて内容を聞こうとすると……。
「……これじゃ、まるで逆じゃねーか。最初に会った時は、お前がオレを追っかけてきたくせに、今は……」
(ああ、そうだっけ……。オレとこいつが出会ったのは、あの海沿いの国道のレースで――)
付き合い始める前のことを懐かしく思い出して、洋太がちょっと笑顔になる。それを指の間から見た順平が、すかさず手を伸ばして洋太の首を抱くと、そのまま後ろの床に倒れ込んだ。突然のことに焦る洋太。
「……ちょっ、こらあ! まさか、まだやる気じゃないだろうな、お前っ?! いいかげんにしろよ!」
「うるせえな……何もしねえよ……」
不意に抱きしめられてじたばたしながらも、声に元気が戻った洋太に、ほっと安心した表情の順平。洋太のうなじに心地よさげに鼻を埋めながら、肺いっぱいに恋人の湯上がりの匂いを吸い込もうとする。
まるで、会えない期間も肺の中のこの空気だけを吸って生きていける……とでもいうように。
しばしそのまま二人で抱き合って横たわっていると、ずっと遠くで電車の通過する音や、国道を走る車のクラクションが風に乗って聞こえてきた。そして、相手の胸でリズミカルに刻む心臓の鼓動も。
「順平……顔、見せて……」
「……ああ……」
鼻先が触れ合うくらいの距離で黙って見つめ合っていると、じんわり温かいものが胸を満たしていく。順平が意外に長い睫毛を震わせながら、低い声で洋太に問いかける。
「……キスしたい……いいか? 洋太……」
「いいよ……オレもしたいと思ってたから……」
さんざん繋がって満たされたせいか、ようやく恋人同士らしいムードの甘い口づけを交わす二人。
舌で口中を犯すような激しいキスではなく。まだ日の浅いカップルが何回目かのデートで恥ずかしさを残しながら、それでも息が交わる距離感に慣れてきた、そんな感じの……だった。
呼吸をするために唇が離れると、互いに見つめ合い、また吸い寄せられるように唇を重ねては、優しく深く腕や足を絡ませていく。
体が触れ合うことで消えかけていた熾火に明るさが戻るように、少しずつ少しずつ混じり合う呼吸が速くなって、綿のように柔らかなものだった抱擁が次第に熱を帯びてきていた。
「……好きだ……洋太……」
「オレも、好きだよ……順平……」
”愛している”という言葉は、まだ自分達には早すぎるような気がして。洋太は胸を満たす温かい気持ちを表現するために、何度も繰り返して順平の耳に”好き”を届け続けた。
「順平が好き……大好きだ……ほんとに、好き……だよ……」
「……洋太……洋太……」
言葉では到底伝えきれない気持ちの深さを、順平は洋太を抱きしめる腕に込めて、その体内の熱を証として、重ねた唇に永遠に刻み込もうとしているかのようだった。
順平のキスは、洋太を求める彼の”魂”そのものだった。
そうやって二人で心地よい眠りに落ちるまで、体を結んでお互いの気持ちを確かめ合い、短いけれど幸せな夜を過ごした。
結局、朝が来るまでに順平は洋太を、あと二回は抱き、洗濯機に入れたまま干し忘れていた洗濯物は後で洗い直しになった。
(第二章に続く)
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