わたしは今宵、神になる

2.神の石

　２月中旬。立春も過ぎもう幾日もするとそこには春が待ち構えている。
「行ってきます」
唯一の家族である飼い猫のミケに挨拶をすると私は制服姿にパーカーを羽織り家を出た。すでに太陽は落ちかけている。

　今日も学校をサボったわけだが、家に居ると母親が早く帰ってきた場合にややこしくなるのでとりあえず家を出ておく。
父親も母親も朝が早く、わたしが起きる頃にはもう家には居ない。
今日もラップに包まれた朝食と一緒に"気をつけて学校行くのよ"と置き手紙があったが、押しつけがましくてムカついた。

　とくに目的地はないが、学校と向かって反対方向にひたすら歩く。
「うぅ...さむっ」
時折吹きかける冷たいビル風が肌に突き刺さる。
「あほみたいにマンションばっかり建てやがってぇー」
この埼玉の外れは数年前まで過疎っていたが、田舎のニーズが見直され今では都心からの移住者が増えている。そのため土地開発もぐんぐんと進んでいる、らしい。細い路地を貨物トラックが通り過ぎていく。

　しばらく歩いていると何やら道の片隅でキラキラと光るものを見つけた。この年で石拾いも恥ずかしいが、しゃがみこみ手に取ってみる。
手に収まるくらいの石は"この世"では見たことのないほど美しかった。よくよく見ると石の中から虹のように７色の光を静かに放っていた。

石に魅せられながら私は静かに立ち上がった。

次の瞬間!!
息を呑む間もなく身体中に衝撃が走った。



『パァーーーーーーー!!!!ダンッ!!!』



鈍い音と共に私の身体は宙を舞った。
静かに流れる時間の中でトラックの運転手と目が合った。
"なんでそんなに驚いた顔をしているの？"



綺麗な夕焼けが視界に入ったところで私の記憶は終わりを告げた。