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第2章

酔っ払いと夜の街 1

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 佐久さんの店を出て、銀座の道路でタクシーを捕まえようと歩き出したら、腕に赤堀がしがみついて来た。

「おい、何の真似だよ」
「ちょっと、足元がおぼつきません・・」
「あー・・ワインか・・」

 しまった。前回の店で、赤堀はアルコールの強い酒なんか飲んでなかった。ワインにも慣れてなかったみたいだし、今日は雰囲気に合わせて無理をさせたらしい。

「横にならなくて平気か? ふらつくだけか? 気持ち悪いとかは?」
「気持ちは・・悪くないです。ちょっと横になりたい気分ではありますけど、そこまででもないです」
「水は?」
「んー・・そんなに・・」

 受け答えはちゃんと出来てる。足元がふらつくってことは、すぐにタクシー載せるのは可哀そうだ。顔は、いつもより眠そうにも見える。

「この時間だからな・・ちょっとだけ歩くけど、ファミレスで休んでから帰るぞ」
「掴まってても・・良いです?」
「いいよ、掴まってろよもう。こういう時に転ぶと、簡単に骨が逝くからな」
「優し・・好き・・」

 だああああ、お前そういうのやめろ! そんなこと言ってるといつか襲われるからな! いや、俺は襲わねえけどな!
 赤堀は、歩きながら何度も躓いて、身体が前に倒れそうになったり、その体制を立てなおそうとして、後ろに倒れそうになったりしている。

「あー・・危なっかしいな」
「なんか、思うように、足が動かないです」

 足もうまく動いてねえし、しがみついている腕も何度かずり落ちていた。このままだと、そのうち転びそうだ。
 仕方がないから、しがみついている赤堀の腕を払って、肩を抱く形で支えることにした。不本意極まりないが、怪我をされたらこんな年末は病院だってやってない。

「ホラ、そこまでだから歩くぞ」
「え・・? 私たちって付き合ってます?」
「付き合ってねーよ、調子に乗んな」

 明らかに浮かれている赤堀に、また不覚にもかわいいとか思っている俺は何なんだろうか。それよりも、こんな風に優しくするのは、余計な期待を持たせそうでまずいかもしれない。

 とは言え、こんな状態の赤堀を放っておくわけにもいかないし、ワインを飲ませてこうなったのは間違いなく俺のせいだ。ぐるぐる考えながら歩いていると、ファミレスに着いた。


「悪かったな。あそこのワイン、料理と合うし飲みやすくて危ねえよな」
「美味しかったです・・」
「ちょっとここで休んでから帰ろう。今日はタクシーで送ってくわ。まあ明日は仕事も休みだし、店も混んでないことだし・・1時間程度、席で寝てくれてもいいよ」
「優しい・・茶谷さん・・もう・・」

 赤堀がおもむろにコートを脱いで、それを枕代わりにしてソファ席で横になった。明るい店内に放り出された無防備さに、目が行って仕方がない。
 こんな時だって言うのに妙に色っぽく見えるのは、普段と違うからだろうか。こいつ、こんな調子で男友達とやらと飲みに行ってんのか? ありえねえな・・。
 
「飲み物持ってくるけど、何が良い?」
「茶谷さん」
「アホか」

 どういう意味だよ、と呆れつつ、ちょっとぐっと来た気がしなくもない。いやいや、気のせいだろう。

 ドリンクバーで冷たい水とウーロン茶を入れて、赤堀に持って行った。
 赤堀は起き上がってウーロン茶をちょっとずつ飲み始め、こっちを見ながらニヤニヤしている。酔っ払いらしいテンション。おかしいだろ。
「お前、青木に告白されたんだろ」

 ついでに、さっき聞いた告白のようなものってやつを尋ねてみた。

「なんで知ってんですか」
「いや、露骨だからな、青木」
「確かに」

「青木の何がダメなんだ? 贅沢すぎだろ、お前」
「何が、じゃないですよ。茶谷さん以外はダメなんです」
「趣味変わってんな」
「いいじゃないですか、私の趣味なんですから」

 赤堀にちょっと睨まれた。青木だぞ? 見た目いいし、若くて俺より将来があるし、歳も同じで話題も合うだろうし、俺よりよっぽどお薦めだ。

「自分に自信ないくせに、なんでそこは肯定できんだよ?」
「好きだからですよ。仕事中の茶谷さんも、そうじゃない茶谷さんも。分かってないんだもんなあ・・茶谷さんがいてくれるだけで、私、こんなにハッピーなのに」

 あーはいはい、そうですかそうですか。聞いた俺が間違ってました。よくもまあ、そういうことを恥ずかしげもなく言えんなお前は。

「元カノさんには、何で振られちゃったんですか? それで、自分のことをそんな風に言うんですか?」
「うるせえ・・酔っ払いが」

 人の聞かれたくないことに、ずかずかと入ってこようとする奴だな。まだ誰にも言ったことねんだよ、珠里のことは。
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