上 下
17 / 59
第2章

微妙な世間話

しおりを挟む
 その日、会社を出ようとエレベーターホールに向かったら、そこに灰原がいた。エレベーターが一緒になるくらいは普通だけど、灰原は多分不本意だろうと思う。何となく。

「お疲れ様です。今帰りですか?」

 いきなり話を振られてビビる。灰原は入社して6年位だと思うけど、世間話をしたことは一度も無いはずだ。

「お疲れ。そう、今帰り」
「割と早いんですね、帰宅時間」
「提案前の時期くらいしか、残業しないからな」

 灰原がどういう意図で帰りが早いと言って来たのか分からず、微妙な気分になる。こういう時に限ってエレベーターがなかなか来ない。

「なんか、人一倍売上稼いでる人って、それだけ時間も働いてるのかと思ってました。要領が良いんですか?」
「多分、業務に時間かけてるやつ程、売上は頭打ちになってると思うけど?」
「はは、さすがエースってわけですか」

 なんて答えりゃいいんだよ、これ。褒められてる気がするけど、なんとなく奥底に敵意を感じる。こいつ、本当に底が知れない。
 ようやくエレベーターが到着した。助かった。

「茶谷さんって、赤堀さんの恩人らしいじゃないですか」
「は? なんでそれ知ってんの?」

 まさかあの鶴女、灰原と仲良いのか? 意外過ぎる。

「緑川さんから聞きました。赤堀さんと話してて、そんな話になったらしいですね。赤堀さんの恩人は恐らく茶谷さんだろうと緑川さんが伝えたら、本当に茶谷さんだったって聞いたので」
「ああ、緑川だったんだ」

 なるほどな。経緯がようやく分かった。赤堀は緑川から聞いたのか。

「なんで、人助けとかするんですか? 正義感とかあるんですか?」
「別にねえけど」
「茶谷さんって不思議な人ですね」
「お前に言われたくねえよ」

 エレベーターの中で、なんでこんなことになってるんだ。やっぱり灰原には敵意を持たれてつっかかられている気がする。

「僕、不思議ですか?」

 そう言った灰原を睨んでみると、その切れ長の目がこっちを見据えていた。これは、喧嘩でも売られたか。

「不思議に決まってんだろ。お前の考えてることはホントに読めねえよ」
「じゃあ、今、僕が考えてることを当ててみてください」
「はあ?」

 めんどくせえ・・。なんだよ、急に。どうでもいいわ。
 エレベーターが1階に到着したので、何故か灰原と言い合いをしながら歩く羽目になった。

「赤堀さんは、茶谷さんには勿体ないですよ、って考えてました」
「は?!」
「赤堀さんが茶谷さんを必死に追いかけているみたいだったので、忠告してみようかなと。若くてポテンシャルの高い、赤堀さんみたいな子に手を出さないで下さいねって」
「出さねえよ。余計なお世話だろ」

 そういうお前は緑川に手を出そうとするなよ、と言いたくなったがやめた。
 こういうことは、口に出した方が行動に出される気がしたからだ。
 それにしても、随分俺に対する評価は低いらしいな、灰原。

「お前こそ、裏で何やってんだかわかったもんじゃねえよな」
「はは、会社の中で何かするわけがないじゃないですか」

 ってことは、外ではしてんだな。そんな気がしたけど。

「ご丁寧に忠告をどうも。それを言うなら、赤堀にストーカーまがいのことは止めて欲しいって人事のお前から伝えろよ。セクハラされてんのは、残念ながらこっちなんだわ」

 そう言い捨てて灰原から距離を取った。
 灰原の最後の顔は、本当に柄の悪い男の顔をしていた。
 どういうつもりか分かんねえけど、どうやら敵視されているのは間違いない。

 赤堀のことも、目とか付けてんじゃねえだろうな・・。
 赤堀、お前、こういう男には気を付けろよ・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

処理中です...