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第1章
相談があると呼び出された話
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それは、業務が立て込んでいた日のことだった。会社のメールアドレス宛に、後輩から1本のメールが届いた。
『茶谷様
お疲れ様です。赤堀です。実は折り入ってご相談とご報告がありまして連絡しました。
現在営業部はお盆前でお忙しい頃かと存じますので、どこかご都合の良いところでお時間頂戴したく。
ちなみに、マーケは先月で佳境を乗り越えましたので、いつでも構いません。
ご検討、よろしくお願いします。
赤堀』
文面かってーな。赤堀、お前、普段と全然ちげーな、と突っ込みたいのを飲み込んで、どうやら深刻な相談があるらしい、と察する。
『ん? 急に何だよ』
とりあえず、探りの1本を転送先の会社携帯から送る。何て返ってくんだろうな、と若干不安になりながら待っていたら、
『茶谷様
お疲れ様です。赤堀です。要件は、個人的なことです。
以上、よろしくお願いします。』
という、またしても気持ちの悪いメールが戻って来た。
なんだよ、個人的なことって。噂になっていた青木との付き合いについて相談するつもりなら、全く興味がない。
『わけわかんねえ』
それだけ返信して、電話を掛けた。埒があかないのはどうも苦手で、さっさと要件を聞きたい。
「は、はい、お疲れ様です、赤堀です」
「なんだよ、あのメールは」
「ええと、折り入ってご相談がありまして」
「お前さあ、いつもそう言って時間だけ取ってフィードバックせずに逃げるよな?」
「今回はその場でフィードバックできます」
「いや、そういうことを言ってんじゃねえよ」
赤堀の声が、震えていた。個人的なことって、もしや、会社辞めたいとか、そういうやつか・・。
「お忙しいですよね・・」
赤堀の暗い声。おいおい、マジか、仕事辞められるのは本当に困る。マーケ、碧井とお前以外、話が通じねえんだよ。
「忙しいよ。当たり前だろうが。で? 赤堀はどの位、急ぎの案件なの?」
「え?」
「だから、いつまでに時間を取らなきゃいけないんだよ?」
「えっと・・いつまでとかは・・ないです」
「あっそう、じゃあお盆休み前でいいか?」
「え?」
「8月9日の金曜、夜は?」
「は、はい、勿論大丈夫・・ですけど・・」
「夕飯か飲みか、どっちでもいいけど、そういうことか?」
「はい!」
我ながら、良い先輩だなと思う。赤堀は既に異動して、営業部の後輩ではない。だけど、1年間見て来たんだし、育てればいいマーケターになる気がして引き留めなきゃいけないと咄嗟に思った。
お盆前の金曜日。こんな日に赤堀と会うことが青木にとってどう映るのかは分からない。というか、青木には相談しねえのかな、あいつ。
赤堀が仕事を辞めたいに違いないと確信して、8月9日の店を予約した。なるべく静かに話ができる店で、赤堀の悩みをしっかり聞こうと思ったからだ。
まあ、当てが外れすぎて全く笑えない結果になったのは言うまでもない。
『茶谷様
お疲れ様です。赤堀です。実は折り入ってご相談とご報告がありまして連絡しました。
現在営業部はお盆前でお忙しい頃かと存じますので、どこかご都合の良いところでお時間頂戴したく。
ちなみに、マーケは先月で佳境を乗り越えましたので、いつでも構いません。
ご検討、よろしくお願いします。
赤堀』
文面かってーな。赤堀、お前、普段と全然ちげーな、と突っ込みたいのを飲み込んで、どうやら深刻な相談があるらしい、と察する。
『ん? 急に何だよ』
とりあえず、探りの1本を転送先の会社携帯から送る。何て返ってくんだろうな、と若干不安になりながら待っていたら、
『茶谷様
お疲れ様です。赤堀です。要件は、個人的なことです。
以上、よろしくお願いします。』
という、またしても気持ちの悪いメールが戻って来た。
なんだよ、個人的なことって。噂になっていた青木との付き合いについて相談するつもりなら、全く興味がない。
『わけわかんねえ』
それだけ返信して、電話を掛けた。埒があかないのはどうも苦手で、さっさと要件を聞きたい。
「は、はい、お疲れ様です、赤堀です」
「なんだよ、あのメールは」
「ええと、折り入ってご相談がありまして」
「お前さあ、いつもそう言って時間だけ取ってフィードバックせずに逃げるよな?」
「今回はその場でフィードバックできます」
「いや、そういうことを言ってんじゃねえよ」
赤堀の声が、震えていた。個人的なことって、もしや、会社辞めたいとか、そういうやつか・・。
「お忙しいですよね・・」
赤堀の暗い声。おいおい、マジか、仕事辞められるのは本当に困る。マーケ、碧井とお前以外、話が通じねえんだよ。
「忙しいよ。当たり前だろうが。で? 赤堀はどの位、急ぎの案件なの?」
「え?」
「だから、いつまでに時間を取らなきゃいけないんだよ?」
「えっと・・いつまでとかは・・ないです」
「あっそう、じゃあお盆休み前でいいか?」
「え?」
「8月9日の金曜、夜は?」
「は、はい、勿論大丈夫・・ですけど・・」
「夕飯か飲みか、どっちでもいいけど、そういうことか?」
「はい!」
我ながら、良い先輩だなと思う。赤堀は既に異動して、営業部の後輩ではない。だけど、1年間見て来たんだし、育てればいいマーケターになる気がして引き留めなきゃいけないと咄嗟に思った。
お盆前の金曜日。こんな日に赤堀と会うことが青木にとってどう映るのかは分からない。というか、青木には相談しねえのかな、あいつ。
赤堀が仕事を辞めたいに違いないと確信して、8月9日の店を予約した。なるべく静かに話ができる店で、赤堀の悩みをしっかり聞こうと思ったからだ。
まあ、当てが外れすぎて全く笑えない結果になったのは言うまでもない。
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