上 下
156 / 229
第10章 新しい力

未来の約束 1

しおりを挟む
日も暮れ、夜になった。

カイはルリアーナに向けて発つ準備をする。ルイスから仕向けられた間諜は、レナによれば見張りに呪術の籠った宝石を持たせたので安全らしい。

(とうとうか。まさかルイス王子のところに向かうことになるとはな……)

カイはルイスを思い出す。

ルイスがレナを前にした時にどんな反応をするのか想像がつかなかった。
ブリステ側に間諜を手配する程度には、冷酷に物事を判断するようになっているのだろう。

「明日からは、馬で向かうの?」

テントの中でレナに尋ねられて、カイは我に返った。

「ああ、途中までは馬で動こう。移動時間がかかりすぎる」
「ポテンシアを抜けて、ルリアーナに入るのね。国境の町で、アウルに寄るのは難しい?」
「難しくはないが……、止めておいた方がいい」
「?」

「俺たちは、ポテンシアに住む一般人にとっては好まざる客だ」
「……侵略者だから?」
「今は、ポテンシアの敵だ」

カイがそう言ったのをレナは悲しそうに聞いていた。
一時期ポテンシアで過ごしていたレナにとって、その事実は決して軽くない。

「立ち寄る場所は、ロキの資本が入っている宿など限られたところにしていくつもりだ。こちらにあの青年実業家がいるのは都合が良かったな」

カイが淡々と説明するが、レナはまだ事実を割り切れていないような様子で黙っている。

「レナが勝ち取りたい平穏が、きっと次の機会を運んでくれるはずだ。それまでの辛抱と行こう」

カイは隣に座るレナの、顔に掛かっていた髪を掻き上げて唇を重ねた。

レナはいつも通りその行為を受け取っていたが、突然何かのスイッチが入ったようにそのまま体重をかけてカイを押し倒す。カイは『気』が足りず、集中しなければ思うように力が入らないのだ。

(?!)

カイは混乱から状況が把握できない。
テントの中で横になって上に乗られているだけでなく、口は塞がれたままだ。

普段であればレナを軽々と持ち上げることも態勢を変えることも可能なのが、『気』を失っているカイは、集中しなければ身体が上手く動かせない。

動揺から集中などできず、されるがままになっていた。

(待て、待て……! どうした?!)

暫く身体がまともに動かせなかったのを、意識を何とか保ち、カイはレナの肩を掴んで引きはがす。

「……はっ……どうした……? 急に……」

息も絶え絶えで、意識が遠のきそうだった。カイには全く余裕がない。

「これからみんなで移動をするから、二人きりでいられる時間も無くなるんでしょ?」
「ああ、まあ……そうかもしれないな」
「だから今だけは、我慢しない方がいいのかと思って」

カイは言葉を失った。我慢をしないとは? と頭が真っ白になる。

「いや、今、身体が思うように動かないんだ……」
「知ってるわ。だから、私がこうして……」
「待て、本当に待て」

カイが焦っていると、レナの身体が震えだす。

「ふ……うぅ……」

かろうじて漏れるような声に、レナの小さな泣き声が混じる。
一体どうしたのか、カイは理解ができない。

「不安なの……。この先の事も、あなたとの、未来も……」
「ああ、それは、そうだろう」

倒れたままのカイはレナを引き寄せて自分の上に腹ばいにさせると、いつもように抱きしめて頭を撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

天使な息子にこの命捧げます

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
ファンタジー
HOTランキング第6位獲得作品 ジャンヌは愛する夫に急死されて、生まれて間もない息子と二人で残されてしまった。夫の死を悲しむ間もな無く、伯母達に日々虐められるが、腕の中の天使な息子のお陰でなんとか耐えられている。その上侯爵家を巡る跡継ぎ争いに巻き込まれてしまう。商人の後妻にされそうになったり、伯母たちの手にかかりそうになるジャンヌ。それをなんとか切り抜けて、0歳の息子を果たして侯爵家の跡継ぎに出来るのか? 見た目はおしとやかな淑女というか未亡人妻。でも実際は…… その顔を見た途端、顔を引きつらせる者もちらほらいて…… 結果は読んでのお楽しみです。ぜひともお楽しみ下さい。

R18 騎士団長、どうか全裸を隠してください。私だけ騎士団長が全裸に見えるってどういう事?

シェルビビ
恋愛
 あらすじ 騎士団長色々見え過ぎですよ。  自称薬師のアリエルは転生者。夢見る少女の願いを叶えるために沢山の薬を開発しては販売していた。実際はプラシーボ効果を狙って作られた栄養剤で身体が健康になる以外デメリットはない。  ある日、一人の婦人が惚れ薬を作って欲しいと大金を持ってきたので依頼を受けた。  何時ものように瓶に栄養剤を詰めた物では高値で売れない。ハートにカットされた特注の入れ物に紫色の栄養剤を入れて売りつけた。  数日後、逮捕状を持った騎士がやってきた。どうやら隣国で男爵令嬢が魅了のクッキーで貴族たちの仲をかき乱したらしい。  何もしていないので正直に話すと動向を確認すると言われて毎日騎士が側にいられる羽目に。  一人の時間が過ごせなくなったアリエルはストレスが溜まって適当に薬を飲んだ結果騎士団長だけ全裸に見えるようになってしまった。  騎士団長だけ全裸に見える自称薬師とフルチンの姿の騎士団長の頭がおかしい物語。  登場人物  自称薬師アリエル  全裸に見える騎士団長ウィンター  薬師の友達チェチェ  など

没落貴族のやりすぎ異世界転生者は妹の病を治すため奔走する~しかし僕は知らなかった。どうやらこの世界はショタ好きが多いようです~

マーラッシュ
ファンタジー
 居眠り運転の車に巻き込まれて死んでしまった天城ヒイロ。気がつくと赤子に生まれかわり、そこはファンタジー小説に出てくるような異世界だった。  没落貴族の長男のユートとして育った彼は、この世界エルドアースのことや、様々なことを必死に学んだ。それは最愛の妹であるトアの身体を治すため――  だがトアはこの世界の医学では治すことが出来ない病に犯されていた。しかしここは魔法や不思議が溢れる異世界。トアの病を治すための方法が必ずあるとユートは諦めていなかった。  そして迎えた十歳の誕生日。ユートは洗礼を受けて女神から力をもらう。  その力はカードマスター。今まで聞いたことのないジョブだったことと、没落貴族であったことから、周囲から嘲笑される。  だが女神の力のせいなのか、ユートはジョブを授かった瞬間から、カードマスターの力を理解していた。  この世界のあらゆるものをカードにし使用できる力は、使い方次第では最強になれると。  これはカードに運命を託した少年が、望む未来手にするためにやりすぎてしまうドタバタな物語である。

処理中です...