134 / 229
第9章 知ってしまったから
運命を感じて
しおりを挟む
カイが単騎で駐屯地に戻ると、残っていた数名の救護班が駆け付ける。
「矢を抜きたい。清潔な布と刃物、それから湯を用意しろ。治療は俺がやる」
カイが指示をしながらクロノスから下馬し自分のテントに向かって歩いていると、走って来た兵士たちに布と刃物を渡された。
「湯は、後ほどお持ちします」
「助かる」
カイは清潔な布の上にレナを支えながら座らせるように置くと、矢尻の部分を手で捥いで匂いを嗅ぎ毒の有無を確かめる。
(丁寧に神経毒まで塗ったか・・)
舌打ちをしながら、矢を巻き込んでいる服の布地を軽くナイフで裂き、服を脱がせた。
矢を抜くために肌に刃物を立てなければならないことにも、矢が刺さった様子にも、カイは一度目を瞑って奥歯を噛み締める。
戦いの場に似つかわしくない白い透明感を持つ肌が、血で真っ赤に汚れていた。
「すまない、少しの間、痛むぞ」
肩で息をしながら意識を失っているレナに話しかける。
口に小さく裂いた布を咥えさせ、カイの肩に顔を乗せた。
矢の刺さった背中側にアルコール濃度の高い酒で消毒をしたナイフを当て、勢いよく矢を引き抜く。
レナの身体が痛みに跳ねるように揺れた。
続けて傷口が開く脇腹に口を当て、毒を吸い出す。同じことを四回ほど繰り返すと、毒の味が混じらなくなった。
(こんなことを・・経験などさせたくなかった・・)
傷口から勢いよく血が湧き出てくる。額に汗をかいているレナの身体は徐々に体温を失い始めていた。
「ハウザー様、湯をお持ちしました」
「入口すぐのところに置いておいてくれ。ありがとう」
カイは覚悟を前に、ふっと表情を和らげる。
(きっと、これが運命だった。このために、俺はレナに出会って惹かれたに違いない)
こんなことになって初めて、カイは父親がなぜ母親を救おうとして命を落としたかが理解できた。
目の前で愛する者を失うことに比べれば、自分に救う可能性があることが、どれだけ希望なのか。
それが例え自分を犠牲にすることであっても、選ばずにいられない道なのだということが。
「レナ・・」
荒い息をするレナの口から先ほど咥えさせた布を取り除くと、唇に自身の唇を重ねた。カイの口についていた血が、レナの唇を染める。
「こんなタイミングでしか応えられなかったとなれば、レナは怒るだろうな・・」
何度も、レナが望んでいた行為だった。ずっとはぐらかしてしまったことが心残りになりそうだ。
血の溢れ出る傷口に布を当て、手を添える。カイの中にある『気』をその手に集中させると、レナの身体の中に向かって『気』を放出した。
(まずい・・持たない・・)
レナの身体に布を掛けたり、汗を拭わなければ、とカイは必死に意識を取り戻そうとした。が、大きな気流が2人を包みだすと、身体から『気』を放出したカイは、意識を保つことができない。
カイはそのまま、レナに覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。
「矢を抜きたい。清潔な布と刃物、それから湯を用意しろ。治療は俺がやる」
カイが指示をしながらクロノスから下馬し自分のテントに向かって歩いていると、走って来た兵士たちに布と刃物を渡された。
「湯は、後ほどお持ちします」
「助かる」
カイは清潔な布の上にレナを支えながら座らせるように置くと、矢尻の部分を手で捥いで匂いを嗅ぎ毒の有無を確かめる。
(丁寧に神経毒まで塗ったか・・)
舌打ちをしながら、矢を巻き込んでいる服の布地を軽くナイフで裂き、服を脱がせた。
矢を抜くために肌に刃物を立てなければならないことにも、矢が刺さった様子にも、カイは一度目を瞑って奥歯を噛み締める。
戦いの場に似つかわしくない白い透明感を持つ肌が、血で真っ赤に汚れていた。
「すまない、少しの間、痛むぞ」
肩で息をしながら意識を失っているレナに話しかける。
口に小さく裂いた布を咥えさせ、カイの肩に顔を乗せた。
矢の刺さった背中側にアルコール濃度の高い酒で消毒をしたナイフを当て、勢いよく矢を引き抜く。
レナの身体が痛みに跳ねるように揺れた。
続けて傷口が開く脇腹に口を当て、毒を吸い出す。同じことを四回ほど繰り返すと、毒の味が混じらなくなった。
(こんなことを・・経験などさせたくなかった・・)
傷口から勢いよく血が湧き出てくる。額に汗をかいているレナの身体は徐々に体温を失い始めていた。
「ハウザー様、湯をお持ちしました」
「入口すぐのところに置いておいてくれ。ありがとう」
カイは覚悟を前に、ふっと表情を和らげる。
(きっと、これが運命だった。このために、俺はレナに出会って惹かれたに違いない)
こんなことになって初めて、カイは父親がなぜ母親を救おうとして命を落としたかが理解できた。
目の前で愛する者を失うことに比べれば、自分に救う可能性があることが、どれだけ希望なのか。
それが例え自分を犠牲にすることであっても、選ばずにいられない道なのだということが。
「レナ・・」
荒い息をするレナの口から先ほど咥えさせた布を取り除くと、唇に自身の唇を重ねた。カイの口についていた血が、レナの唇を染める。
「こんなタイミングでしか応えられなかったとなれば、レナは怒るだろうな・・」
何度も、レナが望んでいた行為だった。ずっとはぐらかしてしまったことが心残りになりそうだ。
血の溢れ出る傷口に布を当て、手を添える。カイの中にある『気』をその手に集中させると、レナの身体の中に向かって『気』を放出した。
(まずい・・持たない・・)
レナの身体に布を掛けたり、汗を拭わなければ、とカイは必死に意識を取り戻そうとした。が、大きな気流が2人を包みだすと、身体から『気』を放出したカイは、意識を保つことができない。
カイはそのまま、レナに覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
TERRE
河本AKIRA
ファンタジー
時は23世紀...世界国家による世界統治の時代……。
主人公ティエラとその仲間たちが世界国家の『陰謀』を阻止すべく、『特殊能力』を駆使し、世界国家に反旗を翻す……!
終わりなき戦いと憎しみの螺旋の先にあるものとは...。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる