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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く
誘惑
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レナがロキの元に滞在するようになって5日が経過した。ブリステの有名人に新しい女性の影と噂は広まり、レナはどこに行っても視線を浴びながら過ごしている。
王女として生活していた頃も常に人に見られて過ごしていたが、今の生活はどこに目があるか分からない点ではなかなか慣れなかった。
ロキの用意したホテルの特別室は、広すぎるくらい広く、サービスは過剰なくらいだった。クローゼットには丁寧に着替えの服まで用意されており、カミラが見繕ったらしく、上品で質の良い服ばかりだ。ライト商事の関係者はレナを重要な客だと認識し、常にレナの居心地に気を配っていた。
「ねえ、サービスが良すぎて、かえって居づらいわよ」
レナが社長室でロキにクレームを入れる。レナは不満そうだ。
「社員が勝手にやってることだよ。好意だと思って適当に受け取っておいてよ」
ロキはそう言って我関せずと言った様子で何かを書いていた。
「何か、ポテンシアの動きは分かった?」
「ルリアーナ支店に、ルイス王子のことを調査してもらってる。ルイス王子はルリアーナにいることが多いみたいだよ」
「・・ロキの会社に、ルリアーナ支店があるの?」
ロキは穏やかに笑って頷いた。
「前、あんたの護衛でルリアーナの国内をまわった時にね、ちょっと人助けをして。投資をしたのが今に繋がってると言うか」
「ふうん。そういうのを聞くと、さすがね」
レナはロキの仕事ぶりを側で見ていた。次々と動く商売の現場に、何度も感心している。
「まさか、ルリアーナの商品をブリステに輸入しているとも思わなかったわ」
「ああ、あんたが死んだと聞いた時にね。形見じゃないけど、いい商品を広めなきゃと思ったんだ」
「そう・・」
「見直した?」
「ええ、そうね」
「そろそろ、カイ・ハウザーから乗り換えてくれない?」
「何度も言うけど、それを期待しているのなら諦めて」
レナがハッキリ言う度、ロキは「まだその時ではない」のだろうと思う。レナの気持ちがカイにあるとしても、ロキはレナが毎日側にいることだけで充分幸せだった。
(彼女を戦場に送りたくないのは、あの団長と同じ意見なんだよなあ、残念ながら)
ロキは一刻も早く戦場に駆け付けたがるレナを見ながら、どうしたら彼女を安全な環境に置けるのだろうかと考えを巡らせる。意志の強いレナのことだ、恐らく諦めさせるのは無理だろうと思っていた。
「戦場に行きたいって、一番の目的は何なわけ?」
「・・カイの側に付いていてあげないと」
「いや、悪いけど、あんたが行ったところで絶対に足手まといにしかならないよ? カイ・ハウザーは、その辺の人に殺せるような男じゃないし」
「だけど・・」
歯切れ悪く話すレナに、ロキは溜息をつく。
「あの男に寄り添いたいとか思っちゃっているわけ? それで、カイ・ハウザーが救えるとでも?」
「そんな大層なこと、考えていないけど」
「素直に、帰ってくるのを待っているんじゃダメなの?」
レナは遠くを見るような表情で、何かを考えている。ロキは、仕方がないなと作戦を変えた。
「今日の夜、一緒に街に出かけよう。この街のことなら、ほとんどのことは知ってる。きっと楽しい」
「夜の街・・」
「この間はどこに行ったの? 団長と」
「歌劇を観て、食事をしたわ」
ロキは、歌劇か・・と少し考えると、
「夜の歌劇も演目が変わるからお薦めだな。何なら、うちのレストランに誰か呼んで歌ってもらっても良いし」
と思いついたように頷く。
「誰か呼んで?」
「歌劇に出てる役者は、別のところに呼んで歌を披露してもらうことだってできるんだよ」
当たり前のように言ったロキに、レナは驚いた。
(普段からそんな風に振舞っていたら、それは女性に人気もあるでしょうね)
この若い青年実業家が国内の女性を夢中にさせるのは、ある種当然なのかもしれない、とレナは納得した。
「あなたに色々してもらってばかりだから、更に何かをお願いするのは気が引けるわ」
レナはロキの誘いを断ることにした。今のレナは、衣食住全てをロキに頼り切っている。
「あんたには分からないと思うけど、俺にとってはレナ・ルリアーナという人に何かを出来るってことが奇跡なんだよ」
ロキはそう言って書類の束を揃えて脇に置いた。
「カイ・ハウザーの情報や戦地の情報が集まるまで、あと少し時間が欲しい。今日の夜の誘いに関しては、俺が同行者を探しているだけだから・・付き合ってよ」
レナは困った顔を浮かべながらも、ここまで世話になっている以上邪険にするほどのことではないと頷くしかなかった。
王女として生活していた頃も常に人に見られて過ごしていたが、今の生活はどこに目があるか分からない点ではなかなか慣れなかった。
ロキの用意したホテルの特別室は、広すぎるくらい広く、サービスは過剰なくらいだった。クローゼットには丁寧に着替えの服まで用意されており、カミラが見繕ったらしく、上品で質の良い服ばかりだ。ライト商事の関係者はレナを重要な客だと認識し、常にレナの居心地に気を配っていた。
「ねえ、サービスが良すぎて、かえって居づらいわよ」
レナが社長室でロキにクレームを入れる。レナは不満そうだ。
「社員が勝手にやってることだよ。好意だと思って適当に受け取っておいてよ」
ロキはそう言って我関せずと言った様子で何かを書いていた。
「何か、ポテンシアの動きは分かった?」
「ルリアーナ支店に、ルイス王子のことを調査してもらってる。ルイス王子はルリアーナにいることが多いみたいだよ」
「・・ロキの会社に、ルリアーナ支店があるの?」
ロキは穏やかに笑って頷いた。
「前、あんたの護衛でルリアーナの国内をまわった時にね、ちょっと人助けをして。投資をしたのが今に繋がってると言うか」
「ふうん。そういうのを聞くと、さすがね」
レナはロキの仕事ぶりを側で見ていた。次々と動く商売の現場に、何度も感心している。
「まさか、ルリアーナの商品をブリステに輸入しているとも思わなかったわ」
「ああ、あんたが死んだと聞いた時にね。形見じゃないけど、いい商品を広めなきゃと思ったんだ」
「そう・・」
「見直した?」
「ええ、そうね」
「そろそろ、カイ・ハウザーから乗り換えてくれない?」
「何度も言うけど、それを期待しているのなら諦めて」
レナがハッキリ言う度、ロキは「まだその時ではない」のだろうと思う。レナの気持ちがカイにあるとしても、ロキはレナが毎日側にいることだけで充分幸せだった。
(彼女を戦場に送りたくないのは、あの団長と同じ意見なんだよなあ、残念ながら)
ロキは一刻も早く戦場に駆け付けたがるレナを見ながら、どうしたら彼女を安全な環境に置けるのだろうかと考えを巡らせる。意志の強いレナのことだ、恐らく諦めさせるのは無理だろうと思っていた。
「戦場に行きたいって、一番の目的は何なわけ?」
「・・カイの側に付いていてあげないと」
「いや、悪いけど、あんたが行ったところで絶対に足手まといにしかならないよ? カイ・ハウザーは、その辺の人に殺せるような男じゃないし」
「だけど・・」
歯切れ悪く話すレナに、ロキは溜息をつく。
「あの男に寄り添いたいとか思っちゃっているわけ? それで、カイ・ハウザーが救えるとでも?」
「そんな大層なこと、考えていないけど」
「素直に、帰ってくるのを待っているんじゃダメなの?」
レナは遠くを見るような表情で、何かを考えている。ロキは、仕方がないなと作戦を変えた。
「今日の夜、一緒に街に出かけよう。この街のことなら、ほとんどのことは知ってる。きっと楽しい」
「夜の街・・」
「この間はどこに行ったの? 団長と」
「歌劇を観て、食事をしたわ」
ロキは、歌劇か・・と少し考えると、
「夜の歌劇も演目が変わるからお薦めだな。何なら、うちのレストランに誰か呼んで歌ってもらっても良いし」
と思いついたように頷く。
「誰か呼んで?」
「歌劇に出てる役者は、別のところに呼んで歌を披露してもらうことだってできるんだよ」
当たり前のように言ったロキに、レナは驚いた。
(普段からそんな風に振舞っていたら、それは女性に人気もあるでしょうね)
この若い青年実業家が国内の女性を夢中にさせるのは、ある種当然なのかもしれない、とレナは納得した。
「あなたに色々してもらってばかりだから、更に何かをお願いするのは気が引けるわ」
レナはロキの誘いを断ることにした。今のレナは、衣食住全てをロキに頼り切っている。
「あんたには分からないと思うけど、俺にとってはレナ・ルリアーナという人に何かを出来るってことが奇跡なんだよ」
ロキはそう言って書類の束を揃えて脇に置いた。
「カイ・ハウザーの情報や戦地の情報が集まるまで、あと少し時間が欲しい。今日の夜の誘いに関しては、俺が同行者を探しているだけだから・・付き合ってよ」
レナは困った顔を浮かべながらも、ここまで世話になっている以上邪険にするほどのことではないと頷くしかなかった。
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