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第6章 新生活は、甘めに

労働の自由

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 レナとカイは2人で朝食をとっていた。
 ハウザー家の朝食は、サラダと目玉焼きの乗ったオープンサンド、具のないブイヨンスープといったシンプルなものだった。レナはすっかり平民生活に慣れていたので豪華な朝食に感じたが、貴族階級の朝食にしては至って質素だ。

「レナの労働先のことなんだが……」

 カイは既に着替えを済ませてすぐにでも出掛けそうな格好をしている。城でカイを雇っていた時の服に身を包んだ騎士団長は、やはり目を見張るほど美しい。

「労働先?」

 レナは何の話だろうかと一瞬首を傾げた後、ああそう言えば働きたいとカイに伝えたのだったと思い出す。

「どこか見つかったの?」

 レナが思い出してカイに尋ねると、「執事のオーディスが、今日は一緒に町を案内する。恐らく、町に人手を求めている店があるはずだ」とカイは答えた。

「執事のオーディスさんが? カイは、どこかに出かけるの?」

 レナも、さすがにひとりになるのには心配なのか、不安そうな顔を見せる。

「俺は、騎士団の本部に行く。長い事不在にしてしまってシンに任せきりになっているし、若手の育成も気になっているところだ。今日は難しいが、そのうち同行するといい。シンもサラもいるから、あいつらも喜ぶしな」

 カイはレナに話しながら、そこに「ロキ」という名前が出せないことをどう思われるか、何か言われるのではないかと緊張していた。

「懐かしいわね。楽しみにしてる」

 レナはひとことだけ返事をすると、オープンサンドにナイフを入れて目玉焼きの黄身を切り開く。そのままレナは食事に向き合い、無口になった。腫れ物に触るような会話にカイは良心が痛む。

「レナは、無理して働きに出なくてもいいんだぞ? ここにずっといてもらって構わないし……」

 カイが食後のコーヒーを飲みながら、やはり元王女を町で働かせることの不自然さに悩みながら言った。

「いいのよ、私が働きたいんだから。あんまり活躍は出来ないと思うけど」

 レナはそう言って笑顔を作る。カイは、本人の意思を尊重するしかないかと諦めながらも、他人に話せる出自のないレナが下町に馴染めるのか心配だった。

「それにしても、働きに出なくてもいいだなんて。カイってば、まるで過保護ね」

 レナが朝食を終えてナプキンで口を拭きながらカイに言う。

「そりゃそうだろ。まだブリステに入国して1日だぞ。この国のことも知らないのに、いきなり下町で働かせるとなったら、心配事も多い」

 レナはカイの心配していることを理解しつつも、「あなたって、そういうところもあったのね。私のことなんて放って自分のことだけに集中するのかと思ったわ」と意外そうにしながら驚いていた。

(くそ……何て返すのが正解なんだ……)

 カイは、相手がレナだから心配なんだと言うべきか、心配するのは当たり前だろうと言うべきか、どちらにしても堂々と言いたいことが言えない自分に、朝から頭が痛かった。
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