213 / 221
the 34th day 終わりの前に
しおりを挟む
カイがレナとの外出を前に、城下町をどう歩くべきか悩みながら着替えをしていると、
「ちょっと、今、話せる?」
と、ロキがカイに声を掛けた。団員モードではなく、普段の関係で話がしたいということなのだろう。カイに対して敬語が消えている。
「ああ……どうした」
その時、シンは隣の部屋で護衛に入っていた。
「一応聞いておきたいんだけど……あの人のこと、どう思ってる?」
「あの人ってのは、殿下か。別にどうと言われても……」
カイはロキがレナを想っていることを知っている。2人で出掛けることが余程気に食わないのだろうと察した。
「誤魔化さずに教えてくれないと、こっちは困るんだよなあ」
「困る、か。任務に私情を挟むなと、日頃から言っているはずだが?」
「……ふうん、あくまでもその姿勢か」
ロキはカイを睨んだ後、
「言っておくけど、納得してないから」
と言い残し、隣の部屋に消えて行った。シンと護衛に入るつもりらしい。
「納得していないとは……何がだ……?」
カイは首を傾げて身支度を終えた。
「殿下、カイ・ハウザーです」
カイがレナの部屋を訪れる。レナはカイが来たことに期待と寂しさで複雑な気持ちを抱えていた。
「どうぞ」
レナの声が聞こえたのでカイが扉を開けて中に入ると、前にも一緒に出掛ける時に身に着けていた綿のドレスに、ゆるく髪をまとめたレナが待っていた。
レナは、カイを視界に入れた瞬間、無理をして微笑む。カイにも、それが心からの笑みでないことが分かった。
「言っておくが、この手の仕事は引き受けない主義なんだぞ。今回は1か月間の間に2回も受けることになったが……できれば感謝して欲しいものだが」
いつもは明るく笑うはずのレナの隣に立ち、カイはそんな皮肉を言いながら腕を軽く開く。自ら腕を差し出したカイに驚き、レナは満面の笑みを浮かべてしがみついた。
「そうね、あの『騎士団長様』がここにいて、一緒にデートをしてくれるなんて、光栄だわ」
「……いや、あれは、フィクションであって俺じゃない」
カイはそう言って苦笑するが、寂しそうだったレナがいつも通りに笑ったことを確認し、ほっとしていた。
「今日、結局行きたいところも、したいことも、ハッキリとは思いつかなかったの」
カイの腕にしがみついて城内を歩きながら、レナは正直に白状をする。
「じゃあ、適当に歩けばいいのか?」
城内を歩くレナとカイの姿を目にした使用人が、まるで仮装のように庶民に扮している2人に始めは気付かず、慌てて頭を下げていく。
「適当……ねえ。確かに一緒に歩きたいのはあるけど……」
レナはそう言って考え込む。カイの腕にしがみついているだけで目標の大半は達成し、何もしなくてもこうしていられれば、とすら思った。
「城下町に行った時に花火を見た、『空間の間』に行ってみたい」
レナは、あそこなら誰の目にも触れずに2人きりになれる、と、それだけを考えた。最後らしく、これまでのことを話したり、感謝を伝えたりしたい。
あともうひとつだけ、レナには小さな企みがあった。
「ちょっと、今、話せる?」
と、ロキがカイに声を掛けた。団員モードではなく、普段の関係で話がしたいということなのだろう。カイに対して敬語が消えている。
「ああ……どうした」
その時、シンは隣の部屋で護衛に入っていた。
「一応聞いておきたいんだけど……あの人のこと、どう思ってる?」
「あの人ってのは、殿下か。別にどうと言われても……」
カイはロキがレナを想っていることを知っている。2人で出掛けることが余程気に食わないのだろうと察した。
「誤魔化さずに教えてくれないと、こっちは困るんだよなあ」
「困る、か。任務に私情を挟むなと、日頃から言っているはずだが?」
「……ふうん、あくまでもその姿勢か」
ロキはカイを睨んだ後、
「言っておくけど、納得してないから」
と言い残し、隣の部屋に消えて行った。シンと護衛に入るつもりらしい。
「納得していないとは……何がだ……?」
カイは首を傾げて身支度を終えた。
「殿下、カイ・ハウザーです」
カイがレナの部屋を訪れる。レナはカイが来たことに期待と寂しさで複雑な気持ちを抱えていた。
「どうぞ」
レナの声が聞こえたのでカイが扉を開けて中に入ると、前にも一緒に出掛ける時に身に着けていた綿のドレスに、ゆるく髪をまとめたレナが待っていた。
レナは、カイを視界に入れた瞬間、無理をして微笑む。カイにも、それが心からの笑みでないことが分かった。
「言っておくが、この手の仕事は引き受けない主義なんだぞ。今回は1か月間の間に2回も受けることになったが……できれば感謝して欲しいものだが」
いつもは明るく笑うはずのレナの隣に立ち、カイはそんな皮肉を言いながら腕を軽く開く。自ら腕を差し出したカイに驚き、レナは満面の笑みを浮かべてしがみついた。
「そうね、あの『騎士団長様』がここにいて、一緒にデートをしてくれるなんて、光栄だわ」
「……いや、あれは、フィクションであって俺じゃない」
カイはそう言って苦笑するが、寂しそうだったレナがいつも通りに笑ったことを確認し、ほっとしていた。
「今日、結局行きたいところも、したいことも、ハッキリとは思いつかなかったの」
カイの腕にしがみついて城内を歩きながら、レナは正直に白状をする。
「じゃあ、適当に歩けばいいのか?」
城内を歩くレナとカイの姿を目にした使用人が、まるで仮装のように庶民に扮している2人に始めは気付かず、慌てて頭を下げていく。
「適当……ねえ。確かに一緒に歩きたいのはあるけど……」
レナはそう言って考え込む。カイの腕にしがみついているだけで目標の大半は達成し、何もしなくてもこうしていられれば、とすら思った。
「城下町に行った時に花火を見た、『空間の間』に行ってみたい」
レナは、あそこなら誰の目にも触れずに2人きりになれる、と、それだけを考えた。最後らしく、これまでのことを話したり、感謝を伝えたりしたい。
あともうひとつだけ、レナには小さな企みがあった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
マレカ・シアール〜王妃になるのはお断りです〜
橘川芙蓉
恋愛
☆完結しました☆遊牧民族の娘ファルリンは、「王の痣」という不思議な力を与えてくれる痣を生まれつき持っている。その力のせいでファルリンは、王宮で「お妃候補」の選抜会に参加することになる。貴族の娘マハスティに意地悪をされ、顔を隠した王様に品定めをされるファルリンの運命は……?☆遊牧民の主人公が女騎士になって宮廷で奮闘する話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる