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the 26th day 出兵

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 朝が来ると、ポテンシア兵たちは各所に散らばって教会の聖職者を城へ連行するように動いた。ルイスとブラッドがいる20人編成の一番大きな隊は、レジスタンスの本拠地と呼ばれるルリアーナ信教の修道院を目指している。レオナルドもそこに潜伏していることが分かっており、ミリーナも普段はそちらにいるという話だった。

 修道院はルリアーナ城から馬で数時間走れば到着する距離にある。その近さも、ルイスにとっては気になるところだった。

「いや、でもこの国自体、小さな国ですからね。レジスタンスの拠点も国の中心に近いところに置いただけでは?」
 ブラッドはそう言って、意気揚々とこれからの任務に向かっていたが、
「王家を憎むミリーナが、何故王家のいる城が見えるようなところに拠点を作るんだ」
 とルイスは反論した。

「うーん、そこまで意識しますかね……」
「何か仕掛けてくるつもりでずっと拠点を置いていたんだろうと読んでいるがな」
 ブラッドにはルイスの言うことがピンと来なかったが、もしルイスの読み通りだとすればミリーナは王家への復讐にレジスタンスを大きくしたのかもしれない。レナの呪いを実際に目にしても信じられなかったが、実の母がそこまで娘を傷付けられるものなのか、ブラッドには理解できなかった。

「ブラッドは、そういう世界があることが理解できないくらい、恵まれているんだよ」
 ルイスはそう言って笑う。つまり、ルイスにはそれが理解できる程度に、過酷な親子関係で育ったのだとブラッドは知った。

(あの国王陛下が父親ってことは、そりゃ普通じゃないよな……)
 ブラッドはそう思いながら、ルイスの言葉に「そうですね」と返す。修道院は、すぐそこに迫っていた。


「修道院は2棟あります。ミリーナがいるであろう修道女の棟、そして、レオナルドがいるであろう修道士の棟。どちらにどう、攻めましょうか?」
「中の様子が全く分からないからな……。修道士の方は、レオナルドがいる。修道女の棟の数を厚くしよう。騒ぎが起きるはずだから、短時間で攻めるぞ」

 ルイスは呪術師との対戦を前に、入念な打ち合わせをした。
 兵士個人の特徴を考慮した編成と、逃げられることを想定した囲い込みのシミュレーション、相手を傷付けずに捕らえるいくつかの方法について、目の前の棟の大きさを考慮しながら話し合う。

 隊はミリーナの捜索と聖職者の一斉検挙を目指す。呪術師相手にポテンシアの近衛兵たちがどれだけ活躍できるのか、まだ何も分からない。

「拘束具も足りないし、こんなことになると思わなかったから準備が万全とは言えないが……王女の呪いのことを考えたら、時間優先だ。上手くいかない場面もあるだろうが、頼む」

 ルイスはゆっくりと語り掛けるように言った。ブラッドを始めとする近衛兵たちは、ルイスの気持ちを想うと失敗はできないと気を引き締める。先に潜入捜査に入っているレオナルドがどんな動きをしているのか想像もつかなかったが、あの得体の知れない天才が仕事をしくじっているとはとても思えなかった。

(レオナルドは、今のところこちらの味方だ)
 ブラッドは、城下町に現れた外国人兵を一掃したというレオナルドに、今回の作戦への寄与を期待した。ポテンシア国王が具体的に動いてこない限り、ルイスの望む動きをしてくれるに違いない。そこに懸けるしかないことは不安だったが、不思議とレオナルドを信じることができていた。


「ブラッドさん、呪術って、どんなものなんですか?」
 修道院のすぐ近くに待機している間、部下に聞かれてブラッドは考えた。

「言葉でこちらの動きを封じようとしてきた時は、私には何も効かなかったな。それ以外には、自然現象を操ったり、遠くの人間と話をしたりするものがあったが……」
「自然現象、ですか……」
「まあ、弓矢とさほど変わらない。風を起こして来たり、火を投げつけて来たり、物理攻撃だと思えばさほど恐れるものではなかったぞ」
 ブラッドはスウの術を思い出しながら、部下の士気が下がらないように呪術について話をした。

「それに、術を扱う時の術師には、それなりに間が生まれる。相手の懐に素早く入って動きを封じてしまえば、何も怖くないだろうな」
 ブラッドは、そんなところも弓矢に似ている、と思った。
「そう考えると、レオナルドの方が怖いですね」
 部下に言われて、
「あいつより怖いやつなんて、そういないだろ」
 とブラッドは笑った。

「ルリアーナ王女の護衛にいた、あの異国人はどうなんですか?」
「…………あの男か。噂に聞いたことはあったが目で見て脅威そのものだった。戦場で見ていないので実際どうなのか分からないが、能力者で身体能力も普通ではない」
 ブラッドが呟くように言うと、
「でも、王女の呪いは防げなかったんですね」
 と部下が返す。

「大昔にかけられた呪いが、条件で発動しただけだ。ハウザー殿は気の毒としか言いようがないな。主君を護れなかったというのは、想像しただけできつい」
 ブラッドはそう言うと、いよいよ突入を控えた修道院の近くで深呼吸をする。
「そろそろだ。各自、体制を整えろ」
 ブラッドの低い声に、その場の兵士たちは息を飲んで修道院の入口を見つめた。
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