上 下
68 / 221

the 12th day 加護の力とは

しおりを挟む
「そもそも、現在の王政自体がまやかしです。人を欺いて作った政権や権力は、神などではない」
 訪れた教会の牧師から出た言葉に、ロキは息をするのも忘れて固まった。人を欺いて作った政権、という言葉にレナの先祖の姿が被る。

「人は生まれてから、神の下ではみな平等です」
 シンとロキは牧師の言葉に少し構えながら、
「そうなんですか」
 と適当に相槌をうち、飾り気のない質素な作りの教会を牧師と共に歩いていた。

「ええ、そうです。あなた方からは、とても強い力を感じますが」
 牧師はその後も2人を眺めながら興味深い様子で続けた。
「恐らくですが、あなた方は神の加護に近い力を身に着けていらっしゃる」

(神の加護――)
 2人は、何のことを言われているか分からなかった。
 ふと、王女から「素敵な加護がありますように」と送り出されたことが、頭をかすめる。

「神の加護なんて、教会の牧師様に言われると……何だか特別な感じがしてしまいますね」
 シンはそう言って誤魔化そうとしたが、牧師は主礼拝堂らしき場所に2人を案内して、着席を促した。
 礼拝堂の正面には、湧き水があふれている小さな噴水があり、涼しい音が広い空間に癒しの音を届けている。

「加護というものを、少し、お見せしましょうか」
 牧師はその噴水の前でゆっくりと2人の方を見た。


 礼拝堂の向かって一番前、噴水の前に立って牧師が祈りを捧げている。
 暫くすると噴水の中の水が波打ち始め、水の流れが少し変わったように見えた。
 チョロチョロと音を立てていた噴水が、今はブクブクと何かが湧き上がるような様子に変わっている。
 その中で牧師が祈りの言葉を唱え続けるのを、2人は固唾を飲んで見守っていた。
 得も言われぬ緊張感が、祈りの声と共に広い礼拝堂を包んでいる。

 牧師の祈りが時間にして10分程度続いたとき、前方から2人のところに何か見えない力が手を伸ばしてきたような、不思議な感覚を「見た」。
 その手のような感覚は2人の身体に触れた途端、蝋燭の火が消えるように「ふっ」と目の前で無くなってしまう。

「やはり、あなたたちには加護の力がついていた……」
 牧師は祈りを止めると、シンとロキをじっと見る。
「今、私が働きかけた力を、防ぎましたね」
 そう言われたシンとロキは、背負った荷物の中に隠している武器を出すか迷いながら、
「何のことか分かりませんが……」「貴重な体験ができました」
 と言って席を立ち、早々に教会から立ち去ることを決めた。

「そうですね、その力の正体は分かりませんが、大切になさってください」
 牧師がにこやかに言うと、2人は頭を下げて逃げるように出口に向かう。
 そこで起きたことはよく分からなかったが、ここに居てはいけないと2人の本能が言っていた。


「いや……なんだよ……ヤバかったのか? 何かをされた感じはしなかったけど……」
 シンは、自分たちを追ってくる者がいないかを確認しながら教会を背に急いだ。
「よく分からないけど……王政への言い方といい、少し心配な宗教だね」
 ロキも後ろを気にしながら先を急いでいる。

 牧師が言う『加護に似た力』とやらに、助けられたのだろうか。
 目に見えない力に、特に何かをされたようにも思えない。
 何が起きたのか、2人には全く分からなかった。


「あの人の存在を、まやかしだなんて言って欲しくなかったな」
 ロキは、牧師の言葉が忘れられない。
 この世の不平等や身分の差を無くしたいと言っていた、レナの姿を思い出す。
 そんなのは綺麗事だと否定したロキに、レナは正面から立ち向かっていたではないか。

(あの人の何を知っているんだよ……)
 ロキは悔しさを噛み締める。思えばレナの考えは、牧師の唱えた教えと全く同じだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...