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the 7th day お見合い相手は王子様

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 その日の見合いは、午前中に行われた。朝からぞろぞろと護衛を連れた見合い相手は、ルリアーナの城内を物々しい雰囲気に変えている。
 やってきたのは、隣国のポテンシア王国の第四王子、ルイス・ポテンシアとその護衛、付き人の総勢20名だ。

 見合いの場にも2名同席したいということで、カイはシンを伴って見合いの席に同席することにした。ロキは扉の外に待機させている。

「今迄で1番大層な訪問ね」
 シルクでできた水色のドレスを着て髪をアップにしたレナは、応接室に向かう間にすれ違う護衛達を見て小さな声で言った。カイは隣でルイスの護衛の様子に神経を尖らせている。

「この度は、ポテンシアからはるばるお越しくださいまして、ありがとうございます」
 レナが部屋に入って挨拶をすると、護衛を2人連れた華やかな若い王子が、
「ああ、レナ様、ずっとお会いしたいと思っておりました」
 と、柔らかな表情で微笑んだ。軽くウェーブがかかった短いピンクブロンドに青い瞳を持つ容姿端麗な王子は、育ちの良さが滲み出ている。

「あなたのお父様には何度かお会いしましたが、あなたとこうして話すのは初めてですね。歳の近い王子がいることはうかがっておりましたが」
 レナがそう言って王子の前に立つと、王子は跪いてレナの手に口付けし、
「私は、父に会っていたあなたを遠くからお見かけしたことが何度かあります。同じ年頃で立派に公務をこなされている姿を見て、自分も負けてはいられないと思ったものです」
 と言ってレナをじっと見つめた。

「私のことは、ルイスと呼んでください。同盟国の王族同士、この様なお見合いの機会でなくとも交流は続けたいと思っていますから」
 レナがルイスに着席を促すと、
「これからも、末永くポテンシアをお願いしたいのです、私たちは」
 と、ルイスは着席しながら意味深に言った。

「ルリアーナの中には、ポテンシアをよく思わない方たちがいらっしゃるようですね?」
 ルイスの言葉に、レナは少し体をこわばらせた。

「その件については、国内の統制を取れない私の力不足ですね。今、調査をさせていますが、貿易面で支障が出ているとか」
 そう言うとルイスを真っ直ぐ見つめて、
「なんとかしなければと、画策しているところです。至らない私を責めにお越しになるのも、無理はありませんね」
 と、言って頭を下げた。ルイスはそれを見て、
「そんなつもりで来たのではありません!私も年頃なので見合いは楽しみにしてきました。国内の統制が難しいことは、王族の端くれですから理解しています。何か、私にも出来ることがあればと思いましてね」
 と、慌てて弁解した。その慌てぶりをみて、レナは力が抜けて思わず微笑む。

「ただ、ここに来るまでに無事でいられるかどうか、心配だったのは確かです」
 ルイスの言葉に、護衛の量に質が伴っていたのはそういうことか、とカイは納得した。

「レナ様が信頼できる方であることは、理解しています。ポテンシアのために保存のきく食料品を開発しようと働きかけてくれて、一部の貧しい村にも質の良い食料品が入るようになりました」
 ルイスはそう言うと小さなため息をつき、
「失礼を承知で申し上げますが、ルリアーナは爵位を剥奪すべき方がいらっしゃいますね」
 とハッキリ言った。

「私も、それをどうしたら推し進められるのか、ちょうど頭を抱えていたところです」
 レナはここで隠しても仕方がないと悟り、包み隠さずに言った。カイの隣にいたシンが一瞬緊張した表情になる。
 カイはシンを横目で見ながら、これから忙しくなるぞ、と心の中で呟いた。

「私にも協力できることはありませんか?ポテンシアには、ルリアーナには存在しない軍隊がおります。只今同席している兵士の2名も、1人は護衛として、1人は間諜として優秀な者です。許可をいただければ、この2名でルリアーナ内を少し回らせていただきたい」
 そのルイスの申し出を聞き、
「差し出がましいようですが、私の意見を伝えても?」
 と、レナの後ろに控えていたカイが口を開いた。

「協力者をいただけるのは、こちらとしても願ってもない話です。ポテンシアの王族が抱える優秀な間諜と護衛とあれば、心強い。ですが……」
 レナは黙ってカイの言葉を聞いている。ルイスはレナの護衛に付いている2人が只者ではないことを察していた。

「ルリアーナ内にポテンシアを排除したい勢力がいるのは間違い無いと踏んでいます。となれば、王子の手のものが動いて都合がいいのは、あちらでしょう。私のように金で雇われた利害関係のない騎士であれば、何があっても国交には影響がありませんが……」
 そこまで言うと、カイはルイスを見て口をつぐむ。

「もし、私の手のものに何かがあれば、同盟国としての立場がいよいよ危うくなるだろうな」
 ルイスはそう言うと、
「では、こちらの兵を、レナ様の指揮下で動かすというのはどうですか?あくまでもルリアーナの雇った騎士の指揮で動くのなら、ポテンシアはルリアーナに協力しただけになる」

 レナは、そのルイスの言葉に、
「そんなことが、お願いできるのですか?」
 と、驚いた。初めて会ったというのに、ルイスはあまりに協力的すぎるのではないか。

「それだけ、あなたに魅力を感じているのですよ、レナ様。ポテンシアはルリアーナとの同盟を解消するつもりはない。そして、私の部下は優秀なので恐らくその騎士の下でもうまくやれるでしょう。軍を持たないルリアーナにできることといえば、その位ですから」
 と、ルイスは穏やかな微笑を浮かべて言った。
 レナは突然のことに戸惑いながらも、他国の王子が協力をしてくれることが純粋に嬉しかった。

「ルイス様、願ってもないお言葉、感謝いたします。私の力不足だというのに、そこまでしていただけるなんて……。お礼と言ってはささやかですが、今、ポテンシアのためにと思って開発しているレモネードがあるんです。ご迷惑でなければお持ち帰りいただけませんか?ポテンシアの食文化にとても合いそうで、自信作なの。また次の機会に、感想をお聞かせいただきたいわ」

 レナがそう言って立ち上がると、穏やかな顔でルイスは微笑みながら立ち上がり、右手をレナの前に差し出した。
 レナはその手を握って握手を交わす。ルイスはその手をぐっと引き寄せると、レナを抱き寄せ、耳元に軽くキスをした。
「ルリアーナのレモンが、私はとても好きですよ」
 耳元近くで囁かれたその言葉にレナは驚き、赤面する。

 その様子を終始見ていたシンは、
(本当に王族か? 随分と手強いタラシだな)
 と直視できずに照れている。カイに至っては、婚約者がこれで決まれば業務が圧縮できるな、と頭の中で人工と経費の計算をしていた。
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