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使えない助手

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「今日は、そろそろ帰るか。門限もあるしな、反省文とか面倒だからなぁ…」

「うぇ……それは僕も嫌だなぁ。」

「まぁ、守ればいいんだよ、守れば。」

「あの…さっ、今日吸涙してもいい?」

一瞬戸惑った。これは、浮気になるのでは無いか。しかし、今の涙と向き合うと
約束してしまったからには簡単に断ることもできない。

「あぁ……」



「水葵っ……んっ…ちゅっ……」

同じ匂い、同じ体、同じ声なのに何故か
罪悪感が俺の心を占める。

「……はぁっ……んっ…る…いっ……」

「ここっ……触ってもいいっ?」

「……っ…い…や……ちょっと、ま」

「…………なに?…やっぱり、今の僕じゃだめだって言うの?」

「…………っ…ごめっ…涙…まだっ……」

「はぁっ…この涙は、ダメだね。」

舌先が涙の跡を辿っていく。

「んっ…………へ?」

「だってこの涙は、僕のせいだから。
僕へのものじゃないから。ごめん。
やっぱり、好きな子は泣かせちゃダメだよね?」

「…………っ」

このセリフも、変わらなかった。
優しさも、想いのかたちも。
でも…俺はやっぱり。



昨日のことで混乱してはいたが、
続きはまた今度と言ってしまったからには
やらざるを得ない。

「俺は、担任に涙の校内案内を任されて、
一つ一つの教室を案内していったんだ。」

「へぇ…絶対面倒だとかおもったでしょ?」

「……なんでわかるんだっ。」

「ふふっ、エスパーだからねっ」

こうしていると……本当は記憶が戻っているんじゃないかと…いやダメだ。
何のために一緒に学校をまわっているんだ。

「あっ、そういえば、化学の実験で同じ班だった時、涙が実験失敗してさぁっ
おっかしかったなぁ…ははっ」

「ほら、このビーカーだよ。
割れなくてよかったな、弁償させられるかと思った。」

涙はそのビーカーをそっと手に取った。
ビーカーに残った白い傷を優しく撫で、
こう言う。

「そっか…話を聞いてると、まるで他人事みたいだなっ。」

傷ついた顔をしていると分かっている。
向き合うと決めたはずの涙と目があわせられず、それどころか窓の外の夕焼けにこの場の助けを求めてしまう。

「涙………っ…ごめんっ…やっぱり俺っ!
……お前のこと忘れるなんて無理だよ…」

「……うん。そうだと思った。
水葵もっ、分かってたんでしょ?
自分が忘れるの無理だって事くらいっ
だったらなんでっ!!!………………
なんで…あんな僕を期待させるようなこと言ったのさっ」

「…………っ…ごめん…」

「………………謝るくらいならっ
はじめから言わないで欲しかった…!!!」

涙がさっきまで宝物のように撫でていた
ビーカーは、この一瞬で粉々になった。



「…………っ………………あ…れ…水葵?」


「……え?」





窓辺から涙までの距離はそう遠くなかった。

なのに、ずっと会いたいと思っていた人へ
辿り着くには何故かとてもスローモーションで、彼を強く抱きしめるまでの時間はほんの一瞬だった。




「…………涙っ!!…涙、涙…涙っ………」



こんな状況でも、落ち着いた表情で、
俺を熱く抱きしめる腕の持ち主は
紛れもなく俺の待っていた『彼』だった。



「ふふっ、ただいま…水葵っ。」



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