19 / 21
譲葉 1
しおりを挟む
その日、子ども部屋から戻って来たカイが興奮気味に部屋の中をウロウロしていた。
窓際まで歩いて行ったかと思えば何か思いついたように本棚のところへ歩き、「いや違う」などと呟きながらまた何かを考えている。
「ねえ」
レナはベッドで横になったまま、そんな夫を見て何が起きているのかを悟った。
「シュウから聞いた?」
「なに?! 既に知っていたのか?」
カイは唖然としながらどう切り出そうかなどと考えていたことが恥ずかしくなっている。
一日中シュウと共に過ごしていたはずのレナが、なぜ知らないだろうと思ったのかと自分で自分を責めた。
「良かったわね」
「……ああ」
カイはレナの隣に来ると、体調を詳しく尋ねた。
あまり起きて活動はできないものの食欲が全くないわけでもなく、横になりながらシュウやミレイユと話をしたり本を読んだりしていたと聞く。
無理をしていないか心配になったが、子どもたちのお陰で気分転換ができているのと笑う様子に「ああ、そうか」とだけ返して過剰な心配を控えることにした。
「不思議だな」
突然カイがそんなことを言うので、レナは首を傾げて何の話だろうかと身体を起こそうとする。カイはそのままでいいとレナを寝かせた。
「どうしてこんなことになっているのかと、時々思う。元々、父親の跡を継いで傭兵になるつもりでいたのが母親が亡くなって強制的にハウザー家に入り、下級貴族を維持させようと騎士団経営に乗り出すと、他国の王女から高額報酬で雇われた」
「他国の王女は、単にあなたを雇ってみたかったのよ」
レナは横になったままその続きを待つ。雇った後も事件の連続だった。
「王女を呪いから守って任務完了だと次の赴任先に向かえば王女は逝去したと言うし、その時に自分の中に育った王女への気持ちを知ったりと、心の休まる暇が無かった」
「私はずっと、あなたに抱いた初恋を忘れようと思いながら過ごしていたけど」
当時の悲しい気持ちを思い出す度に、こうして一緒に過ごすようになった事実を噛み締めることが出来る。
望まない運命に翻弄されてきた2人は、偶然と絡み合うような運命の連鎖の中で出会った。
2人が主従関係だった頃に起きたのは、決して楽しい事ばかりではない。
絶望すら伴った事件の最中に、寄り添い合ってカイはレナを支えていた。
「確かに、人の縁って不思議ね」
レナは、ベッドの中でまだ形の変わっていない腹部に手を当てている。
カイとの出会いがなければ生まれなかった命が、身体の中に宿っていた。
「レナに出逢わなければ、今頃俺はブリステ公国で騎士団経営をしながら養子を探していたんだろうな……」
他に好きな人ができたりはしなかったのかしら、とレナに問われて、もしそんなことが起きるとしたらどんな相手だったのだろうかと考えてみた。
考えれば考える程、好きな人とは何だろうかと謎が謎を呼ぶ。
「頭の中で検討してみたが、そもそも人と深く関わりたくないと思っていた時点で破綻している」
カイが結論に達すると、レナはケラケラと笑っていた。
「じゃあ、あなたと私は結ばれる運命だったってことね」
「まあ、運命という言葉はそこまで好きではないな。受け身ではなかったつもりだ」
カイは、どこかでレナが生きていると信じて迎えに行ったんだぞ、と得意気に言った。
窓際まで歩いて行ったかと思えば何か思いついたように本棚のところへ歩き、「いや違う」などと呟きながらまた何かを考えている。
「ねえ」
レナはベッドで横になったまま、そんな夫を見て何が起きているのかを悟った。
「シュウから聞いた?」
「なに?! 既に知っていたのか?」
カイは唖然としながらどう切り出そうかなどと考えていたことが恥ずかしくなっている。
一日中シュウと共に過ごしていたはずのレナが、なぜ知らないだろうと思ったのかと自分で自分を責めた。
「良かったわね」
「……ああ」
カイはレナの隣に来ると、体調を詳しく尋ねた。
あまり起きて活動はできないものの食欲が全くないわけでもなく、横になりながらシュウやミレイユと話をしたり本を読んだりしていたと聞く。
無理をしていないか心配になったが、子どもたちのお陰で気分転換ができているのと笑う様子に「ああ、そうか」とだけ返して過剰な心配を控えることにした。
「不思議だな」
突然カイがそんなことを言うので、レナは首を傾げて何の話だろうかと身体を起こそうとする。カイはそのままでいいとレナを寝かせた。
「どうしてこんなことになっているのかと、時々思う。元々、父親の跡を継いで傭兵になるつもりでいたのが母親が亡くなって強制的にハウザー家に入り、下級貴族を維持させようと騎士団経営に乗り出すと、他国の王女から高額報酬で雇われた」
「他国の王女は、単にあなたを雇ってみたかったのよ」
レナは横になったままその続きを待つ。雇った後も事件の連続だった。
「王女を呪いから守って任務完了だと次の赴任先に向かえば王女は逝去したと言うし、その時に自分の中に育った王女への気持ちを知ったりと、心の休まる暇が無かった」
「私はずっと、あなたに抱いた初恋を忘れようと思いながら過ごしていたけど」
当時の悲しい気持ちを思い出す度に、こうして一緒に過ごすようになった事実を噛み締めることが出来る。
望まない運命に翻弄されてきた2人は、偶然と絡み合うような運命の連鎖の中で出会った。
2人が主従関係だった頃に起きたのは、決して楽しい事ばかりではない。
絶望すら伴った事件の最中に、寄り添い合ってカイはレナを支えていた。
「確かに、人の縁って不思議ね」
レナは、ベッドの中でまだ形の変わっていない腹部に手を当てている。
カイとの出会いがなければ生まれなかった命が、身体の中に宿っていた。
「レナに出逢わなければ、今頃俺はブリステ公国で騎士団経営をしながら養子を探していたんだろうな……」
他に好きな人ができたりはしなかったのかしら、とレナに問われて、もしそんなことが起きるとしたらどんな相手だったのだろうかと考えてみた。
考えれば考える程、好きな人とは何だろうかと謎が謎を呼ぶ。
「頭の中で検討してみたが、そもそも人と深く関わりたくないと思っていた時点で破綻している」
カイが結論に達すると、レナはケラケラと笑っていた。
「じゃあ、あなたと私は結ばれる運命だったってことね」
「まあ、運命という言葉はそこまで好きではないな。受け身ではなかったつもりだ」
カイは、どこかでレナが生きていると信じて迎えに行ったんだぞ、と得意気に言った。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる