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総督は心配性 2
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暫くして、総督であるカイ・ハウザーの勤務中に女王が訪ねてくることはなくなった。
身重で馬車に乗るのが大変になり、城から出られなくなったらしい。
部下たちは急いで帰るようになったカイを横目に見ながら、ああはなりたくないなと陰口を叩いた。
*
「最近、帰りが早いわね?」
レナはほんのり膨らんだ腹部を撫でながら、部屋に戻って来た夫を迎えた。
最近は一日中寝たり起きたりを繰り返しているらしく、常に寝間着姿だ。
「妻の様子をいち早く見に帰ってきている……あとは、子の……」
カイは気功術の使い手で、この世に流れるエネルギーである「気」の流れを読むことができる。
レナの「気」の中に、もうひとつの「気」が流れているのを確認して、毎日安心するのが日課だった。
そっとレナの腹部に触れ、小さなエネルギーを感じながら目頭を熱くする。
「今日も、元気だ」
「あなたのお父上は、毎日心配性ね」
レナはお腹の子に話しかけながら、もうひとりの子どもをあやすように自分の前にあるカイの頭を撫でて悪戯っぽく笑う。
引き合うように軽く唇を重ね、そのまま抱き合った。
「人は守るものができると強くなると言うが、元々人を守るのが仕事だったからだろうか……最近は弱くなる一方だ」
「弱くなったんじゃないのよ、失うのが怖いというのは弱さとは違うの」
「どうしてそう思う?」
「失うものが無いから怖くないのは、ただこの世に未練がないだけよ。それは強さとは違う」
レナの言葉に、カイは頷く。
「流石だな」
「そう? いい奥さんを持って幸せ?」
「愚問だ」
カイは抱きしめていたレナの身体を軽々と抱き上げると、そのままベッドにレナを運ぶ。
「結婚生活が幸せでなかった日などない」
カイはレナを下ろして寝かせようとしたが、首にしがみつかれていた。
「今日は、ずっと抱きしめていて」
「毎日、そうして眠っているが……」
「……鈍いわね」
カイの首に手をまわしたまま、そう言って口を尖らせたレナにカイは思わず笑う。
「鈍いのはお互い様だ。毎日必死に仕事を終わらせて、クロノス(愛馬)を飛ばして帰ってきている理由すらよく分かっていないだろ」
「私と子どもが心配だからでしょ?」
「妻を愛でたいからに決まっている」
くすりと笑ったカイを見て、レナは悶絶した。
声にならない声を上げて身体を不自然にジタバタさせながら顔を紅潮させている。
「どうした?」
「今の顔は反則……」
「顔か……」
「あなたって、不意に見せる顔がかっこよすぎるのよ……」
カイは顔を褒められるのがあまり好きではなかったが、真っ赤になって照れているレナを見ると考えを改めた。
「妻にそうやって褒められるのは、悪くないな」
「私の夫は、とっても素敵」
「顔がか」
「顔も、ね」
嬉しそうに微笑むレナを見て、カイは額に軽く口付ける。
「今日はまた、一段とかわいいな」
カイの中からつい溢れた言葉に、無意識に言ってしまったカイも言われたレナも固まった。
レナが徐々に目を潤ませて羞恥と狂喜が入り混じった顔になる。
二人の時間は、そうして賑やかに穏やかに過ぎて行った。
身重で馬車に乗るのが大変になり、城から出られなくなったらしい。
部下たちは急いで帰るようになったカイを横目に見ながら、ああはなりたくないなと陰口を叩いた。
*
「最近、帰りが早いわね?」
レナはほんのり膨らんだ腹部を撫でながら、部屋に戻って来た夫を迎えた。
最近は一日中寝たり起きたりを繰り返しているらしく、常に寝間着姿だ。
「妻の様子をいち早く見に帰ってきている……あとは、子の……」
カイは気功術の使い手で、この世に流れるエネルギーである「気」の流れを読むことができる。
レナの「気」の中に、もうひとつの「気」が流れているのを確認して、毎日安心するのが日課だった。
そっとレナの腹部に触れ、小さなエネルギーを感じながら目頭を熱くする。
「今日も、元気だ」
「あなたのお父上は、毎日心配性ね」
レナはお腹の子に話しかけながら、もうひとりの子どもをあやすように自分の前にあるカイの頭を撫でて悪戯っぽく笑う。
引き合うように軽く唇を重ね、そのまま抱き合った。
「人は守るものができると強くなると言うが、元々人を守るのが仕事だったからだろうか……最近は弱くなる一方だ」
「弱くなったんじゃないのよ、失うのが怖いというのは弱さとは違うの」
「どうしてそう思う?」
「失うものが無いから怖くないのは、ただこの世に未練がないだけよ。それは強さとは違う」
レナの言葉に、カイは頷く。
「流石だな」
「そう? いい奥さんを持って幸せ?」
「愚問だ」
カイは抱きしめていたレナの身体を軽々と抱き上げると、そのままベッドにレナを運ぶ。
「結婚生活が幸せでなかった日などない」
カイはレナを下ろして寝かせようとしたが、首にしがみつかれていた。
「今日は、ずっと抱きしめていて」
「毎日、そうして眠っているが……」
「……鈍いわね」
カイの首に手をまわしたまま、そう言って口を尖らせたレナにカイは思わず笑う。
「鈍いのはお互い様だ。毎日必死に仕事を終わらせて、クロノス(愛馬)を飛ばして帰ってきている理由すらよく分かっていないだろ」
「私と子どもが心配だからでしょ?」
「妻を愛でたいからに決まっている」
くすりと笑ったカイを見て、レナは悶絶した。
声にならない声を上げて身体を不自然にジタバタさせながら顔を紅潮させている。
「どうした?」
「今の顔は反則……」
「顔か……」
「あなたって、不意に見せる顔がかっこよすぎるのよ……」
カイは顔を褒められるのがあまり好きではなかったが、真っ赤になって照れているレナを見ると考えを改めた。
「妻にそうやって褒められるのは、悪くないな」
「私の夫は、とっても素敵」
「顔がか」
「顔も、ね」
嬉しそうに微笑むレナを見て、カイは額に軽く口付ける。
「今日はまた、一段とかわいいな」
カイの中からつい溢れた言葉に、無意識に言ってしまったカイも言われたレナも固まった。
レナが徐々に目を潤ませて羞恥と狂喜が入り混じった顔になる。
二人の時間は、そうして賑やかに穏やかに過ぎて行った。
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