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多忙夫に魔道具配達 編
16話 魔術師は硬直する
しおりを挟む「あぁ。いい夢だな……」
そう呟いて、私のあまり豊かではない胸に顔を埋めるユリウスさん。
いつもの彼からは想像もできないその姿に、私は身じろぎひとつできず、普段は見ることのないつむじをガン見する。
(え? 寝てる? 寝てるの? さっき思いっきり目が合ったのに?)
狸寝入りか? なんて疑ってもみるけど、
「………あのとんでもない目の下のクマが嘘なわけないか」
さっき見たユリウスさんの顔を思い出せば、それはないと断言できる。
それにしても、人っていうのはどれほど徹夜を重ねれば、あんな凶悪なクマが出来上がるのだろうか。私も趣味に夢中になると寝る間も惜しんでなんてことはあるけど、あそこまでひどいクマができた記憶はない。
(起こしてきてって言われたけど、これはなんとも……)
あまり豊かではない私の胸元でも満足そうに寝ているのだ。なんだか起こすのが可哀想になってきた。
最初は、いきなりベッドに引き込まれてそりゃあもう慌てふためいたものだけど、あのクマを見たらもう………ねぇ?
(うーん、どうしたらいいものか……)
そう悩んでいたら、もぞもぞと動き出すユリウスさん。
もしかしたら運よく起きてくれるかも、とほのかに期待していたら――
「ひえッ!?」
ぐりんっと体が反転。押し倒されていた体が、今度はユリウスさんの上に乗っかるような形になって。
(ま、まるで私からユリウスさんの顔に胸を押しつけているような……)
“痴女”という言葉が浮かんで、ボッと火がつくように熱くなる顔。
けれど、逃れようとしても背中に回った腕はそのままだし、逆に動こうとすると押し付けるプラス擦りつける形になって……。
(だ………誰か助けてえええぇぇ)
ユリウスさんを休ませてあげたい気持ちと、早くこの体勢から解放されたい気持ちが混ざり合って――。
結果。どうすることもできず、ただただその場に硬直するだけの私が出来上がったのだった。
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