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第三章 神絵師の呪い

香ばしい真相

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 ──三日前。

 風子が物置きを開けると、店のチラシを保管しているダンボール箱の中に猫がいた。
 どうやら、閉め忘れた戸の隙間から入り込んだらしい。

 風子は驚いて声を上げるも、猫はまんじりとも動かない。
 その日は雨の予報で、追い出すのも忍びなくなり、風子はとりあえずそっとしておいた。

 が、次の日も猫はその場所を寝床にしていた。
 これ以上居座られては困るので、明日もまだいるようなら出て行ってもらおうと決心した、次の日……
 つまり、昨日。

 物置きを開けると──猫が三匹、増えていた。


「……と、いうわけなの。近所の動物病院はお休みだったし、店を留守にして面倒見るわけにもいかなくて……とりあえず赤ちゃんたちが元気そうだったから、時々こうして様子を見て、休み明けにでも病院へ連れて行こうって考えていたのよ」

 と、親猫にキャットフードをあげながら、風子が言う。
 白・黒・茶色の体毛に、睨み付けるような目付きを見て、海斗たちはその猫が『親方』であることを確信した。

 子猫たちは母乳をお腹いっぱい飲み満足したのか、タオルが敷かれたダンボール箱の中でうとうとしている。
 なんとも愛らしい姿に、未空と翠は夢中で箱を覗き込んだ。

「それにしても、まさか雷華が猫アレルギーだったなんて……飼ったことないから気が付かなかったわ。朝、この子にエサをあげてから雷華に渡すパンを用意していたから、知らない内に毛が付いていたのかも。ごめんね」
「あたしのことより……ひ、ふぇっくしゅ! この子たち、これからどうするつもりよ?」

 他の面々が子猫を覗き込む中、一人離れた場所から声を張る雷華。
 風子は「うーん」と首を傾げ、黙々と餌を食らう『親方』を見つめる。

「本当はうちで飼おうと思っていたのよ。ここまで面倒見てしまったのだから、野良に帰すのは無責任だし、商店街としても野良猫が増えたら困るでしょう? でも、雷華が猫アレルギーならそれは無理ね。誰か飼ってくれそうな人を探すか、保護猫について調べてみようかしら」

 そこで、子猫をじっと見つめていた翠が小さく手を上げ、

「それなら……わたしが、この子たちの里親を探しましょうか?」

 なんて、思いがけない立候補をするので、一同驚く。

「八千草、あてでもあるのか?」
「うん。絵師の名義でやってるSNSのフォロワー、三万人いるんだけど、わたしがよく猫の絵を描いているから猫好きの人が多くて。中には保護活動をやっている人もいるから、呼びかけたら力になってくれると思う」
「さっ、三万人?!」
「さっすが『奴奈川すだち』先生ね! ちなみに、あたしも昨日フォローしたわ!」
「あまり大きな声でペンネーム言わないで!」

 何故か得意げな雷華に、翠が慌てて叫ぶ。
 そのやり取りを眺め、風子は嬉しそうに笑い、

「それじゃあ、ぜひお力をお借りしようかしら。奴奈川すだちさん」
「翠です。八千草翠」
「翠ちゃんね。これからいろいろ相談させてほしいから、連絡先交換してもいいかしら?」
「あっ、ちょっとお母さん! あたしもまだ交換していないのにずるい! 翠、早くこっち来て連絡先教えて! ついでに子猫の写真送って!」

 そう言って、スマホを取り出す雷華。
 翠は半眼になりながらも「はいはい」と立ち上がり、スマホを用意する。
 風子は笑みを浮かべ、隣にしゃがむ海斗と未空に目を向ける。

「ふふ。雷華には昔から未空ちゃんしかお友だちがいないと思っていたけど、頼もしいお友だちが随分増えたのね。安心したわ」

 ……いや、自分に関しては『友だち』ではなく『隊員その一』らしいですよ?

 とは言えず、海斗は未空に返答を任せることにする。
 しかし……

 いつもならコミュ力全開でにこやかに答えるであろう未空が、一瞬下唇を強く噛み締めたことに海斗は気が付く。
 それを疑問に思うが、どうしたのかと声をかける前に、

「……えぇ、そうですね。最近の雷華は、すごく楽しそうですよ」

 未空の顔に、いつもの完璧な笑顔が戻ったので、それ以上深くは考えなかった。
 未空の返答に、風子は「うふふ」と笑い、

「それはよかった。頑固な子だからこれからも迷惑かけるかもしれないけど、仲良くしてもらえると嬉しいわ。海斗くんも、困っていることがあれば遠慮なく言ってね。力になるから」

 と、まるで少女のように屈託なく笑う。
 その笑顔に雷華の面影を感じ、海斗は微笑んで、

「……はい。いつもありがとうございます、風子さん」

 日頃の感謝を、あらためて伝えた。


 
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