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第13蝶 影の少女の解放と創造主

ジーアの一撃と灰塵と化した蝶

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 ※スミカ視点
  ジーアの魔法が暴走する少し前。



「な、なに? あの動き…………」

 私の位置よりほんの少し上空では、マヤメの姿を映した影が、ジェムの魔物を相手に猛攻撃を仕掛けている。

 マフラーを触手のように分裂させ、その一本一本を自在に操り、あらゆる角度から仕掛けては、その度に迎撃されるが、すぐさま再生し、怯むことなく、怒涛の攻撃を繰り出している。 


「これは凄いな。まるで散弾の嵐だよ。しかも正確だし」

 そんな戦いを目の当たりにし、思わず見惚れる。 
 あの数を操る技能もそうだが、その精密さに舌を巻く。
 
 まるで一本一本の触手が自立しているかのように。
 触手自体がまるでもう一人のマヤメのように。

 ジェムの魔物に存在する、全ての死角に触手が襲いかかる。


「ただそれでも、残念だけど――――」


 届かない。
 100を超える触手でも、ジェムの魔物を捉える事が出来ない。

 大量の触手にはカマイタチを。
 それを擦り抜けた触手には、軽く4本の腕で搔き消されてしまう。

 しかも恐ろしいのは、それを私の前から微動だにせず行っている事だ。


「よし、なら私も最終奥義を出すよっ! マヤメが頑張ってるからねっ!」

 ファサッ

 マヤメの奮闘に応える為に、私も覚悟を決める。
 攻撃が届かないのは、囮役を引き受けた、私のだ。

 なら私はマヤメの為に一肌脱ごう。
 マヤメも私の為に、戦ってくれているのだから。


「よっ!」

 スカートを『変態』の能力でおへそまで上げ、下半身を丸出しにする。
 そして視線は魔物に向いたまま、右手は頭の後ろに、左手は腰に当てる。

 パチンッ

 そこへ更にウインクを足して、キュっとお尻を突き出し、こう啖呵を切った。


「あ、はぁ~ん、いつまでそんな貧相な体の相手をしてるの~? こっちの方が甘くて柔らかいよ~、それとも私みたいな極上のメスには、あなたにはまだ刺激が強かったのかなぁ~?」 


 なんてお尻を振りながら、最大級の煽りをジェムの魔物にかました瞬間に、


「えっ!? な、なに?」


 ズドオォォォ――――――――――ンッ!!
 バチッ バチバチッ!

 私もろとも、謎の巨大な竜巻に襲われ、その中で真っ黒コゲにされた。 



――――――



 ※ジーア視点
  魔法を暴走させた直後。



「や、やっちゃったでしゅ――――っ!!」

 スミカさんもろとも、ジェムの魔物に大規模魔法を直撃させちゃった。
 最後に見えたのは、お尻を突き出したウサ―― スミカさん。


「はわわ………………」

 ゴオォォォォ――――――――
 バチッ バチバチバチッ――――


 今は球体の竜巻に遮られ、その激しさ故に中が見えない。 
 その中では、感電したような音が鳴り響いている。
 

 『嵐刃迅雷』
 
 これがわたしが放った大規模魔法の名前。
 名付け親はもちろん、私が尊敬するナジメさま。

 その詳細は、空気を切り裂く風の魔法(風刃)で作った龍で、相手を蛇がとぐろを巻くように、その中に閉じ込める魔法。

 その効果は、中に閉じ込めた者を全方向から切り裂くと同時に、摩擦で生まれた雷のようなもので、相手を焼き尽くすといった、二段構えの魔法。

  
「や、や、やばいでしゅっ!」

 大いに焦る。今までの人生で過去最高に慌てる。
 ナジメさまのリーダーを、ウサギのせいで亡き者にしちゃった事に。

 スミカさんが強いのはわかる。
 村での一騒動で、その実力を十二分に理解したから。

 でも今回は訳が違う。

 この魔法は、わたしのとっておきの魔法。
 ナジメさまも褒めてくれた、自慢の魔法だ。

 だからきっと魔法が解けた頃には、全身を切り刻まれて黒コゲになった、たくさんの塊が姿を現すはず。

 この結果はもう決まったこと。
 あの魔法はそれほどの魔力と威力を内包しているのだから。


 スタンッ


「ん、ジーア。一体何が? はぁはぁ」
「ひゃっ!」

 呆然と立ち竦んでいると、わたしのいる壁の上にマヤメさんが乗ってきた。 
 かなり疲れているようで、肩で息をしていた。


「あ、あのぉ、スミカしゃんが、わたしの魔法の巻き添えに……」
「ん、ジーアの魔法? マヤは合図してない」

 未だ効果の切れない『嵐刃迅雷』を見て、わたしの顔を覗き込む。
 その表情からは、怒っているのか焦っているのかわからない。


「そ、それはでしゅね、スミカしゃんのウサギの耳が……」
「ん、澄香のウサギの耳?」
「あ、今のは忘れてくださいっ! 制御できなくて暴発しちゃったでしゅっ!」

 前言撤回し、素直にマヤメさんに白状する。 
 パンツのせいでああなったなんて言えないから。


「ん、そう。でも凄い威力」
「え?」
「やっぱりジーアも凄い魔法使い。ナジメが気に掛けるのもわかる」

 わたしと魔法を見比べて、うんうんと頷いている。
 もちろん、褒めてくれるのは嬉しいんだけど、


「そ、それよりも、スミカしゃんが――――」

 黒コゲです。

 『嵐刃迅雷』が消えた頃には、ジェムの魔物とスミカさんがごちゃ混ぜになって、どっちかわからないものが降ってきます。

 だと言うのに、返ってきた返事は意外なものだった。


「ん? それは問題ない」

 気にする素振りも見せずに、短い返事がすぐ返ってきた。


「いやいや、問題おおありでしゅっ! あの魔法は頑丈な魔法障壁だけでは防げないでしゅっ! もし防いでも、全身ビリビリして丸コゲの黒コゲになりましゅっ! マヤメさんはわかってないでしゅっ!」 

 マヤメさんは知らない。

 見た目以上にあの魔法が凄いことを。
 見た目からは想像できない威力を秘めている事も。

 だから目一杯にその効果を説明した。


「ん、わかってないのはジーアの方。澄香はあの程度ではへっちゃら」
「あ、あの程度でしゅかっ!? それとへっちゃら?」

 ちょっとだけ誇らしげに答えるマヤメさん。
 魔法を見やりながら、スミカさんは平気だと言い切る。


「ん、その証拠にそろそろ魔法が切れる」
「えっ!?」

 そんなマヤメさんの視線の先を追うと、魔法の効果が切れ始めてきた。
 嵐刃の魔法がどんどん霧散していき、人の形が鮮明に見えてきた。

 その背後には薄っすらと、蝶の羽根のような影も見えた。


「ん、ほら、澄香はやっぱり問題………… ない?」
「そ、そうでしゅねって、なんで自信なさげでしゅかっ!」

 スミカさんが姿を現した。
 けど、いつもと違う様子に、かなり困惑気味のマヤメさん。

「ん、だって黒コゲどころか、灰になってる」
「ほ、本当でしゅっ! やっぱり全然無事じゃなかったでしゅっ!」

 やってしまった。

 人の形は残ってたけど、全身が燃え尽きた様に、灰色になっていた。
 きっとあの状態では、中身は無事ではないだろう。

 そしてその手には、光る腕輪が握られていた。
 あれがスミカさんの遺品になるかもしれない。 
 
 なんて、キチンと確認しないまま、不吉な事を考えていると、


「あれ? マヤメはジーアと合流したんだ。二人ともお疲れさん。どうやら最後の魔法が止めになったみたいだね。跡形もなく消えちゃったよ」

 いつもの様子のスミカさんが声を掛けてきた。


「え、えええ――――っ! な、なんで、スミカしゃんは無事なんでしゅかっ!」

「はあ? 何その言い方。無事なのがそんなに悪いの?」

「ち、違いますっ! だってあの魔法は、それとあの魔物が消えるなんてことは、あとその服の色は――――」

「ん、マヤは澄香が無事なの知ってた」

「なら、それでいいでしょ。この後少し休んだら、見回りして村に帰るよ」

「え? は、はいでしゅっ!」
「ん」

 あまりにも変わらな過ぎて、反射的に返事してしまう。
 魔物が消えた事とか、なんで灰色とか、たくさん聞きたい事あったのに。


 それとさっきまで持っていた筈の、あの変わった『腕輪』は何だったのか。


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