上 下
490 / 579
第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

エボリューション

しおりを挟む



 ※スミカ視点



「ふう、危なかったぁ。まさか起きてたとはね。私としたことが不用心だったよ。しかもこの世界の物じゃないアイテムまで破壊できるなんて」

 新たに用意した、Rポーションで回復しながら反省する。

 昏倒していたはずの、フーナの意識をキチンと確認しなかったことに。 
 能力を限界まで使った為の疲労と、手応えがあったために失念していた。


「…………にしても、どんな夢を見てるの? 動きが恐いんだけど」

 立ち膝で、顔を左右に振りながら、手の平を閉じたり開いたりしているフーナ。
 良くわからない奇声を上げながら、恍惚の表情で涎を垂らしている。

 
「はぁ~、どうせ碌な夢じゃないだろうね? あの表情はさっき見たからね」 

 すぐ隣にいる私に気付かずに、夢中になっているフーナを眺めて嘆息する。
 きっとフーナの脳内では、口には出せない破廉恥な事が展開されているのだろうと。


 そんな私は新たに獲得した能力を使って、危機的状況を脱した。
 回復を寸前で中断され、目を覚ましたフーナの反撃を抑える事に成功した。


 その増えた能力と、それを使う羽目になった状況はこうだった。
 

 【幻夢】

 対象が鱗粉を吸い込むことで、幻を見せる事が出来る。
 現状の心の深奥にある、一番強い欲求を夢に見せる。
 対象者に触れるか、300秒経過で解除される。


 そして幻夢を使用した訳は、ほんの数分前に遡る――――





 パリ――――ンッ! ×10

「あ」

「よしっ!」

 目の前でRポーションを破壊され、虚を突かれた私に襲い掛かってきたフーナ。
 お互いにダメージは残っているが、確実にフーナの方が軽傷だった。


「このまま一気に行くよっ!」

 自分を奮い立たせるためか、気合を発しながら突っ込んでくる。
 その動きは今までよりも相当に遅い、けどそれは私も一緒だ。


「くっ!」

 回復はもう間に合わない。
 避けようにも体が言うことを効かない。 
 スキルで防ぐこともできるが、また吹っ飛ばされるのがオチだ。

 そんな危機的状況、フーナにとっては絶好の、そんな大事な時に――――

 コテン
 
「あっ!」
「え?」

 目の前で盛大にフーナがコケた。

 長すぎるローブを踏んずけて、勢いそのままに私の横をギュンと飛んで行った。
 ここに来てその無駄に長いローブが、文字通りに足を引っ張った。


「た、助かった~、よし、今の内に回復する時間を――――」

 パタパタ

 顔から地面に突っ込んだ、フーナの姿を見て『幻夢』を使用する。
 回復の時間稼ぎと、その効果を確かめるために。

「お、かなり効果が早いね。よし今の内に」

 寝ぼけ眼で立ち上がり、何かを呟いている姿を見て、すぐさま回復をする。
 色々と規格外なフーナにも、幻夢が効いた事に安堵しながら。

 



「ふぅ~、少しはダメージが抜けたかな? でもまさかここまでフーナが食い下がるなんて思いもよらなかったよ。本当は使いたくなかったけど、仕方ないかぁ…………」

 回復を終え、体調を確認しながら、さっきの事を思い出す。
 
 フーナには宣言通りに全力で仕掛けた。
 自滅覚悟でありったけをぶつけた。

 でも【幻夢】だけは使いたくなかったと、少しだけ後悔する。
 それだけ強敵だったのだと、自分を納得させながら。

 ただ全力を出すのは、出会った時の私でと、内心では決めていた。 
 だってこの能力が増えた要因は、このフーナにあったから。
 
 
「……正々堂々とか謳うつもりはないけど、フーナのおかげで増えた能力で、そのフーナに勝ってもあまり嬉しくないんだよね。元々持っていたもので勝ちたかったからね」

 新たに増えた【幻夢】の鱗粉の効果と、バージョンアップし、僅かに扱いやすくなった【実態分身2.5(7大罪ver)】。

 そして――――

 ファサ

 おもむろに羽根を広げる。

「お?」
 
 その大きさは、人一人分を覆い隠せるほどのサイズになっていた。
 ちょうど私がすっぽりと、その羽根に収まるほどの大きさだ。
 
『うん――――』
 
 ゆっくりと目を閉じ、広げた羽根で私自身を包み込む。
 第三者からはまるで、成虫からさなぎに戻ったかのように映るだろう。


 蝶の成長過程は一般的に、
 『卵⇒幼虫⇒さなぎ⇒成虫』と、段階を踏んで成長し、新たな形態へと生まれ変わる。

 いやこの場合は生まれ変わるでなはく、進化と呼んだ方が正しいだろう。

 羽化して成長した姿は、さなぎとは全くの別物になるからだ。


 ファサ


「――――うん? 見た目も結構変わってる?」

 なら、さなぎに戻った私も生まれ変わるのは必然とも言える。
 さなぎから成虫へと進化したように、私もまた進化する。


「え~と、ドレスのそですそも広がって、それとフリルとレースが増えたんだ。そのせいで前よりゴワゴワするなぁ。それと胸元にはリボンと、頭には…… ヘッドドレスって? うわ~、前よりゴスロリチックになってんじゃんっ!」

 鏡面にした、透明壁で自分の姿をチェックし、ちょっと驚く。
 
 原型は殆ど一緒だが、以前よりも装飾が増えていた。
 ゴシック系を元に、そこにロリータ系が足された感じだ。


「それと、大幅に変わっていると言えば、やっぱ色合いだよね」

 元々は黒を基調とし、あつらえているフリルは白だった。

 だが今回の衣装(装備)は――――
 

 鏡の前でクルンと回って、全身を確かめる。

「うん、グレーだね、全身。 まさかレベルアップした装備の効果に似せてるとか?」

 黒の部分は、濃い灰色に。
 白だったフリルの部分は、淡い色の灰色に変わっていた。

 
 白と黒。明と暗。光と影。陰と陽。

 そこに同時に存在するが、決して交わらない『対』となるもの。
 白黒つけるとはよく言ったものだ。

 元の色合いを例えるならば、【黒】が私のいた元の世界。
 生きる意味や希望を無くした、一寸先も見えない漆黒の世界だ。

 なら【白】はきっとこの世界だろう。
 ユーアやみんながいるこの世界が、私には眩しく映るから。

 なら【灰色】は、その両方の世界を内紛した色だろう。
 白でも黒でもなく、二つが混ざり合って、どこか曖昧な世界。 


「…………なるほど。 この状態だと私の存在が希薄になるって言うか、この世界から半分消えている状態なんだ。この世界にも元の世界にも存在しない、ゴーストみたいなものか」


 フーナとの戦いは、これまでにない、膨大な経験値を与えてくれた。
 6だったレベルが、一気に10まで上がるほどに。

 それ程の難敵だったのだろうと思う反面、どこか納得できない部分もある。

 覚えた能力が、私の意にそぐわないものだったから。
 だからか、増えた理由に、納得がしずらかった。


「それはきっと、フーナも他の世界から来た住人だった影響か、この世界の於けるフーナの存在が特殊なんだと思う。女神がどうとか言ってたから、その女神とも関係あるかもだし」

 ハッキリとした理由はわからない。
 だけど、フーナと戦ったことが原因の可能性は高い。


「まぁ今はいいか。これ以上は机上の空論だし、まだ確証できるほどの証拠もないしね? ならフーナが目を覚ましたら聞いてみるか。もっと情報を補填しないとこれ以上は時間の無駄だから」

 未だに奇声を上げながら、奇妙な動きをしているフーナ。
 あんな表情のフーナを見たら、フーナが好物の幼女も少女も逃げ出すだろう。


「あ、まだ時間が残っている内に、もう少し装備の確認をしよう。幻夢は触れても解除できるけど、正直、この状態のフーナに触れるのがおっかないし」

 だらしない顔のフーナを横目に、メニュー画面を開く。


「ん~、レベルがかなり上がったけど、やっぱり数は変わらないんだ……」

 透明壁スキルの最大数も、距離も面積も形状も変化がなかった。
 今まではレベルと同時に、各カテゴリーの最大数も上がっていたのに。

「その代わりにこの能力を覚えたって訳かぁ。それ程に強力だって事だよね」

 メニュー画面を繁々と眺める。
 そこには、現在のレベルの脇に、新たな表記が増えていた。




 =防具スキル(LV.10 現在のモード《表裏一体》)

  最大数 20
  距離  100M
  大きさ 100M
  形状  図形(展開後に変更可)
  色   自由
  重量  200t




「…………モード《表裏一体》? これが今の私の状態かぁ」

 全身が灰色に変わり、装飾が増えて、ゴテゴテした自分を見下ろす。

「で、その詳しくはこっちっと。さっきは戦いの最中で少ししか見れなかったからね」

 メニュー画面を操作し、詳細の欄を見付けて目を通す。


 新たな能力《表裏一体》の効果とは?

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...