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第12蝶 異世界最強魔法少女(幼女)との邂逅編

幼少女たちの演芸会

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「な、なんなんじゃっ! そのお主の腕はっ!」
「うぇっ!? 何よあの手っ! 気持ち悪いわっ!」
「手だけがおっきいよっ!」

 巨大な腕を空中で掲げ、ナジメ達を見下ろすエンド。
 その異様な姿を目の当たりにし、それぞれに驚きの声を上げる。

 体に不釣り合いな巨大な腕もそうだが、それよりもそのに驚愕していた。


「何って? あら、我としたことが本来の物に変えてしまったのね。これはこの場で見せるべきではなかったようね。直ぐに戻すわ」

 サッと腕を振ると、すぐさま白い手に変わる。
 かぎ爪でゴツゴツした魔物のような腕が、瞬く間に人間に手に化ける。
 それでもその大きさは、エンドの10倍以上もある巨大なものだ。


「お、お主はやはり人ではなかったのじゃな。その腕はまるで……」

 最後まで言い切る事なく、もごもごと口ごもるナジメ。
 もし言い切った場合の返答を恐れての事だった。

 今、この大陸には現存しない、生物界の頂点に位置する種族の名前を。

 知ってしまえば心が折れる。
 すぐさま逃げろと本能が警告を発する。

 それほどの脅威と恐怖と恐慌。
 知っているからこそ、戦う前から体が竦む。

 しかし、そんな空気を払拭する者が――――


「あ、あれ、竜の腕じゃなかったっ!? 書物でしか見たことないけどっ!」
「う、うん、ボクもそう思ったっ! この前戦った竜っぽい魔物にも似てたよっ!」

「うなっ! お、お主ら、そんな軽々とその名を口に出すなどっ!」 

「え? 何をそんなに焦ってるのよナジメ」
「そうだよ、ナジメちゃん」

 目を丸くし、不思議そうにナジメを見るラブナとユーア。

「そ、それは焦るじゃろっ! あ奴の正体が『竜族』だったならば…… はっ! 結局わしも言ってしまったではないかっ! むぐぅっ!」

 二人に釣られて出た単語に、慌てて自身の口を塞ぐ。
 
「別にいいじゃない。もしエンドの正体がなんだって変わらないわよ」
「そうだよナジメちゃん。一緒だよ?」

 慌てふためくナジメとは対照的に、あっけらかんと答える二人。

「はあっ!? な、何が変わらないというのじゃっ! もしあ奴が竜族だったならば、わしたちなど足元にも…… ん? ユーア、一緒とはなんじゃ?」

「え? だってそれは、もし相手がゴブリンでもトロールでも、ボクたちは戦わないといけないんだよ? そうだよね?」  

 コテンと首を傾げて、真っすぐな目でナジメを見るユーア。

「す、すまん。わしにはユーアの言っている意味が分からぬのじゃが……」

 その真意がわからずに、同じ方向に首を傾げるナジメ。

「あのさ、ナジメ。ユーアが言いたいのは――――」
「ん、なんじゃ? ラブナよ」

 それを見て、堪らずと言った様子で口を挟むラブナ。

「――――そもそもなんでアタシたちは戦ってるのよ?」
「なんでじゃと?」
「そうよ。ユーアは相手が何者であれ、エンドを許せないのよ」
「許せないじゃと?………… はっ!」 

 仁王立ちで説明するラブナ、そしてユーアを見て何かに気付く。

「そうそれよ。その為にユーアも頑張ってるんじゃない。 だってナジメは大切な人が馬鹿にされても、その相手が強いからって、大人しく尻尾巻いて逃げるの? 弱かったら立ち向かうの? そんな話よ」
 
 スンと胸を張って、そう話を締めくくるラブナ。

「…………わ、わははははっ!――――」

「ん?」 
「?」

「確かにラブナの言う通りじゃっ!」

 思い出す。
 挑まれたから戦うだけではなかったことを。 
 
「わしたちは勝てるかどうかで戦っておるわけじゃないのじゃっ!」

 この際、勝ち負けは二の次。
 大好きな姉を侮蔑した相手を許せないだけ。  

「守るために戦っておるのじゃなっ!」

 そう。自身の誇りを守るため。
 相手が竜族だからと言って、ここで逃げ帰ったならば後々後悔する。

「そう二人は言いたいんじゃろっ!」

 ムンと胸を逸らし、二人を見ながら言い切る。

 ここで逃げたとあらば、そんな情けない自分を一生恨む。
 それを守るための戦いなんだと。


 ところが、

「はあっ!? 何言ってんのよっ!」
「合ってるけど少し違うよ?」

「うなっ!? な、なんじゃ、何が違うのじゃっ!?」

 ところが、ラブナとユーアの反応は微妙だった。 
 どこか白けた様子で、薄目になる。

「そもそも最初から負けるつもりもないって事よ?」
「そうだよ? なんで勝手に決めちゃったの?」

 口調は優しいが、何故か刺々しい二人。

「じゃ、じゃが、あ奴の正体は竜族かも知れぬのじゃぞっ! もし仮に本物じゃったら、わしでも敵わぬぞっ!」

 過去の苦い出来事を思い出し、声を荒げて反論する。

「なに? ナジメは竜の魔物と戦ったことあんの?」

「あ、あるのじゃっ! わしは能力で辛うじて生き延びたが、他の者は――――」

「その竜さんと、スミカお姉ちゃんとどっちが強いの?」

「なぬ?」

 唐突に出た、意表を突くユーアの質問に固まる。

「そうよ。スミ姉がもしその竜と戦ったら、どっちが勝てそうなのよ? ナジメだってスミ姉と戦ったから何となくわかるでしょ?」

「う、うぬぬ…………」

 続いてラブナにも同じ質問をされて、今度は頭を抱えて悩むナジメ。

「…………ねぇ……じゃ」

 が、すぐに顔を上げて、ポツリと呟く。

「ん? よく聞こえないわよ? ナジメ」
「え? もう少し大きな声で話して、ナジメちゃん」

 ナジメの口元に耳を近づける二人。
 その顔は僅かに笑みを浮かべながら、どこか意地が悪く見えた。


「ね、ねぇねに決まっておろうっ! 竜の強さと言っても千差万別じゃが、ねぇねが負ける姿を想像できんのじゃっ!」

「うわっ!」
「きゃっ!?」 

「わしの知ってるねぇねは、いついかなる時でも威風堂々としておるし、何者に対しても大胆不敵なのじゃっ! じゃから勝つのはねぇねなのじゃっ! わっははっ!」

 耳元で大声を上げられ驚く二人を他所に、言い切ったナジメ。
 平らな胸を盛大に張り、最後は満足げな顔で笑顔を浮かべていた。

  
「な、なんだ、わかってるじゃないっ! だから竜だったとしても大した事ないわよっ!」
「そうだよっ! 竜さんよりもスミカお姉ちゃんの方が強いんだからねっ!」

「そうじゃなっ! ねぇねの方が強くてカッコイイのじゃっ!」

 やんややんやと、スミカの話で盛り上がり始める三人。  
 それと同時に、ナジメの中の恐怖心が段々と薄れていく。 

 ただ、それでエンドに勝てるか否かでいえば、恐らく『否』だろう。
 それは理解している。だが、そんな事はおくびにも出さない三人。

 
「はぁ~、いい加減終わりにしてくれる? まだ続くのならこの腕で一人一人捻り潰して、その後で魔物のエサにでもするから」

 グイと拳を振り上げ、淡々と話すエンド。
 先刻よりも幾分冷静になってはいるが、苛ついているのはその口調でわかる。


「何を言っておるのじゃ。いい加減にして欲しいのはこっちじゃよ」

 やれやれといった様相で、肩を竦めてエンドを見上げるナジメ。

「そうよっ! 待ってたのはこっちなのよっ!」

 大股開きのいつもの調子で、ビッと指を差すラブナ。

「エンドちゃん最後まで話を聞いてくれて偉いねっ!」

 最後は皮肉なのか褒めているのかわからないユーア。


「な、あなたたちは揃って、何を言って――――」

「そんなに驚くことなかろう。お主は好戦的に見えて、今も、出会った当初も、わしらを一方的に襲っては来ぬのじゃから。今回もそれを利用しただけじゃ」

「な、何よこれ? こんな大規模の魔法をいつの間にっ!? それとその形は……」

 自身の背後に、巨大な〇〇があるのに気が付き、唖然とする。
 その大きさは宙に浮くエンドよりも高く、この街を守る外壁の高さをも超えていた。


「それはお主が穴に落ち、そして律儀に今の話を聞いていた時じゃよ。なぜ攻撃してこなかったのかは知らぬが、随分と時間があったのでな」

 エンドに説明しながら、魔法で作成したものに近寄るナジメ。 

 それは土魔法で作成した『竜』の姿を模しての土の人形だった。


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