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第11蝶 牛の村の英雄編

ティータイムと状況説明

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「名前は透水澄香。呼び方は適当でいいよ。で、私はコムケの街の冒険者で、この村には護衛依頼で来たんだよ。はい、これが冒険者カード」

 みんなが落ち着いた頃を見計らって、説明をしながらカードを見せる。
 村人たちは一瞬ざわついたけど、カードを見て黙り込む。

「はい、それとこれ暖かいから飲んで。ここにいたら冷えるでしょ?」

 大人しくなったみんなに、それぞれ暖かい紅茶を渡す。
 私は大丈夫だけど、みんなは白い息を吐いていたから。

「あ、ああ、すまんな助かる。ここは夏でも夜は特に冷えるからな。ふぅ~」

 暖かい紅茶を口に付け、ホッとしたように一息吐く。
 

「それで、なぜスミカはこの洞窟までやって来たんだ?」  

 代表してなのか、イナの父親のラボから質問が飛ぶ。
 魔物を追い払ってた時も指示を出していたので、きっとまとめ役なのだろう。


「それはさっき説明したよね? イナに懇願されたって」
「あ、そうだったっ! ならイナは無事でいいんだよなっ!?」

 娘の名前を出した途端、急に声を荒げるラボ。
 さっきイナの名前を出した時は、天井に投げ飛ばした直後で混乱してたんだっけ。


「うん、外にもあの魔物が20体ぐらいいるけど、今は無事だよ。襲われた後もケガしていなかったし」

 動揺するラボにそう説明する。

「20体っ! しかも襲われたってどういう事だっ!」

「どういう事も何も、私たちが駆け付けた時に、ちょうど襲われてたんだよ。ケガが無いって言うのは、寸前で助けられたから大丈夫って意味」

「そ、そうなのか、で、今はどうなってる? イナとそして村はっ!」

「そっちも大丈夫だって。外の魔物は妹に駆除を任せてあるから。イナは私の依頼人と魔法壁の中にいてもらってるから、そこなら絶対安全だから」

 ラボにはそう説明をして、後ろを指差す。

「あ、あの魔法で出来た壁が外にもあるんだな?」

 説明を聞いて、村人も合わせて私の後方に視線を移す。
 そこには蛍光ピンクの透明壁スキルがあった。


「そう。だから安心していいよ。仮に魔物が総攻撃を仕掛けても、もしこの山が崩れて、崩落に巻き込まれても娘さんは無事だから」

 キュージュースを飲みながら説明する。
 
「そ、そこまで頑丈なのか? 一体どんな魔法なんだよ……」

「でもラボ。実際に魔物たちが外から攻撃しても何ともないぞ」
「山が崩れても無事だって…… そんな魔法が使えるのかっ!」
「うわぁ、一体この壁ってなんなんだろうな?」
「なんで桃色なんだ? 目がチカチカして仕方ないぞっ!」

 唖然とするラボに、それぞれに騒ぎ出す村の人々。

 一応だけど、ここの安全もわかってもらえたらしい。
 一番最初に説明しておいたからね。じゃないと話が出来なかったから。


「それでこの後はどうするんだ? 安全なのはわかったけど」

 みんなが落ち着いた頃を見計らって、ラボが口を開く。

「だから助けに来たんだって。ラボさんもみんなも、それと牛たちも」
「俺たちだけじゃなく牛たちもか? 一体どうやって」
「どうって、そんなの簡単でしょ? 魔物を全部駆除したら安全になるんだから」
「はぁ?」

 スクと立ち上がり、ラボも含めてみんなを見渡す。
 
「あの魔物を倒すだってっ!? いくら何でも飛び回ってる魔物だぞっ!? しかもアイツら見かけは違うが恐らくドラゴンの一種だっ! そう易々と倒すなんて不可能だっ!」

「なら、この壁を透明にしておくから、その目で顛末を見届けてよ。それと牛たちはみんな無事なの? もしかしてその奥にいるの?」

 声高に反論するラボに答えて、その後ろを見る。
 その後方には、細い通路が目に入る。


「あ、ああ、牛たちはこの通路を下った広場に避難させている。そこに至る通路も狭く、あの魔物も入って来れないと思ってな」 

「ああ、なるほどね」

 答えながらMAPを見てみる。

 ラボの言う通り、ここから細い通路が続いて、その先が広くなっている。
 そしてその広場の先には、枝分かれした通路が続いているようだ。

 さすがは地元民。なんて感心する。
 迷路のようなとこなのに、道を熟知していて。


「で、牛たちの様子は?」
「足にケガを負った者もいるし、無理やり走らせたから衰弱しているものもいる」

 さっきよりも落ち着いたラボにそう説明される。

「なら、これを小分けにして牛たちに与えておいて? その間に魔物は何とかするから」

 みんなの前に、Rポーションを20個置く。

「これは? 回復薬…… か?」
「そう。それでケガと衰弱が治ると思うから。症状が酷い牛から少量ずつ使って」
「少量でいいのか?」
「うん、数滴で大丈夫だと思う。聞いたところそんなに酷いのはいないんでしょ?」
「あ、ああ、うん……」
「ならそれでお願い。それじゃ私は行ってくるから」

 不思議そうに、ポーション手にするみんなに手を振り踵を返す。

「数滴で効果が出るって…… こんな高価なもの本当に譲ってもらっていいのか? なんなら俺も手伝うぞっ! いくら冒険者だからって、スミカみたいな子供に任せる訳にもいかないからなっ!」

 なんて背中越しに、ラボが助っ人宣言をする。

「そ、そうだっ! 俺たちも戦うぞっ!」
「「「おうっ!!」」」

 それを聞き、他の村人も触発されたように立ち上がる。


『う~ん……』

 自分たちも何かをしたいのはわかる。
 見た目子供の美少女に、村の存続を託す事に気が引けるんだと。

 なんだけど、正直――――


「そう言うのいいから。私は私の仕事をするだけだし、あなたたちにはキチンと仕事を与えたよね? ならそっちを完璧にこなしなよ。みんなそれぞれ大人なんだから」

 盛り上がるみんなをギンと睨み、凄味を利かす。
 さすがに邪魔とは言えない。一応気持ちだけは汲んでおくけど。


「あ、ああ、わかった。な、ならお願いしようスミカさん」

 先頭のラボがしどろもどろに答える。

 目が泳いでいるのはきっと見間違いだろう。
 さん付けで呼ばれたのも、聞き間違いだろう。


「そ、そうだな。魔物は冒険者さんに任せる事にする。うん」
「ど、どれ、俺は先に牛の様子を見てくるぞっ!」
「ラ、ラボはここに残ってくれっ! スミカさんが見てろって命令だからな」

「ちょっと待て、俺を一人ここに残すのかっ!」

 ラボと同じように挙動不審になりながらも、ここを離れる村の人々。
 気のせいでなければ、初対面で私を見た反応と酷似していた。

 そうしてここには、ラボと私の二人きりになった。


「じゃ、後はよろしく」

 そう言って今度こそ、隠れていた洞窟から抜けて、空中に躍り出る。
 その際に『通過』を使って壁をすり抜け、ついでに透明に戻す。


((うおっ! 壁をすり抜けたっ! しかも無くなったっ!?))

 その後ろでは、またラボが騒いでいたけど、気にしている暇はない。


「ユーアたちもきっと頑張ってる。なら私も張り切っちゃうよっ!」

 外で奮戦しているであろう、ユーアとハラミを思い浮かべ、気合を入れ直した。
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