386 / 579
SS バタフライシスターズの慰安旅行
園児vs白い怪獣
しおりを挟む湖の水面に浮かぶ透明壁スキルの囲いの中で、巨大生物と相対する一人の幼女。
その巨大生物は、青白い色をした、見た目ウー〇ールーパーのパルパウ。
その全長は10メートル程で、二本足で立ち、眼下の幼女を見下ろし威嚇している。
対して、
そのパルパウに臆することなく眼前に立つ幼女は、元Aランク冒険者のナジメ。
身長は凡そパルパウの1/10で、その姿は黄色い帽子と白いシャツと紺の肩掛けのスカートだった。
まるで母親と入園式を終えた園児、その帰りと言った様相だ。
「いや、いや、それだと私がお母さん役になっちゃうって。まだ子供なんて早い、か、ら?…… うううっ……」
なんて、自分に突っ込みながら、ちょっとだけ落ち込む。
元の年齢だったら、ナジメぐらいの子供がいてもおかしくはないのだから。
「って、それよりもナジメの戦いを見守らないとっ! でもあんなに体格差があると不安になるんだってっ! あ、これがもしかして、母性本能?」
更に余計な事を考えてしまう。
「あ~、もうっ! 信じて待つって決めたんだからそれに従おうっ! 相手はただの時代遅れのウーパールー〇ーなんだから、大した事ないってっ!」
そう言い聞かせ、透明壁の上にドカと腰を下ろし、眼下に注目する。
「よし」
これは何があっても動かないと決めた、私なりの意思表明みたいなもの。
だから体だけではなく、心も動かないと決心した。
それは信用に足りえる実力が、ナジメには備わってると知っているからだ。
――
「なんじゃ、わしが怖いのか? 水中でお主に一撃喰らわせたわしの事を」
パルパウは両手を広げて威嚇の雄叫びを上げるだけで、仕掛けてくる気配がない。
「あれか、得意の水中でわしを攻撃して吹き飛ばしたはいいが、その後もこうして無事に立っているのが不思議と考えておるのじゃな? こんな小さな存在がなぜ平気だと」
『プギャァ――――ッ!!』
わしの問いかけに、パルパウはひと際大きい雄たけびを上げて答える。
「やはりそうなのじゃな。でもそれは仕方ないのじゃ。わしはお主が戦ってきたどの魔物よりも強い。そして固く頑丈なのじゃ。ではおしゃべりも飽きたからこちらから行くのじゃっ!」
言いたい事を言い終え、開始とばかりに魔法を唱える。
5センチ程の3桁を超える水滴が、わしの周りに浮かび上がる。
「それじゃ行くのじゃっ! 『水鉄砲【乱】』じゃっ!」
両手を掲げて、待機させていた魔法を発動させる。
ピピピピピピピュンッ! ――――――
ピピピピピピピュンッ! ――――――
浮かんでいた無数の水弾がパルパウに襲い掛かる。
ズドドドドドドドッ! ――――――
ズドドドドドドドッ! ――――――
『プギャァ――――ッ!!』
それを全身に喰らい、堪らず絶叫するパルパウ。
青白い体に無数の穴が開き、全身を血で染める。
「うぬ? やはり貫いたのは表皮だけで、中には届いておらぬか」
血だらけながらも、弱った様子のないパルパウ。
「深水の水圧にも堪えうるのじゃから、それは当たり前じゃったな。ぬっ!?」
今まで威嚇だけだったパルパウが攻撃を仕掛けてくる。
全身を傷をつけられたことにより、困惑よりも怒りが勝ったようだ。
ヒュン ヒュヒュンッ!
「おっと、触手は地上ではあまり動かせないのではなかったのかっ!」
バチンッ!
わしはそれを見て、慌てて駆けだす。
立っていた地面を、1本の触手が打ち付ける。
「なるほどっ! 地上ではムチの様に使うのじゃなっ! やるのじゃっ!」
引き戻した触手を見て、感心する。
水中と地上ではそれぞれ使い分けをしているのだと。
それが苦手な陸でも戦える方法なんだと。
「じゃが、そんな速度ではわしは捕まらないのじゃっ!」
襲い掛かる触手を避けながら、次なる魔法を炸裂させる隙を伺う。
「乱発がダメなら、次は――――」
『プゴォ――ッ!』
ヒュヒュヒュンッ!
「ぬっ!?」
避けながら、攻撃の時機を計るわしに更なる触手が襲ってくる。
ヒュン ヒュヒュヒュンッ!
「こ、今度は数を増やしてきおったのかっ! ぬあっ! 危ないのじゃっ!」
最初の1本から3本に、触手を巧みに扱い、パルパウはわしを追い立てる。
『プギョ――ッ!!』
「こ、これはさすがに逃げきれないのじゃっ! 『水風船』」
わしは、わしと同サイズの水の球を20出現させる。
その水の玉の表面には反射したわしが映り、本体の姿を紛らわせる。
『よし、これであ奴が他を攻撃しているうちに、デカいのをお見舞いさせてやるのじゃ』
そんなパルパウは触手を6本まで増やし、片っ端から水風船を破壊していく。
わしは更に水風船を増やしながら、強烈な一撃を入れる絶好の機会を伺う。
『今度の魔法は時間がかかるのじゃ。もう少し水遊びしておるのじゃ』
みるみるうちに、数を減らしていく水風船。
それを補充しながら、次の魔法を練る。
「よし、準備完了じゃっ! これでお主に風穴を―――― なっ!?」
ギュルッ
1本の触手が伸びてきて、わしの足首に巻き付く。
数多の水風船の間を迷いなく掻い潜り、わしを一直線に目掛けて。
「ぬおっ! まさかわしの姿ではなく、気配を追ってきたのかっ!」
そのままグッと引き寄せられ、パルパウの目前に宙づりにされる。
『プヒャ――――ッ!』
「うぬ、外れぬのじゃっ!」
足首に巻かれた触手に手を掛けるが、解ける気配がない。
ヌルヌルとしているが、ガッチリと捕まえられている。
「うぬぅ~っ!」
良く考えればそうだった。
元々パルパウは触手を伸ばして、疑似餌に魅せて相手を捕まえることが出来る。
なら、相手の姿が見えなくても、触手には相手を感じ取る気管があってもおかしくない。
「く、考えが浅かったのじゃっ! こ奴は生粋のハンターなのじゃっ!」
宙づりにされたまま、目の前のパルパウを睨みつける。
『プギャッ!』
するとそれに反応するかのように「グン」とわしを、自身より宙に釣り上げる。
そして、そのまま――――
ビュンッ!
ドガッ!
「うがぁっ!」
地面に向かって、高速で叩きつけた。
『プギャッ!』
ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ!
一度では怒りが収まらないのか、何度も地面に叩きつける。
止めを刺す為に、執拗に触手を振り回す。
「がっ!」「むがっ!」「ぐがっ!」「うごっ!」
わしは叩きつけられるたびに、苦痛に悲鳴を上げる。
ねぇねがわしの為に作ってくれた、魔法壁に叩きつけられながら。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる