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SS バタフライシスターズの慰安旅行

絶望する蝶の英雄

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『いっそげ~っ! 最速でっ! 最短でっ! 真っすぐにっ! 一直線にっ!』

 私はスキルを操作し、ウトヤの森の中に突っ込む。まるで巨大な弾丸の様に。
 森の木々や細い枝にぶつかり、辺り一面に派手に散らすが、今はそんな事を気にしてられない。


「ちょ、ちょ、ちょ、スミ姉っ! 一体どうしたのよっ!」

 透明壁スキルの内部が揺れる中、ユーアとハラミに掴まっているラブナが叫ぶ。

「どうしたも何も、あの子たちが危ないんだよっ!」
「はぁっ!? あの子たちってなによっ!」
「せっかくみんなにも会わせようと思ってたのに―――― あ、湖が見えたっ!」


 森の中を突っ切る事数十秒。
 視界がパッと開けて、青い空とそれよりも濃い、湖の水面が視界一面に広がる。


「よし、着いたっ!」

 スタッ

 みんなが乗った透明壁スキルを湖の少し手前に止める。
 そして一人飛び降り、一目散に湖畔に駆け寄る。

 そして、

「ねぇ~、みんなぁ~っ! 約束通りに私が来たよっ!」

 広大なウトヤの湖に向かって、手を頬に当て大声で叫ぶ。

 し~~~~~~ん

「ねぇ~、怖くないから出てきて~っ! もう大丈夫だからね~っ!」

 し~~~~~~ん

「わ、私の仲間も連れてきたんだよぉ~っ!」

 し~~~~~~ん

「あ、あんなにいたのに、みんな一体どこへ…………」

 湖を見渡して小さく呟く。

 つい先日まではここにいたはずなのに、今は水面が緩やかに揺れるだけ。
 所々に広がっていた、色とりどりの花の姿が見えない。


「や、やっぱりみんな、ゴナタが言ってた、この湖のぬしの魔物に――――」

 ガクンッ

 私はショックのあまり膝から倒れ両手をつく。

「ううっ……」

 もっと事前に調べていたらこんな事にはならなかった。
 恐らくゴナタが言っていた、この湖の主の餌食になったのかもしれない。

 だって、あんなにいたみんなが、全員いなくなるなんて……


 トテテッ

「スミカお姉ちゃんっ! 突然どうしたのっ!」

 膝を付き、放心状態の私の傍らにユーアがやって来る。

「スミ姉っ! あの子ってどこ?」
「お姉さま? 一体どうしたというのですか?」
「お姉ぇっ!」
「ねぇね……」

 そして、ユーアに続き、みんなも私の周りに駆け付ける。


「あ、あのさ私、みんなにも会わせたくて連れてきたんだよ。でも、みんないなくなっちゃった。きっと食べられちゃったんだ……」

 俯きながら、ポツリとその理由を話す。

「え? 食べられたっ!? それがさっき言ってたあの子なのっ!」

 ラブナがその話を聞いて驚愕する。

「うん、だってたくさん連れてきたもん。でも今はいないんだもん……」
「連れてきたって、一体誰の事よ?」
「え? それはもちろん、キューちゃんたちだよ」

 顔を上げてラブナの質問に答える。

「キューちゃん? それってどこの子なの? そもそも人間なの?」
「違うよ。キュートードのキューちゃんだよ。ラブナもこの前会ったでしょ? 私、シクロ湿原から連れてきたんだ。みんなに見せたくてさ……」

 しずかに波打つ湖に視線を移す。
 昨日はキューちゃんの花があんなに咲いていたというのに。


「はぁっ!? って、理由はわかったけど、みんなってどれくらいなのよ?」 
「100匹」
「ひゃ、100匹っ!?」

 その数を聞いて、更に驚くラブナ。
 マジマジと私の顔を見ている。


「あ、あのぉ、そのキューちゃんって誰なの? スミカお姉ちゃん」

 おずおずといった様子で、ユーアが話に加わる。
 
「う、うん、あのね、ユーア。キューちゃんはね――――」
「ユーア、キューちゃんはただのカエルの魔物よ。ただスミ姉が異常に執着してるけど。それとかなり美味しいわよ、色んな料理があってねっ!」
 
 なぜかラブナがユーアに指を立てて説明する。 
 しかもそんな食材だけな言い方って……

『う~ん……』

 もっとキューちゃんの魅力を伝える言い方ってあるよね。
 私だったら余すことなく、その可愛さを伝えられる。

 それでも、まぁ、絶品なのは認めるけど……


「美味しいの?」
「へ?」
「キューちゃんって、美味しいの? スミカお姉ちゃん」
「………………うん」

 ほら。
 ラブナがそこを強調するから、ユーアが食いついちゃったよ。
 ユーアもみんなも少しだけど食べた事あるけど。


『それにしても、みんな食べられちゃうなんて…… こんな事になるんだったら連れて来なければ良かったよ……あっちで幸せに生きてて欲しかったよ。 ごめんね、キューちゃんたち……』

 私はあの愛らしい姿を思い出して、心の中で懺悔する。
 鳴き声も仕草もあんなに可愛かった、たくさんのあの子たちに謝る。

 私のせいで、儚くて小さなたくさんの命を散らせてしまった事に。


『はぁ…………』

 あの日。
 みんなが食材集めに行く事になったあの日。

 みんなより先に出かけ、キューちゃんのいるシクロ湿原ではなく、先にノトリの街に直行した。
 その理由は、街のみんなにキューちゃんたちの生態を教えてもらう為だ。

 シクロ湿原だけしか生息出来ないかとか。
 他の水辺でも大丈夫かとか。
 気候の変化とか水質はどうとか。
 何を主食にしているのだとか。
 勝手に連れて行っていいのかとか。
 繁殖に気を付ける点はどこかとか。

 私はキューちゃんを連れてくるにあたって、色々と情報を仕入れたのだ。
 あしばり帰る亭の料理長や、お土産をもらった街の人たちに聞いて。

 
『うう、透明壁スキルに入れて、せっかく慎重に連れてきたのに。みんなにも見て欲しくて頑張ったのに…… なのにこんな結末なんて、異世界は残酷だよぉ~』


 もちろん、外敵の事は頭にあった。
 どう見ても、あの愛らしいキューちゃんたちに身を守る術はないからと。

 なので、ここの湖の一部を透明壁スキルで覆い、その中にいてもらっていた。

 ただし、水中深くまではスキルで覆ってはいなかった。
 キューちゃんだって水の中で遊ぶだろうし、窮屈な思いをさせたくなかったから。


『きっと、それが裏目に出たんだね。もっと過保護になってたらこんな事にはならなかった。いくら繁殖能力が高いって言っても、一匹残らずいなくなったら、もうダメだよね……』

 顔を上げて、ウトヤの広大な湖の水面に視線を移す。
 太陽の光が反射して、キラキラと輝いていた。

 本当だったらそこに、色鮮やかな花が咲いていたはずだ。
 可愛いキューちゃんたちがみんなで合唱をしながら、さも楽しそう。


『みんなに紹介したくて、私は一日走り回ったって言うのに…… はぁ~』

 私は人知れず、自分の迂闊さと愚かさを呪った。
 あんなに小さくて、か弱い生き物を守れなかった事に。


 そんなこんなで初めてのキャンプは、私にとって最悪な初日を迎えたのだった。


 そう思っていたんだけど――――

 ザザッ

「ん? こんなところに人間がいる。珍しい」
「え?」

 ただしそれは、森の中から現れた、一人の少女によって救われる事になる。

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