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SS バタフライシスターズの慰安旅行
出発
しおりを挟む私とユーアは目覚め始めた街の中を手を繋ぎ、談笑しながら歩く。
一般地区では朝食を作る少しの喧騒と、その香ばしい匂いが微かに漂ってくる。
商店街に入ると、お店の人たちが仕込みや開店準備で忙しなく動いている。
もう少しで、この街も本格的に動き出す時間帯だ。
「もうみんな来てるかな? お天気大丈夫かな? あと何を持って来たのかな?」
私と手を繋ぐ隣のユーアは、レストエリアを出てからずっとこの調子だ。
ニコニコと笑顔のまま、落ち尽きない様子で何度も話しかけてくる。
「まだ時間的には少し早いから大丈夫だよ。天気は予報士じゃないから私にはわからないな。あと、何を持って来たのかは、お昼の時間まで楽しみに取っておこうよ」
そわそわしているユーアを撫でながら答える。
随分と今日のキャンプを楽しみにしているようだ。
「う、うん、そうだよね。スミカお姉ちゃんでもお天気はわかりませんよね?」
青い空を見上げるユーア。
「まぁ、そうだね。でも予想する事はできるよ。もの凄くアナログな予報だけど」
「あなろぐ?」
「あ、うんとね、あまり根拠のない古い考え方みたいな事」
「うん? それってどんな事ですか? それでお天気わかるの?」
コテンと小首を傾げながら私に視線を移すユーア。
「あ~、例えばネコが顔を洗うと雨が降るって言うよね? それとクモの巣に朝露が残ってると、その日は晴れの可能性があるとか」
何となしに、昔覚えてた知識を披露してみる。
子供の頃に母親に聞いたのを思い出しながら。
「え? そうなんですかっ!? なんで?」
「うん、ネコの場合は、雨みたいな湿気が多いと、毛並みが乱れるから毛繕いするみたい。クモは水蒸気が冷やされて水に変わって、水滴がクモの巣にかかると―――― あ、もうみんな来てるね。それじゃ、急ごうか」
「え? あっ! うんっ!」
ここまで歩きながら話してるうちに、コムケを守る門が見えてきた。
そして、その詰所の脇にはシスターズのみんなの姿を見つける事が出来た。
どうやら一番遅いのは私とユーアとハラミだったようだ。
――――
「おはよぉ~、みんな。なんだ私たちが最後だったんだね」
笑顔で手を振って迎え入れてくれたみんなに挨拶する。
「おはようございますっ! お姉さまとユーアちゃんっ!」
「おはようなっ!」
「ユーア、おはっ!」
「あれ? 何かみんな随分とお洒落してきたんだね、見違えたよっ!」
ナゴタとゴナタ、そしてラブナの服装を見る。
いつもの装備ではなく、3人とも華やかな色合いの衣装に身を包んでいた。
しかも3人ともスカートが短く、白く肉感的な生足を惜しげもなく曝け出している。
「へ~、ナゴタは腕を出して涼しそうだね。袖のフリルも上品に見えても可愛いし、スカートも色合いが今の時期にぴったりだねっ!」
ノースリーブの為に、更に強調されたGランクに触れないように褒める。
「あ、あ、ありがとうございますっ! 着た甲斐がありましたっ! うふふ」
「お、お姉ぇっ! ワタシは?」
喜ぶナゴタの横では、ゴナタが自分を指差し聞いてくる。
「うん? ゴナタもスカートなんだね。いつもの活発なイメージから一気にエロ…… じゃなくて、桃色の上着も腕を出して涼しそうだねっ! その色も似合って――――」
「ス、スミ姉っ! アタシは?…………」
「あ、こら、ラブナっ! ワタシがまだっ!」
今度はゴナタの感想を言い終わる前に、ラブナがズイと前に出てくる。
気のせいか、ちょっとだけ頬が赤いけど。
そんなラブナは、白のワンピースで、胸元と腰の紐の赤色が印象的だった。
「おお~っ! いつもの真っ赤なイメージから、白く清楚なお嬢様に見えるよ。胸のリボンと腰の紐がアクセントになってて、余計に白が映えていい感じだねっ!」
「あ、ありがと…… ま、まぁ、アタシは何でも似合うから褒められても嬉しくないんだけどねっ! 一応喜んでおくけどさっ!」
そう返事して、フイと私と視線を外すラブナ。
ってか、人に聞いておいてなんでそっぽ向いてんの?
まぁ、照れてるのはわかるんだけど。元々ツンデレキャラだし。
「で、なんで、ナジメはワナイに頭下げてるの?」
何故かナゴタたちから離れて、詰所の入り口でペコペコ頭を下げている幼女を見る。
ワナイもそんなナジメに恐縮している様子で、反射的に頭を下げている。
まるで水飲み鳥みたいだ。
「う~ん、なんだかさっき聞こえた会話だと、屋根の上がどうとか言ってたなぁ」
ゴナタがナジメ達を見ながら、そう教えてくれる。
「屋根?」
「うん、屋根の上に登ったとかそんな感じだったなぁ?」
「ふ、ふ~ん……」
『屋根の上』と『ワナイ』
だったら、きっとあれで説教されてるんだよね?
『もうっ、領主が朝から何やってるんだろう。私みたいに急いでたのかな? それにしても、その格好は異世界でもまた奇抜な格好だね』
お互いにピョコピョコと頭を下げているナジメの方を見る。
その格好は小学校の入園式に着るような、白のワンピに肩から掛ける紺色のプリーツスカートを履いていた。そして黄色のメトロ帽子もセットだった。
その姿はまんま小学生だった。
※※
「じゃ、みんな揃ったね。忘れ物とかない? もう明日まで帰って来ないよ」
街を出た所で振り返り、みんなに確認する。
特にナジメの方を見ながら聞いてみる。
「わ、わしは大丈夫じゃっ! 食材は現地で採るし、着替えはマジックポーチに入っているのじゃっ! だからわしばかりに注目しないで欲しいのじゃっ!」
パタパタと手を振り、必死に弁明するナジメ。
よく見たら私以外にもみんながナジメを見ていた。
何だかんだ言って、この見た目幼女の事が気になるんだろう。
いい意味でも、悪い意味でも。
「そう、そこまで言うなら大丈夫だね。で、他のみんなは?」
「はいっ! ボクは大丈夫ですっ!」
『わうっ!』
「アタシも問題ないわっ!」
「私も家を出る前に確認したので大丈夫です」
「ワタシはナゴ姉ちゃんに見てもらったから大丈夫だなっ!」
ユーアに続いて、他のみんなも手を挙げて答える。
ナジメの様に、オドオドした様子ではなかった。
まぁ、何かあってもアイテムボックスで事足りるけどね。
「よしっ! それじゃ、初めてのピクニックにしゅっぱーつっ!」
北西を指さし、声高らかに宣言する。
これから向かうであろう、ウトヤの森を。
この世界に来て、初めてのレクリエーションを行う為に。
そして、
リアルでは一度も経験しなかった、仲間との楽しい時間を過ごす為に。
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