上 下
378 / 579
SS バタフライシスターズの慰安旅行

出発

しおりを挟む



 私とユーアは目覚め始めた街の中を手を繋ぎ、談笑しながら歩く。

 一般地区では朝食を作る少しの喧騒と、その香ばしい匂いが微かに漂ってくる。
 商店街に入ると、お店の人たちが仕込みや開店準備で忙しなく動いている。

 もう少しで、この街も本格的に動き出す時間帯だ。


「もうみんな来てるかな? お天気大丈夫かな? あと何を持って来たのかな?」

 私と手を繋ぐ隣のユーアは、レストエリアを出てからずっとこの調子だ。
 ニコニコと笑顔のまま、落ち尽きない様子で何度も話しかけてくる。


「まだ時間的には少し早いから大丈夫だよ。天気は予報士じゃないから私にはわからないな。あと、何を持って来たのかは、お昼の時間まで楽しみに取っておこうよ」

 そわそわしているユーアを撫でながら答える。
 随分と今日のキャンプを楽しみにしているようだ。


「う、うん、そうだよね。スミカお姉ちゃんでもお天気はわかりませんよね?」

 青い空を見上げるユーア。

「まぁ、そうだね。でも予想する事はできるよ。もの凄くアナログな予報だけど」
「あなろぐ?」
「あ、うんとね、あまり根拠のない古い考え方みたいな事」
「うん? それってどんな事ですか? それでお天気わかるの?」

 コテンと小首を傾げながら私に視線を移すユーア。

「あ~、例えばネコが顔を洗うと雨が降るって言うよね? それとクモの巣に朝露が残ってると、その日は晴れの可能性があるとか」

 何となしに、昔覚えてた知識を披露してみる。
 子供の頃に母親に聞いたのを思い出しながら。


「え? そうなんですかっ!? なんで?」

「うん、ネコの場合は、雨みたいな湿気が多いと、毛並みが乱れるから毛繕いするみたい。クモは水蒸気が冷やされて水に変わって、水滴がクモの巣にかかると―――― あ、もうみんな来てるね。それじゃ、急ごうか」

「え? あっ! うんっ!」

 ここまで歩きながら話してるうちに、コムケを守る門が見えてきた。
 そして、その詰所の脇にはシスターズのみんなの姿を見つける事が出来た。

 どうやら一番遅いのは私とユーアとハラミだったようだ。


――――


「おはよぉ~、みんな。なんだ私たちが最後だったんだね」

 笑顔で手を振って迎え入れてくれたみんなに挨拶する。

「おはようございますっ! お姉さまとユーアちゃんっ!」
「おはようなっ!」
「ユーア、おはっ!」

「あれ? 何かみんな随分とお洒落してきたんだね、見違えたよっ!」

 ナゴタとゴナタ、そしてラブナの服装を見る。

 いつもの装備ではなく、3人とも華やかな色合いの衣装に身を包んでいた。
 しかも3人ともスカートが短く、白く肉感的な生足を惜しげもなく曝け出している。


「へ~、ナゴタは腕を出して涼しそうだね。袖のフリルも上品に見えても可愛いし、スカートも色合いが今の時期にぴったりだねっ!」

 ノースリーブの為に、更に強調されたGランクに触れないように褒める。

「あ、あ、ありがとうございますっ! 着た甲斐がありましたっ! うふふ」
「お、お姉ぇっ! ワタシは?」

 喜ぶナゴタの横では、ゴナタが自分を指差し聞いてくる。

「うん? ゴナタもスカートなんだね。いつもの活発なイメージから一気にエロ…… じゃなくて、桃色の上着も腕を出して涼しそうだねっ! その色も似合って――――」

「ス、スミ姉っ! アタシは?…………」
「あ、こら、ラブナっ! ワタシがまだっ!」

 今度はゴナタの感想を言い終わる前に、ラブナがズイと前に出てくる。
 気のせいか、ちょっとだけ頬が赤いけど。

 そんなラブナは、白のワンピースで、胸元と腰の紐の赤色が印象的だった。


「おお~っ! いつもの真っ赤なイメージから、白く清楚なお嬢様に見えるよ。胸のリボンと腰の紐がアクセントになってて、余計に白が映えていい感じだねっ!」

「あ、ありがと…… ま、まぁ、アタシは何でも似合うから褒められても嬉しくないんだけどねっ! 一応喜んでおくけどさっ!」

 そう返事して、フイと私と視線を外すラブナ。

 ってか、人に聞いておいてなんでそっぽ向いてんの?
 まぁ、照れてるのはわかるんだけど。元々ツンデレキャラだし。


「で、なんで、ナジメはワナイに頭下げてるの?」

 何故かナゴタたちから離れて、詰所の入り口でペコペコ頭を下げている幼女を見る。
 ワナイもそんなナジメに恐縮している様子で、反射的に頭を下げている。
 まるで水飲み鳥みたいだ。


「う~ん、なんだかさっき聞こえた会話だと、屋根の上がどうとか言ってたなぁ」

 ゴナタがナジメ達を見ながら、そう教えてくれる。

「屋根?」
「うん、屋根の上に登ったとかそんな感じだったなぁ?」
「ふ、ふ~ん……」

 『屋根の上』と『ワナイ』 
 だったら、きっとあれで説教されてるんだよね?


『もうっ、領主が朝から何やってるんだろう。私みたいに急いでたのかな? それにしても、その格好は異世界でもまた奇抜な格好だね』

 お互いにピョコピョコと頭を下げているナジメの方を見る。

 その格好は小学校の入園式に着るような、白のワンピに肩から掛ける紺色のプリーツスカートを履いていた。そして黄色のメトロ帽子もセットだった。
 その姿はまんま小学生だった。


※※


「じゃ、みんな揃ったね。忘れ物とかない? もう明日まで帰って来ないよ」

 街を出た所で振り返り、みんなに確認する。
 特にナジメの方を見ながら聞いてみる。


「わ、わしは大丈夫じゃっ! 食材は現地で採るし、着替えはマジックポーチに入っているのじゃっ! だからわしばかりに注目しないで欲しいのじゃっ!」

 パタパタと手を振り、必死に弁明するナジメ。

 よく見たら私以外にもみんながナジメを見ていた。
 何だかんだ言って、この見た目幼女の事が気になるんだろう。
 いい意味でも、悪い意味でも。


「そう、そこまで言うなら大丈夫だね。で、他のみんなは?」

「はいっ! ボクは大丈夫ですっ!」
『わうっ!』
「アタシも問題ないわっ!」

「私も家を出る前に確認したので大丈夫です」
「ワタシはナゴ姉ちゃんに見てもらったから大丈夫だなっ!」

 ユーアに続いて、他のみんなも手を挙げて答える。
 ナジメの様に、オドオドした様子ではなかった。

 まぁ、何かあってもアイテムボックスで事足りるけどね。


「よしっ! それじゃ、初めてのピクニックにしゅっぱーつっ!」

 北西を指さし、声高らかに宣言する。
 これから向かうであろう、ウトヤの森を。
 この世界に来て、初めてのレクリエーションを行う為に。

 そして、

 リアルでは一度も経験しなかった、仲間との楽しい時間を過ごす為に。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

処理中です...