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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

いざ昆虫採集へ

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 『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
 『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
 『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』

 ガサガサと尻尾をもたげ、私を囲んでいくハサミ虫の魔物。

 その数は23体。

 いずれも体長は2メートルを超える巨大な虫。

 甲殻は真っ赤で、頭は真っ黒。
 胴体の裏側と足は真っ黄色で、尻尾にあるハサミは真っ青。

 どの部分もカラフル過ぎて逆に気持ち悪い。
 まるで自然から生まれ出た色ではないように。


「さあ、昆虫採集のはっじまっりだぁっ~!」

 そう張り切って声を上げるが、実際はそんなテンションではない。
 無理やりに上げてみただけだ。

 虫なんて好きこのんで見たくもないし、女性だったら普通に毛嫌いするものだ。

 私の格好も虫に近いけど、それは今は言わないで欲しい。
 だって、私の装備はあんな虫みたいに気味悪くないからだ。
 どっかのギルド長だって『蝶々の妖精』って言ってたし。


「よっと」

 シュッ
 シュッ

 まずは、両手の偽フリスビーを一番近い魔物に投擲する。

 ザザンッ

 1体のハサミの根元と胴体を裂き、もれなく3分割する。

『ギギ、ギ、ギギ』

 それでも息の根を止めるまでには至らない。
 ここから倍以上、細切れにしなくてはならないからだ。


『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』


 それを見て、他の虫たちも襲ってくる。
 ただ一度に私を襲えるほど体が小さくない。
 せいぜい一度に5匹が限界だ。


「次はそんな物騒なものちょん切っちゃおうかっ!」

 頭上に待機していた3機の偽フリスビースキルを操作して、
 襲い掛かる5匹のハサミ部分のみを切断する。

 ザザザザザンッ

『ギギギッ』 ×5

 ハサミを失った虫からは、白い体液が噴き出すが透明壁スキルで防ぐ。

「後ろにいるのも、もたもたしてると大事なところちょん切るよっ! そもそもハサミを人に向けちゃダメって習わなかったっ!」

 最初に飛ばした2機と今の3機を操作し、後列にいる残りのハサミも切断する。

 ザザザザザザザンッ――――

『ギ、ギギギギギッ――――』 ×19

「よし、これで攻撃手段の一つは全部封じたね」


『ギギギッ』『ギギギッ』『ギギギッ』
『ギギギッ』『ギギギッ』『ギギギッ』


 それでも虫たちは首を振り回したり、体当たりを仕掛けてくる。

 私はバックステップし、十メートル程距離を離す。
 
 だが、途端に距離を詰めてきてすぐさま囲まれる。

「って、足も大きいせいか、やっぱり素早いね。それでもハサミはないから怖くないかな? 足に注意すれば、後は体を刻んでいくだけだもんね」  

 ガンッ

 突進してきた3体を、地面から出した透明壁スキルで空中にカチ上げる。

「よっ!」

 タンッ

 私もそれに向かって跳躍し、偽短剣スキルで切り刻む。

 ザザザザンッ――――

 それを30片以上の塊にして、そのまま空中で回収する。

『ギギギッ』『ギギギッ』『ギギギッ』
『ギギギッ』『ギギギッ』『ギギギッ』

「おっ!」

 下では、残りの20体が着地地点に先回りし、待ち構えている。
 武器であるハサミはないけど、何でも噛み砕きそうな口顎が残っている。

「うん」

 だけど特に慌てる必要などない。

 透明壁スキルで足場を作り、更に上昇する。


「残りもバラバラにして、回収して終了だね」


 空中に立ちながら、スキル5機を偽フリスビーにし、押しよせる20体全てを、丁寧にバラバラにしていく。あまり傷つけると価値が下がりそうだからだ。

 それにしても随分と操作にも慣れてきた感じがする。


 トンッ

 空中より地面に足を付け、大量の破片を見渡すが動くものが無い。
 どうやら全滅できたみたいだ。

「ふぅ、さて次はどう動く? 子分が全てやられちゃったけど」

 虫たちを回収しながら索敵モードに切り替える。
 そこにはひと際大きなマーカーが映っている。
 平面でしか表示されないが、位置的には私が立ってるところだ。

「そろそろかな?」

 念のため足場を作り、10メートル上空に移動する。
 地響きが鳴っているので、そろそろこの真下付近に現れるはずだ。


 このハサミ虫たちを操っていたボスの魔物が。


 ズズゥ――

「っ!! きたっ!」

 ズ、ズズズバァ――――ンッ!!


『ギギギギギギギギギギィ――――ッ!!!!』


 辺り構わず轟音の類の奇声を上げながら、地面から龍の様に立ち昇る虫の魔物。
 一見すると、穴から「ヒョコ」と体を出すチンアナゴに見えなくもない。

「うわぁ~~っ! こ、これはっ!」

 ただ、あの可愛いチンアナゴはあんなに気味悪い多足ではないし、あそこまで自然を無視したカラフルな見た目ではない。それに触覚だってないし、気味悪く鳴く事もない。

 それに一番の分かりやすい違いは――――

「ま、まさかこんなに巨大だとは思わなかったよっ!」

 10メートル空中にいる私を見下ろす程のチンアナゴなんていない。
 恐らく20メートルは近い大きさだ。太さは私の身長の倍以上。


『ギギギギギギィ――――ッ!!』


「っ! ってうるさいっ!」

 黒光りする目で私を見下ろし、威嚇をする超巨大なハサミ虫の魔物。
 クワガタの顎のような口をカチカチと鳴らしている。


 そして、その巨大さよりももっと気になる事が

「やっぱり………… 来て正解だったよ」

 私はそれを見て、予想が当たってた事を確信し、複雑な気分になる。
 最後に現れた巨大な魔物の胴体に巻かれている、あるものを見て。

 それはあろうことか、サロマ村とビワの森で戦った、3体の異常な個体が身に着けていたものに酷似している。

 身の丈が通常より小さい、だが私の数倍速かったオークの魔物。
 かたや身の丈が5メートルを超える、あり得ない大きさのオーク。
 そして、超高速再生能力を持った巨大トロール。

 その規格外の3体は、全て特殊な装飾の腕輪をしていた。
 それと似たような装飾の物を、この魔物もしている。

 だから、ただの大きさだけでは強さの指標にならない。
 恐らく何かしらの能力を持っている可能性が高い。


「不死身とかは、さすがにないだろうけど、もし再生されても面倒だよね」


 未だアイテムボックスの内で保管している謎の腕輪と、私を見下ろしている魔物の身に着けてるアイテムらしいものを、見比べてそう思った。

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