上 下
190 / 579
第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

お留守番組の少女と幼女たち

しおりを挟む

※この物語は作者の創作の世界になります。
 他の作品の設定や、現実の倫理観とは
 異なる場合がありますので予めご了承ください。




 澄香たちがゴマチの父親アマジと邂逅している一方。

 レストエリアではこの騒動の渦中の人物

 ゴマチが目を覚ましていた。


「う~ん、あれ?俺はまた何で……」

「あ、ゴマチちゃん目が覚めたんだねっ!大丈夫?」
「おお、ゴマチっ!わしを覚えておるか?ナジメじゃ。お主大丈夫か?」
「あんた何でユーアを襲ったのよっ!ユーアがいくら大丈夫だって言っても信じられないわっ!ねえ?どうなのっ!!それと体はっ?」

 ゴマチは起き上がりキョロキョロを周りを見回す。

 そんなゴマチに、ユーアとナジメとラブナは一様に声を掛ける。

 ユーアは体への心配を、ナジメは自身の状況確認を、ラブナはユーアを襲った件での憤りを、それぞれをゴマチにぶつけていた。

 各々の気持ちはそれぞれ違ってはいたが、

 ゴマチへの気遣いは一緒だった。

 それはユーアから、ゴマチが再度気を失った事を聞いたのと。
 それとゴマチの境遇と、ユーアがゴマチに対して何も危惧していない事が誘因となっていた。


「へ?あ、な、何でナジメ?それとお前は…………だ、誰だっ!?」

 ゴマチは最初にユーアそしてナジメを視界に入れ、最後のラブナで視線を停止する。その目は驚きよりも怯える目に近かったが。

 だってそれはそうだろう。

 ユーアとナジメはゴマチに寄り添うようにしているのに対して、

「ワタシの事はどうだっていいのよっ!それよりも質問に答えなさいよっ!」

 と、ビッと指を突き付けての、いつもの仁王立ちスタイルであったからだ。

「な、何だいきなりお前はっ!!」

「何だ、じゃないわよっ!さっさと質問に答えなさいっ!じゃないとワタシの魔法が炸裂するわよっ!そのキレイな顔が焼け焦げるわよっ!」

 そんなゴマチに怒りを露わにするラブナ。

「ちょ、ちょっとラブナちゃん止めてよぉっ!」

「ラブナ、ユーアが大丈夫じゃと言っておったろう?だから矛を収めるのじゃ。色々聞きたい事があるのじゃからな」

「ふんっ わかったわよっ!」

 ユーアとナジメの制止の声でラブナは表情を崩したが、それでもゴマチを見る視線は鋭かった。ユーアの言うことを信じてはいたが、それと感情は別だった。


「ま、魔法? 赤い姉ちゃんは魔法を使えるのかっ!?」

 怯えの表情から一転、ゴマチはラブナの「ワタシの魔法発言」に興味を示す。

「わ、悪いっ?それと赤い姉ちゃんって何よっ!」
「だって、コートも髪も赤いだろ?それよりも魔法の事だよっ!」
「ワ、ワタシは魔法使いなのよっ!ってそれよりあんた―――」
「って事は赤い姉ちゃんも――――」
「わ、わかったからいちいち近いのよっ!もっと離れなさいよっ!」
「ぼ、冒険者なのか?ユーアやナジメと一緒の!」
「そ、そうよっ!まだなり立てだけどっ!!ってそれよりいい加減――」

 何故か立場が逆転してしまい、グイグイと迫るゴマチに困惑するラブナ。

「ラブナちゃんもう仲良くなったんだねっ!」
「うむ。うむ」

 どうやらナジメの情報通りに、ゴマチは冒険者に憧れてるみたいだ。

「ち、違うわよユーアこの子が勝手にっ!ワタシはユーアとスミ姉ぇを」
「赤い姉ちゃんっ!魔法見せてくれよっ!お願いだよっ!!」

 それも魔法使いに対して、非常に興味があるようだった。



※※※※


「なるほどのぉ。お主の祖父のロアジムを救った冒険者が、凄腕の魔法使いじゃったと。しかもお主ぐらいの年齢か、若しくは更に幼い少女じゃったとは。ふむぅ。いや、でも、しかし――」

 ゴマチの話を聞き終えたナジメが、胸の前で腕を組み何やら唸っている。
 
「ナジメはその魔法使いの冒険者知ってるの?Aランクらしいけど」

 それを見てラブナがナジメに声を掛ける。

「そうじゃな。直接会ったことはないが、Aランクの幼い魔法使いがいるとは聞いておる。しかしそれを知ったのはここ数年じゃぞ?恐らくロアジムの話は十数年は前の話じゃ。じゃからわしが思いついた冒険者とは別人じゃな。とうに成人しておるじゃろうし」

「ふーんそうなんだ。それじゃ別人じゃない?」

 それに対し、ラブナはさほど興味がなさそうに答える。
 何となく、会話の流れの成り行きで聞いただけのようだった。

「まぁ、確実にそうじゃろうな。それよりも今は――」
「そうね、そんな事は今はどうでもいいでしょ。それよりも――」
 
 そんなラブナの返しにナジメも特に気にすることなく、二人の視線は小さい少女二人に向けられる。それはもちろん……

「それじゃゴマチちゃんも冒険者になりたいんだっ!」
「うん、そうなんだよっ!でも親父がうるさいんだよっ!俺の事興味ないくせにそれだけは口出ししてくるんだよっ!」
「お父さんが、何で?」
「それは多分、死んだ母ちゃんが関係してるんだと思う。親父はハッキリ言わないけど……。じゃなきゃあんな――――」

 そう言いゴマチはそっぽを向き小さな拳を強く握る。

 それを見れば、両親、そして冒険者に対しても何か思うところがあると分かる。拳だけじゃなく、口元にも小さな肩にも力が入っているからだ。

「ゴマチちゃん……」

「それよりもお主。反省が足らんのじゃないか?」
「そうよっ!ゴマチだっけ?ユーアにもっと謝んなさいよねっ!」

 そんな心配をするユーアを他所に声を荒げる、見た目幼女と赤い少女。

「う、それは……ごめん……なさい……うううっ」

「そんなんじゃ足りないわっ!全裸で土下座くらいしなさいよねっ!それでチャラにしてあげるわっ!!」

「は、裸で、土下座だってっ!?俺がか?」

「それぐらい当たり前じゃないっ!ワタシのユーアを危険な目に合わせたんだから。それにスミ姉もそう言ってたわよねっ?ユーア!」

「うっ、あの蝶の姉ちゃんが……ぐ、うううっ、な、なら」

 ラブナに煽られたゴマチは、それを聞いてパジャマの裾を捲り上げる。
 白いお腹と小さなおへそがチラリと見える。

「ラブナちゃんっ!スミカお姉ちゃんはそんな事言わないよぉっ!だからもう止めなよぉっ!仲良くしてよさっきみたいにっ!」

「そうじゃぞラブナ。ねぇねが留守なのとゴマチが気を失ってたのを良い事に、適当な事を言うでない。それにねぇねの話じゃと、襲った男たちはユーアを連れさらうだけの依頼だったではないか。それもゴマチの話とも一致しておる」

「でもそれじゃワタシの気が晴れ――――」

「じゃから危険だったとしても、ユーアがゴマチの話し相手になるだけの事だったのじゃ。やり方は不器用を通り越して、強引過ぎる気もするがのう」

「わ、わかったわよっ!今のはワタシの気が済まなかっただけの事なのよっ!だ、だからユーアもそんな目でワタシを見ないでよぉ!」

 被害者のユーア当人とナジメにも言われたラブナは、ユーアの頬が「ぷくぅ」と膨らんでいる事に気付き慌てる。それは珍しくボクっ娘が怒っているからだった。



※※※


 何のことはない。

 この俺っ娘少女は冒険者のユーアと仲良くしたかっただけだった。
 大好きな祖父からユーアの話を聞いて。

 その激しい性格故、近い年頃の子供も、ましてや友人と呼べる者もいなかったこの少女は、友達になる方法など知らなかった。

 この騒動の発端は、そんなコミュ章の少女から始まった出来事だった。

 ただその火種が大きくなっている事に、この4人はまだ知らなかった。

「ただいま。ユーア。あれ?ゴマチ起きたんだ」
「お邪魔しますユーアちゃん。それとゴマチさん?」
「こんばんはだなっ!ユーアちゃん。それとゴマチっ?」


 そして戻って来た澄香たちの話を聞いた4人は炎上した事の大きさに驚くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...