上 下
109 / 579
第8蝶 ちょうちょの英雄編2

帰って来たよっ!

しおりを挟む



「ふぃ~、やっと街に入れたよ」


 私たち6人と、シルバーウルフのハラミはなんとか街に入る事が出来た。


 ナゴタとゴナタ姉妹は、元々街へは入れないわけではなかったから、そこは問題なかった。ただこの後が色々と面倒だけど。

 そして一番の懸念材料だったのは魔物の『ハラミ』だ。

 正直無理だと思っていたから、最悪、防具の透明鱗粉で姿を隠して、不法に街に入ろうかなと算段していたけど。

 そこで我らが頭脳担当の、クレハンの出番だった。


 特別な例であれば、街へ魔物を入れること自体禁止ではないらしい。
 ただそれが普通の魔物であれば、もちろん入街は出来ないが。

 その入街出来る特別な例が『魔物使い』と呼ばれる職業だ。
 ゲーム風に言うと「モンスターテイマー」っといったところだ。

 ユーアとハラミはそれに当てはまると、クレハンがワナイに説明し、その証拠にハラミとある程度、意志疎通ができるユーアがハラミを操ってみせた。


「ハラミっ! お座りっ!」
『わうっ』

 スサッ

「ハラミっ! お手だよっ!」
『わうっ』

 ポスッ

「ハラミっ! ごろんっ!」
『わうっ』

 ゴロンッ


 から始まり、

「ハラミっ!ボクを乗せてジャンプねっ!」
『わうっ!』

 ピョンッ!


「「「おおっ――――!!!!」」」
  
 パチパチパチッ


「今度は、ボクとスミカお姉ちゃんを乗せて宙返りねっ!」
『わうっ!!』

「えっ、私っ!?」

 クルンッ!

 スタッ!


「「「おおっ――――!!!!」」」

 パチパチッパチパチッ


「ハラミっ! ワナイさんとスミカお姉ちゃんを乗せて後方宙返りねっ!」
『わうっ!!』

「お、オレもっ!?」

 グルンッ!

「おわっ!?」

 シュタンッ!



「「「うおおっ~~~~~~~~!!!!」」」

 パチパチパチッ! パチパチパチッ!
 パチパチパチッ! パチパチパチッ!
 パチパチパチッ! パチパチパチッ!


 
「あ、ありがとうね、みんなっ! えへへっ」


 てな感じで、
 ワナイも巻き込んで、ハラミの危険性が無いって証明された。
 最後の方は、なんか曲芸になってた気がするけど。


「ハラミ、良くできたねっ! はいこれお肉っ!」
『わう~~っ!!』 ぺろぺろ。
「うふふっくすぐったいよっ! ハラミっ! あはははっ!」


 そんなユーアとハラミのやり取りを見て、誰も危険な魔物だなんて、思わないだろう。集まっている大勢のギャラリーも、暖かい目でユーアとハラミのじゃれ合いを見ていた。


「さあ、これでわかりましたね? ワナイさん。ユーアさんが連れている魔物に害はないと。彼女は高レベルの『魔物使い』としてギルドで登録いたします。従魔の首輪はこちらで用意するので、ご安心を。それと、スミカさんとナゴタとゴナタ姉妹の件なのですが、ごにょごにょ――――」


 と、そんな感じで、ユーアとハラミのパフォーマンスと、クレハンの謎の交渉で、私たちは街の中に入ることが出来た。


※※


「ふぁ~、やっと帰ってきたよっ! なんか落ち着くなぁ」


 たった二日間の冒険だったけど、見慣れた街並みを見てちょっと安心する。


 時間にしたら昨日の午後に出発して、今日の午前中に帰ってきただけなんだけど。オークから始まり、トロール討伐まで色々あったなって思い出す。

 ナゴナタ姉妹の件もハラミの件も。

 それと、

 あの『未知の腕輪』の存在の事も。


「どうするスミカ嬢ッ。一度ギルドに寄るのか? こっちとしては、ナゴタゴナタ姉妹の件も、報酬の件も明日で構わねえんだけどよォ」

「う~~ん」

 ルーギルの問いかけに、ユーアとハラミ、そして姉妹の二人を見る。
 心なしか表情に硬さが見られる。

 ユーアにしても初めての戦闘だし、ハラミとの出会いでも色々と気疲れもある。
 姉妹にしても、数々の戦闘と長旅と、街への懸念事項もあるだろう。


「ルーギル。私たちは今日は帰るね? 色々疲れちゃったし」

 そんな3人を見てからそう答える。

「そうかァ? 今日はそれがいいかもなァ。わかった。それじゃ明日の夕方に来てくれ。その方が人が揃ってんから、手っ取り早いだろッ」

 私の視線の先を見て見て、ルーギルもそう答える。


「なんか色々悪いね」

「気にすんなッ! 俺も色々知っちまったし、俺が手を出せる範囲でなんとかすっから心配すんなァッ! それに俺たちはパーティーの仲間だろう? 『バタフライシスターズ』のよォッ!」

「はあっ??」

 途中まで良い事を言っていたルーギルだったが、最後の言葉だけは聞き捨てならなかった。仲間は仲間だろうけど。

 それは…………


「ルーギルはパーティーメンバーには入ってないよ?」
「ルーギルさんは、シスターズの一員じゃないですよ?」
「一体あなたは何を狂った事を言っているのですか? ルーギル」
「それはお前の勘違いだぞっ! ルーギルっ!」


 それは現バタフライシスターズのメンバー全員によって否定された。

 ていうか、そのパーティー名で決定なんだろうか?

「オ、オゥッ! そ、そうか、俺の勘違いだったかァ。そ、そっかァ……」

 ちょっと寂しそうに頭を掻いていた。


「ルーギル、そもそもシスターズって、姉妹とかの呼び名なんだよ。ルーギルは男だからシスターズではないけど、れっきとした私たちの仲間だよ。それとクレハンもね?」

 肩を落とすルーギルにそう付け足す。
 二人とも共に戦い、街を脅威から救った仲間だから。


「そ、そっかッ! 俺もクレハンもパーティーの一員かッ! オ、オウッ! 良かったなクレハン! お前もだぜッ、わっははッ!」

 バン バンッ

 それを聞いたルーギルは、破顔しながらクレハンの背中を叩く。

「い、痛いですからっ! 余り背中を叩かないで下さいよギルド長っ! でも、そうですかっ! わたしも仲間ですかっ! ふふふっ!」


 仲間宣言を聞いた二人は、お互いに顔を見合わせ笑顔になる。


 二人はどう思っていたのかはわからないけど、私はこの旅の途中で仲間にすると決めていた。
 この二人は信用も信頼も出来る数少ない存在だ。
 
 それにこれ以降でも、色々と一緒に行動する事もあるだろうし、
 頼りにさせてもらう事もあるだろう。

 今はまだ薄っすらとだけど、他にもやりたい事が見付かったし。

 って、いうか、この二人はそのやりたい事に欲しい人材なんだけどね? 
 それはここだけの話で、もっと先の話だけど。



「それじゃ、私たちは帰るね。明日はよろしくね。二人とも」
「ルーギルさんとクレハンさん、お世話になりましたっ!」

「明日は私たち姉妹の事をよろしくお願いします。二人とも」
「それじゃ、また明日なっ! ルーギルとクレハンっ!」

 家路に足を運びながら、今日冒険した二人にお別れをする。


「オウッ! なら俺たちも帰るとするかッ! まぁ、ギルドにだけどよォ! それじゃシスターズたち、今回は楽しかったぜッ! また明日なッ!」

「シスターズのみなさん。今回はいい経験をさせていただきました。また一緒に冒険したいですね。わたしも仲間ですから。それでは失礼いたします」


 私たちは女性陣と男性陣に別れ、それぞれに挨拶をして違う方向に歩んで行く。
 ルーギルたちは冒険者ギルドへ、私たちはいつもの孤児院の裏へ。

 
 今は歩く方向は違うけれど、それぞれの想いの進む方向は一緒。


 これからもそうあって欲しいと、みんなの背中を見渡して、そう思った。



※※

 
 その頃、孤児院裏の雑木林の奥では―――――


「はぁっ、はぁっ、はぁっ―― ふぅっ」

 バタンッ

 アタシは火照った体を冷やすため、短い草の上に倒れ込み、そして呼吸を整える。


「ふぅ~ 自己流だけど、随分とサマになってきた気がするわっ! もしかしてアタシって天才っ!? っじゃなくて、この力のせいだわっ! でもこれを使いこなすアタシってやっぱり天才かもっ! これなら間に合うわっ!」

 空を見上げ、独りそう叫んで、胸に掛けている薄い布に入ったカードを手にする。

 そこにはこう記されていた。


 『名前 ??? 冒険者ランクF 職業 ???』


 それは午前中に冒険者ギルドで取得してきたものだ。
 アタシが正式な冒険者だと証明するカードだ。


「これならアタシも戦えるわっ! あの子と肩を並べて冒険できるわっ!」

 手に持ったカードをニヤニヤしながら眺める。


 だってこれがあれば、大手を振ってあの子に恩返しができるんだから。



※※



 更に一方、コムケの街から十数キロ離れた森の中では、


「ううむっ、久し振りじゃから、迷ったのじゃっ。なんで街道を歩いておったのに、森の中におるのじゃ? やはり付き添いを頼めばよかったかのぉ?」


 わしは、気付いたら森の中を彷徨っていた。
 周りを見渡してもここが何処だか、ましてや方向さえわからない。


「はぁ、これではコムケの街に着くのは夜になってしまうかもじゃ。だったらここで野宿でもした方がええかもしれぬなぁ?」

 わしはもう諦めて、野営できそうな場所を探すことにした。


「こ、今度は、川が何処にあるかもわからないのじゃっ! わしは一体どこに行けばいいのじゃっ? やはり一人では無理があったのじゃっ! もう、ここでいいのじゃっ! 『土倉』」

 わしは短く呪文を紡いで、土のドームを作り中に入る。

 ついでに、その周りにも土で出来た壁を作成する。
 要は簡易的な防壁みたいなものだ。


「ふむ、高さは10メートルもあれば足りるじゃろ? それにしても、冒険者を止めてこの仕事を選んだのは失敗じゃったな。やるべきではなかったのぉ。領主になるなんて。はぁ―――――」

 わしは懐かしい冒険者時代を思い出して、自然と愚痴が出てしまう。

 更に続けて、こうも思う。

「戻りたいのぉ、Aランクだった冒険者時代に」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...